MENU

参院選の一票の格差3.03倍は合憲か 2022年選挙の大法廷判決

事件番号令和5年(行ツ)第54号
裁判所最高裁判所大法廷
判決日2023-10-18
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 2022年7月の参議院選挙では、選挙区によって一票の重みに最大3.03倍の差があり、これが憲法の求める投票価値の平等に反するかが争われました。
  • 最高裁大法廷は、著しい不平等状態にあったとはいえないとして、選挙を無効とする請求を退けました。
  • 一方で、格差をさらに縮めることは急いで取り組むべき課題だとして、国会に立法による対応を求めています。
目次

何があったのか

参議院の選挙区選出議員は、原則として都道府県を単位とする選挙区から選ばれます。ところが都道府県ごとの人口には大きな差があるため、議員1人あたりの有権者数は選挙区によって違ってきます。有権者が多い選挙区ほど、1人が投じる一票の影響力は相対的に小さくなります。これが、いわゆる一票の格差です。

2022年7月10日に行われた参議院議員通常選挙では、この格差が最大で3.03倍ありました。東京都選挙区と神奈川県選挙区の有権者である弁護士らは、議員定数の配分を定めた公職選挙法の規定は憲法に違反して無効であり、それに基づく両選挙区の選挙も無効だと主張して、訴えを起こしました。

原審の東京高等裁判所は、定数配分の規定が選挙当時に憲法に違反するに至っていたとはいえないと判断し、有権者側が上告していました。

何が争われたのか

争点は、最大3.03倍という格差が、憲法の求める投票価値の平等に照らして許される範囲にあるかどうかです。

この問題には長い経緯があります。判決によれば、参議院の選挙区間の格差は、長いあいだ5倍前後で推移していました。最高裁は、2010年の選挙と2013年の選挙について、いずれも違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったと指摘し、都道府県を単位とする仕組みそのものの見直しを国会に求めました。

これを受けて、2015年の法改正で、鳥取県と島根県、徳島県と高知県をそれぞれ1つの選挙区にまとめる合区が導入されました。参議院の創設以来初めてのことで、格差は3倍前後まで縮小しました。2018年の法改正では、合区を維持したまま埼玉県選挙区の定数が2人増やされています。最高裁は、2016年の選挙(最大3.08倍)と2019年の選挙(最大3.00倍)について、著しい不平等状態にあったとはいえないと判断してきました。

今回の2022年選挙は、2018年改正後の定数配分のもとで行われた2回目の選挙です。その間、国会では選挙制度改革の議論が続けられたものの、各会派の意見は一致せず、格差をさらに縮める法改正は行われませんでした。格差が3倍程度のまま、新たな是正策がとられていない状況をどう評価するかが問われました。

裁判所はどう判断したか

最高裁大法廷は上告を棄却し、原審の判断を維持しました。結論の中心は次の部分です。

違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず

判断の枠組みは、これまでの大法廷判決と同じです。憲法は投票価値の平等を求めているものの、選挙制度をどう設計するかは国会の裁量に委ねられており、投票価値の平等だけが唯一絶対の基準になるわけではない、という考え方です。そのうえで、著しい不平等状態が生じ、それが相当期間続いているのに是正されない場合に、定数配分の規定は憲法違反になるとされています。

最高裁は、参議院の選挙だからといって投票価値の平等の要請が後退してよい理由は見いだしにくいと述べ、国会での検討については、法改正の見通しが立っていないばかりか、具体的な検討が進展しているともいいにくいと、厳しい見方を示しました。

それでも合憲の結論に至った理由として、判決は主に次の点を挙げています。

  • 2015年の改正で、長年5倍前後だった格差が3倍程度まで縮小し、以前の判決が指摘した著しい不平等状態はひとまず解消されたこと
  • その後の約7年間、合区が維持され、格差は3倍程度で推移していて、目立った拡大傾向にあるともいえないこと
  • 合区の対象となった4県で、投票率の低下や無効票の割合の上昇が続けてみられ、都道府県ごとに地域の実情に通じた議員を選びたいという有権者の考え方がなお強いとうかがわれること
  • 都道府県より広い選挙区を設ける案や、議員定数を見直す案にも、それぞれ課題や制約があること

こうした事情から、最高裁は、国会が是正策をまとめるには時間がかかるとみています。

合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要する

改革の議論を続けながら、格差が広がらないよう配慮して合区を含む定数配分を維持してきた経緯を踏まえると、新たな是正策を講じていないことを考慮しても、憲法の求める投票価値の平等に反していたとはいえない、というのが多数意見の結論です。

なお、この判決には、1人の裁判官の反対意見と、3人の裁判官の意見が付されています。

この判決の意味

結論は合憲ですが、現状をそのまま認めた判決とは読みにくい内容です。最高裁は結論を示したあとに、あえて次のように付け加えています。

較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題というべきである

さらに、現在の選挙制度の仕組みを抜本的に見直すことも含めて、格差を縮めるための方策を具体的に検討し、広く国民の理解が得られる立法措置を講じていくことが求められる、とも述べました。合憲という結論と、国会への強い注文とが、ひとつの判決の中に並んでいます。

もう一つ注目されるのは、合区が抱える問題に最高裁が正面から触れたことです。合区は格差を縮める効果があった一方、対象となった県では投票率の低下などが続いています。判決は、選挙区の仕組みをさらに見直すにあたっては慎重に検討すべき課題があることがうかがわれる、としました。格差の数字を縮めることと、地域の声を国政に届けることをどう両立させるかという難しさが、判決文にも表れています。

この判断は、2022年7月の選挙について、当時の定数配分の規定を審査したものです。今後の選挙でも同じ結論になると述べたものではありません。

その後・実務への影響

報道によれば、2025年7月の参議院選挙も定数配分が見直されないまま行われ、一票の格差は最大3.13倍に広がりました。この選挙についても各地で選挙の無効を求める訴訟が起こされ、最高裁大法廷で審理されることになったと報じられています。

2022年選挙についての今回の判決が、格差の是正を急ぐべき課題と位置づけたうえで合憲としていただけに、その後の国会の取り組みを最高裁がどう評価するかが注目されています。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次