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下水道に流した汚泥も不法投棄になるのか 最高裁が示した判断

事件番号令和6年(あ)第1479号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2026-04-07
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 産業廃棄物の中間処理施設から公共下水道に汚泥や汚水を大量に放流した行為について、廃棄物処理法の不法投棄罪が成立するかが争われました。
  • 最高裁は、下水道法の罰則は不法投棄罪の適用を排除する趣旨のものではないとして、不法投棄罪の成立を認めた原判決を維持し、上告を棄却しました。
  • あわせて、会社が刑事裁判の途中で破産手続を終えても、その裁判が終わるまでは会社は存続する、という判断も示されています。
目次

何があったのか

産業廃棄物の中間処理施設を運営していた会社と、その業務にあたっていた人が、廃棄物処理法違反の罪に問われました。

第1審判決が認定した犯罪事実の要旨は、施設の従業員らと共謀のうえ、2016年1月ごろから2019年8月ごろまでの間、施設から公共下水道内に廃棄物である汚泥および汚水あわせて約3万6800トンを放流させ、みだりに廃棄物を捨てた、というものです。認定された期間は3年半以上に及びます。

この事件は、会社の側の事情も複雑でした。会社は2020年5月21日に破産手続開始の決定を受け、破産管財人が選ばれています。起訴されたのはその後の同年9月29日と12月8日で、破産手続そのものは2021年4月21日に終結の決定によって終了しました。刑事裁判は破産手続の終了をまたいで続き、第1審は2023年7月11日に有罪判決、東京高裁は2024年10月17日に控訴を棄却しています。

第1審から控訴審まで、裁判所は破産手続開始当時の代表取締役を会社の代表者として扱って審理を進めました。

何が争われたのか

上告審では、性質の異なる二つの問題が持ち込まれました。

ひとつは、破産した会社を刑事裁判にかけ続けられるのか、という手続の問題です。会社側は、破産手続が終結した以上、会社はもう存続していないのだから裁判を打ち切る(公訴棄却の決定をする)べきだった、と主張しました。あわせて、破産手続が始まった時点で取締役の地位は当然に失われるはずだから、元の代表取締役を会社の代表者として関与させた手続は違法だ、とも述べています。

もうひとつが、事件の核心にあたる問題でした。下水道への排水については下水道法が独自の規制と罰則を用意しています。そこで被告人側は、下水道法は廃棄物処理法の特別規定であって廃棄物処理法の適用を排除する趣旨のものだから、下水道に汚水を放流する行為に不法投棄罪は成立しない、と主張したのです。

裁判所はどう判断したか

破産手続が終わっても、刑事裁判が終わるまで会社は存続する

最高裁は、破産手続開始の決定を受けた株式会社を被告人とする刑事事件が続いている場合には、破産手続が終了しても会社の仕事はまだ終わっていない(現務が結了していない)として、次のように述べました。

当該会社は、当該刑事事件が終結するまでは、清算株式会社として存続する

そのうえで、刑事訴訟法が公訴棄却の事由として定める、被告人である法人が存続しなくなったときにはあたらない、と判断しています。破産手続の終結を理由に刑事裁判が消えてなくなることはない、ということです。

取締役の地位についても、破産手続の開始によって当然に失われるわけではないとした過去の最高裁判例を引いたうえで、破産した会社を被告人とする刑事裁判で会社を代表することは破産管財人の権限には属さない、と整理しました。したがって、破産手続開始当時に会社を代表する権限を持っていた取締役が、破産手続が終了するまでの間、その刑事裁判で会社を代表することになります。破産手続の終了後については、会社法が取締役を清算人とすると定めていることに照らし、他に清算人となるべき者がいる場合を除いて、その取締役が清算人の立場で会社を代表する、としました。

下水道法の罰則は、不法投棄罪を締め出すものではない

事件の核心について、最高裁はまず廃棄物処理法の趣旨を確認しました。同法は廃棄物の適正な処理などによって生活環境の保全と公衆衛生の向上を図ることを目的とし、誰に対してもみだりに廃棄物を捨てることを禁じていて、廃棄物の種類や投棄場所による限定もしていません。罰則も、深刻な影響を及ぼす不法投棄が横行したことを受けて繰り返し強化されてきました。判決が前提とした当時の条文では、不法投棄には5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその併科、法人には3億円以下の罰金という重い法定刑が定められています。ここから最高裁は、不法投棄罪の趣旨をこう捉えました。

みだりに廃棄物を捨てる行為全般を、社会的に許容されない行為として重く処罰する趣旨

一方の下水道法については、下水道の整備を図って都市の健全な発達と公衆衛生の向上に寄与し、公共用水域の水質の保全に資するという見地から、下水の水質などに具体的な規制を定めていると整理されました。判決が前提とした当時の条文では、特定事業場から基準に適合しない下水を排除する行為に6月以下の懲役または50万円以下の罰金、下水道管理者の命令に違反する行為に1年以下の懲役または100万円以下の罰金といった罰則が置かれていました。これらは同法の規制の実効性を確保するために必要な限度で定められたものだ、というのが最高裁の見方です。

構成要件も法定刑も大きく異なり、規定の趣旨や目的も異なる。そこから最高裁は、次のように結論づけました。

下水道法の罰則は、不法投棄罪の特別規定ではなく、同罪の適用を排除する趣旨のものでもない

そのため、汚水を下水道に放流する行為が下水道法によって規制され同法の罰則の対象になり得るとしても、その行為がみだりに廃棄物を捨てたものと認められる場合には、不法投棄罪が成立する、としています。不法投棄罪の成立を認めた第1審判決を維持した原判決は相当だとして、上告はいずれも棄却されました。

この判決の意味

ある行為に、より具体的な規制を定めた法律がかぶっているとき、その法律の罰則だけが問題になり、より重い罰則は適用されない——今回の被告人側の主張は、そうした形をとるものでした。

最高裁はこれを、二つの法律が何のために置かれているかという観点から退けています。下水道法の罰則は下水道という仕組みを機能させるために必要な範囲で設けられたものであって、廃棄物を捨てる行為そのものを社会的に許されないものとして重く処罰する不法投棄罪とは、守ろうとしているものが違う。だから前者があることは後者の適用を妨げない、という筋道です。

この事案で放流先になったのは公共下水道でした。それでも、放流されたものが廃棄物であり、みだりに捨てたと認められるのであれば不法投棄罪の成立は妨げられない、というのが最高裁の判断です。同じような事情がある場合には、下水道法の罰則の範囲だけで評価が終わるとは限らない、ということになります。

なお、この決定が扱っているのは、行為当時に適用されていた廃棄物処理法および下水道法の規定に基づく判断です。破産に関する判断とあわせて、いずれも最高裁が具体的な事案について示した解釈であり、個別の事情によって結論が変わりうる点には注意が必要です。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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