| 事件番号 | 令和6年(あ)第536号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2024-12-17 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 犯罪で得た財産を自分の他の財産と一緒に他人名義の口座へ入れた人が、その口座に生じた貯金債権を丸ごと没収された
- 争点は、犯罪収益に相当する額を超えて財産全体を没収できるとする組織的犯罪処罰法13条1項6号が、財産権を保障した憲法29条に違反しないか
- 最高裁第三小法廷は裁判官全員一致で「違反しない」と判断し、上告を棄却した
何があったのか
問われたのは、商標法違反と、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)違反、犯罪による収益の移転防止に関する法律違反の各事件である。
判決が前提とした事実関係はこうだ。被告人は、財産上不正な利益を得る目的で商標法違反の犯罪行為を行い、それによって得た財産等を、自分の他の財産と一緒に、自ら管理する他人名義の銀行口座に預け入れた。組織的犯罪処罰法10条は、犯罪収益の取得について事実を仮装したり、犯罪収益を隠したりする行為そのものを処罰している。この入金がその「仮装」にあたるとされ、入金によって生じた貯金債権が没収の対象になった。
原審は広島高等裁判所岡山支部(2024年3月25日判決)で、被告人側がこれを不服として上告した。
なお、この事件に適用されたのは2022年(令和4年)の改正前の条文である。この点は後述する。
何が争われたのか
弁護人はまず、組織的犯罪処罰法13条1項5号が、正当な経済活動によって得た財産まで没収できるとしている点で憲法29条に違反する、と主張した。
ところが最高裁は、この貯金債権の没収に適用されるのは、原判決が指摘するとおり5号ではなく13条1項6号だと整理した。そのうえで弁護人の主張を、6号が違憲だという趣旨だと読み替えている。
こうして争点は次の形に絞られた。犯罪収益や犯罪収益に由来する財産の額に相当する部分を超えて、10条の犯罪行為により生じた財産全体を没収できるとする13条1項6号は、憲法29条に違反するか。
「汚れたお金」と「きれいなお金」が混ざってしまった口座について、混ざった残高の全部を国が取り上げてよいのか、という問いである。
裁判所はどう判断したか
最高裁はまず、法律の目的を確認した。犯罪による収益は組織的な犯罪を助長し、それを用いた事業活動への干渉は健全な経済活動に重大な悪影響を与える。そこで、犯罪による収益の隠匿等を処罰するとともに、収益を的確に取り上げられるようにするための没収・追徴の特例を定めたのがこの法律だ、という位置づけである。
次に10条の趣旨を説明する。犯罪収益とその元になった犯罪との関係を隠す行為は、将来の犯罪活動に再投資されたり、合法的な経済活動に悪影響を及ぼしたりするおそれのある財産の保持・運用を容易にする。だから、その行為自体の反社会性・法益侵害性に着目して処罰している。
重要なのはここからだ。犯罪収益やそれに由来する財産が含まれている限り、そうしたおそれがあることに変わりはない。だから、犯罪収益とそれ以外の財産が混ざり合った財産について取得の事実を仮装したり隠匿したりした場合には、
その財産全体について仮装又は隠匿の罪が成立する
とされている。犯罪が成立する範囲自体が、混ざった財産の全体に及ぶという理解である。
その前提に立てば、10条の犯罪行為に関わる財産を広く没収の対象とすることは、この行為を予防・禁圧し、危険な財産を的確に取り上げるという法律の目的を達成するために
必要かつ合理的な措置
といえる。したがって、
法13条1項6号の規定は、憲法29条に違反しない
というのが結論である。最高裁は、この結論が過去の大法廷判決(1957年・1964年)の趣旨から明らかだとも述べている。
その他の上告趣意については、憲法違反をいうものの実質は法令違反・量刑不当の主張であって刑事訴訟法405条の上告理由にあたらないとして、上告は棄却された。
この判決の意味
没収と聞くと、犯罪で儲けた分だけを取り上げる制度だと想像しやすい。この判決は、そうではない場面があることを最高裁が正面から合憲だと認めたものといえる。犯罪収益を自分の他の資金と混ぜて口座に入れる行為は、それ自体が処罰の対象であり、混ざった財産の全体が犯罪の客体になる。だから、もともと問題のなかったお金の分も含めて没収の対象になりうる、という筋道である。
ただし13条1項は、対象となる財産を「没収することができる」と定めている。裁判所の判断によって没収するかどうかが決まる任意的没収であり、条文にあたるものが自動的に全額没収される仕組みではない。
適用された条文についても補足しておきたい。判示事項・裁判要旨・参照法条のいずれにも、10条と13条1項6号については令和4年法律第97号による改正前のものだと明記されている。この2022年の改正では、犯罪収益等を隠す罪の法定刑が引き上げられ、犯罪収益等として没収できる財産の範囲も広げられた。本記事が解説しているのは、あくまで改正前の条文についての判断である。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。