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裁判員の死刑判決を覆した無期懲役、最高裁はなぜ維持したのか

事件番号令和5年(あ)第292号
裁判所最高裁判所第一小法廷
判決日2024-05-27
通称三春町ひき逃げ殺人事件
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 盗んだトラックで歩行者2人を故意にはねて殺害した事件で、一審の裁判員裁判は死刑、二審の高等裁判所は無期懲役としました。検察官は死刑を求めて最高裁に上告しました。
  • 最高裁は上告を退け、無期懲役とした二審の判断を維持しました。裁判官5人全員一致の決定です。
  • 刑事責任は「誠に重い」としつつも、殺害そのものを目的とした綿密な計画や準備があったとはいえない点などから、死刑がやむを得ないとまではいえないと述べています。
目次

何があったのか

報道によると、この事件は2020年5月31日の朝、福島県で起きました。刑務所を出所して間もない男が、郡山市でトラックを盗んで無免許で運転し、三春町の国道沿いで清掃活動をしていた男女2人をはねて殺害し、救護も通報もしないまま走り去りました。一般に「三春町ひき逃げ殺人事件」と呼ばれています。

最高裁の決定は、事件の経緯を次のようにまとめています。服役を終えたばかりの被告人は、新しい人間関係やなじみのない土地、経験のない仕事への不安から、罪を犯して刑務所に戻りたいと考えるようになりました。そして、長く刑務所にいるためにトラックを2人くらいに衝突させて逃げようと考えるに至り、トラックを盗んで無免許運転し、殺意をもって向かいから歩いてきた2人に衝突させて殺害した、というものです。

罪名は窃盗、道路交通法違反、殺人です。

何が争われたのか

一審の福島地方裁判所郡山支部は、2021年6月24日、裁判員裁判で求刑どおり死刑を言い渡しました。ところが控訴審の仙台高等裁判所は、2023年2月16日、一審の死刑判決を量刑不当として破棄し、無期懲役を言い渡しました。

これに対して検察官が最高裁に上告しました。争点は、この事件で死刑を選ばず無期懲役とした高裁の量刑判断が許されるかどうかです。

ここで押さえておきたいのは、最高裁に上告できる理由は法律で限られているという点です。刑事事件では、憲法違反や判例違反などが上告理由とされていて、単に「刑が重すぎる・軽すぎる」という主張は、それだけでは上告理由になりません。ただし最高裁は、刑の重さが著しく不当で、そのままにしておくと正義に反すると判断した場合には、自らの判断で原判決を取り消すことができます(刑事訴訟法411条)。

裁判所はどう判断したか

最高裁はまず、検察官の上告の趣旨は判例違反をいう部分も含めて実質的には量刑不当の主張であり、上告理由に当たらないとしました。そのうえで、記録を調べても、職権で高裁判決を取り消すべき事情は認められないと結論づけています。

ただ、この決定はそこで終わらず、死刑を選ぶかどうかについての考え方を「付言」という形で詳しく述べています。

刑事責任は「誠に重い」

最高裁は、まず事件の悪質さをはっきり指摘しています。

罪を犯して刑務所に戻りたいなどという動機は極めて身勝手かつ自己中心的

このうえ、他人の命を奪う犯罪を手段に選んだことは生命軽視の度合いが大きいこと、無防備な歩行者にトラックを加速させながら衝突させた態様は危険性が高く殺意は明白であること、落ち度のない2人の命を理不尽に奪った結果は重大で、遺族の処罰感情が厳しいのも当然であることを挙げました。そして、本件は死刑を選ぶことの当否を検討すべき事案だと述べています。

それでも死刑を選ばなかった理由

一方で最高裁は、「死刑は究極の刑罰であり、その適用は慎重に行わなければならない」という観点と、ほかの事件との公平性を確保する観点を踏まえる必要があるとしました。

そのうえで、この事件について次のような事情を重視しています。

  • 被告人は、トラックを盗んで2人くらいの歩行者に衝突させて逃げるという漠然とした計画は立てていたが、それ以上に、確実に殺害することを狙って具体的な犯行を想定し準備していたとは認められない
  • 実際の犯行も、向かいから歩いてきた2人を一度にはねた後、そのまま走り去るというものだった

こうした点から、最高裁は、この事件は殺害そのものを目的として意欲し、綿密な計画や周到な準備に基づいて確実に殺害を遂げようとした犯行とはいえず、生命軽視の度合いが甚だしく顕著だったとまではいえない、と評価しました。

結論として、2人の殺害を含む事件で刑事責任は誠に重いとしながらも、犯情を総合的に評価すると「死刑を選択することが真にやむを得ないとまではいい難い」と述べ、無期懲役とした高裁判決が著しく不当とはいえないと判断しました。

この判決の意味

この決定のポイントは、裁判員裁判が出した死刑判決を高裁が覆し、その判断を最高裁が支持したという点にあります。

裁判員制度は、市民の感覚を刑事裁判に反映させるための仕組みです。一方で最高裁は、死刑という取り返しのつかない刑罰については、慎重さとほかの事件との公平性を強調しました。裁判員裁判の死刑判決が控訴審で破棄される例は過去にもあり、そのたびに市民の判断と職業裁判官の判断の関係が議論されてきました。今回の決定も、その流れの中に位置づけられるものです。

また、最高裁が死刑かどうかを分ける事情として具体的に挙げたのは、殺害そのものが目的だったか、綿密な計画や周到な準備があったか、殺害を確実に遂げようとしたか、といった点でした。被害者が2人という重大な結果があり、動機も身勝手だと厳しく非難しながら、なお死刑を選ばなかったという判断の過程が示されています。

ただし、これはあくまでこの事件の具体的な事情を前提にした判断です。死刑を選ぶかどうかは事件ごとの事情を総合して判断されるもので、この決定が一律の基準を定めたものではありません。

その後・実務への影響

この決定により、被告人の無期懲役が確定しました。

なお、この決定は判決当時の刑法に基づく判断です。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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