| 事件番号 | 令和5年(行ヒ)第430号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 2024-12-16 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 米兵2人による強盗傷害事件の被害者の遺族が、確定判決で認められた額と米側が支払った慰謝料との差額を、国のSACO見舞金として求めた
- 最高裁は、見舞金を支給する合意が成立していない以上、遺族に支給を受ける権利はなく、国は国家賠償法上の責任を負わないとして上告を棄却した
- 裁判長を務めた三浦守裁判官は、結論には賛成しつつ、確定判決の遅延損害金を見舞金の対象から外す取扱いは不合理だとする意見を付けた
何があったのか
2008年(平成20年)1月、米海兵隊に所属する兵2名による強盗傷害事件が起き、被害に遭った男性はその後、がんにより亡くなりました。報道では、被害者は客として乗せた米兵に襲われたタクシー運転手だったと伝えられています。
男性の相続人である遺族は、この米兵2人を被告として、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを那覇地方裁判所沖縄支部に起こしました。2018年(平成30年)7月、同裁判所は損害金の元金と、事件の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を命じる判決を言い渡し、判決は同じ月に確定します。
その後、遺族は、加害者である米兵2人と米国政府・その職員らを永久に免責する旨を記載した示談書を提出したうえで、米国から慰謝料として146万円余の支払を受けました。
そして沖縄防衛局長に対し、SACO見舞金の申請をします。求めたのは、確定判決の損害金元金と確定遅延損害金の合計額から、この慰謝料を差し引いた2496万円余でした。
これに対する沖縄防衛局長の回答は1591万円余。損害金元金から慰謝料を引いた額であって、遅延損害金は入っていません。あわせて、所定の様式によるSACO見舞金受諾書を提出するよう求められました。この受諾書は、その金額を受け取ることを受諾し、今後いかなる申立てもしないことを約束する、という内容のものです。
遺族は受諾書を提出しておらず、見舞金を支給する合意は成立していません。裁判長の意見によれば、元金は1737万円余、確定遅延損害金は905万円余。つまり遺族は、905万円余の遅延損害金の補填を求めないと約束すれば1591万円余を受け取れる、という位置に置かれていたことになります。
SACO見舞金という仕組み
日米地位協定18条6項は、米軍の構成員が公務執行中以外に日本国内で起こした不法行為による損害について、米側の当局が慰謝料の支払を申し出るかどうか、申し出る場合はいくらにするかを決める、と定めています。
1996年(平成8年)12月にまとめられたSACO(沖縄に関する特別行動委員会)の最終報告には、この米側の支払額が裁判所の確定判決の額に満たない場合、日本政府が必要に応じて差額を埋める支払を行うよう努力する、という内容が盛り込まれました。これを受けた防衛省の局長通知で、差額を上限とする見舞金(SACO見舞金)を支給できることとされましたが、同じ通知で、遅延損害金と訴訟費用は支給の対象としないことも定められています。
何が争われたのか
遺族は国に対し、受諾書を提出しないことを理由に沖縄防衛局長がSACO見舞金の支払手続をとらなかったことは国家賠償法1条1項の適用上違法だと主張し、元金と慰謝料の差額に相当する額の損害賠償などを求めました。
つまり、見舞金そのものを請求するのではなく、支払手続をとらないという国の対応が違法だとして、その賠償を求めるという組み立てです。
裁判所はどう判断したか
最高裁第二小法廷は2024年12月16日、上告を棄却しました。
多数意見の理由はごく短いものです。遺族と国との間でSACO見舞金を支給する旨の合意は成立していないのだから、
上告人らはSACO見舞金の支給を受ける権利を有するものということはできない
そのうえで、ほかに遺族の権利や法律上保護される利益が侵害されたといえる事情も見当たらないとして、国は国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負わない、と結論づけました。同じ判断をした原審(福岡高等裁判所那覇支部)は正当として是認されています。なお、その余の請求に関する上告は、上告受理の決定で申立ての理由が排除されたため棄却されました。
ここで押さえておきたいのは、多数意見が遅延損害金を対象から外す取扱いが妥当かどうかには立ち入っていないことです。判断の軸はあくまで、支給の合意があったかどうかに置かれています。
裁判長が付けた意見
裁判長を務めた三浦守裁判官は、結論には賛成しつつ、別の筋道を示す意見を述べました。
まず指摘したのは、SACO最終報告にも1996年の閣議決定にも、日本政府が埋める差額から遅延損害金を除く旨の記載はない、という点です。不法行為による損害賠償債務は損害の発生と同時に遅滞に陥り、確定判決を得るまでには相当の期間がかかる以上、確定判決の額が遅延損害金を殊更に除くものとは解されない、としています。そして防衛省の通知が遅延損害金を対象外としたことについて、SACO最終報告と閣議決定の趣旨に反するとしたうえで、
被害者等の正当な権利の実現を損なう不合理なものというべきである
この事案では、事件の発生から10年余を経てようやく確定判決を得たのに、米側の支払は元金の1割にも満たず、しかもそれは何ら義務を履行しない加害者への一切の免責を条件とするものでした。それでも遺族は、長年分の遅延損害金についての正当な権利を諦め、加害者を免責したうえでなければ元金の補填を受けられない立場に置かれている——三浦裁判官は、これは私人間の権利義務関係について公権力が司法判断の意義を損なう取扱いをするものであり、公平かつ公正な被害者救済の理念に反すると評価しました。
そして、支給しないことは信義則上の義務に違反し、遺族が支給を受けるべき法的利益を害する、としています。
ただし結論は多数意見と同じです。沖縄防衛局長の事務処理は通知や事務連絡に従ったものであること、支給の内容等を具体的に規律する法律がないこと、この取扱いの適法性について裁判所の判断が示されていなかったことなどを考慮すると、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさずに漫然と行ったとまでは認め難い。したがって国家賠償法1条1項の違法があるとまではいい難い、という運びです。
意見は最後に制度そのものへ向かいます。米軍基地が集中する沖縄県の住民の負担を軽減することは国政の重要な課題だとしたうえで、
制度の基本的な在り方が問われる
この判決の意味
この判決で確定したのは、支給の合意が成立していない以上、見舞金の支給を受ける権利はなく、支払手続をとらなかったことについて国は賠償責任を負わない、という点までです。遅延損害金を除外する制度の中身が適法かどうかは、多数意見の判断の対象になっていません。
裁判長の意見によれば、SACO見舞金の支給は法律の規定を根拠とする仕組みではなく、申請者との間の個別の契約に基づくものと整理されます。ただし純粋な私経済作用ではなく、閣議決定に基づく行政上の仕組みの下で行われるものだ、とも述べられています。法律の根拠がない給付であることが、この事件で遺族が置かれた状況の背景にあると読めます。
裁判所が違法とまでは言えないとした一方で、その判断に加わった裁判長自身が、制度の設計に疑問を残す意見を付けた——救済の中身を変えるかどうかは裁判所ではなく政府側の判断に委ねられている、という構図がはっきり出た判決といえます。
なお、本記事で触れた遅延損害金の取扱いは、判決の時点(2024年12月)における防衛省の通知に基づくものです。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。