| 事件番号 | 令和6年(許)第1号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2024-10-23 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる決定
- 国が文化功労者に終身支給する年金を受け取る権利を、債権者が差し押さえられるかが争われた
- 最高裁は、この権利は性質上差押えの対象にならないとした大阪高裁の判断を退け、差押えはできると判断した
- ただし事件は大阪高裁に差し戻されており、この事案で仮差押えが認められるかどうかはまだ決まっていない
何があったのか
文化功労者は、文化の向上発達に特に功績のあった人を国が決定する制度で、決定された人には終身、年金が支給される。支給するのは国である。
この事案では、文化功労者である人に対して債権を持つ側(債権者)が、その人が国に対して持っている年金の支給を受ける権利について、仮差押命令を申し立てた。仮差押えは、裁判で決着がつく前に相手の財産を動かせないようにしておく手続きである。
第一審の段階では仮差押命令が認可されたが、保全抗告を受けた大阪高裁がこれを取り消し、申立てを却下した。高裁の理由は、文化功労者本人が現実に年金を受け取らなければ制度の目的は達せられないのだから、この権利はその性質上、強制執行の対象にならない、というものだった。
債権者が許可抗告を申し立て、最高裁第三小法廷が判断を示した。
何が争われたのか
年金と名の付くものがすべて差押えの対象外になるわけではない。国民年金法や厚生年金保険法には、給付を受ける権利は譲り渡したり担保にしたり差し押さえたりできない、という条文が置かれている(国税の滞納処分など一定の例外はある)。法律が明文で禁じているからこそ、これらは原則として差し押さえられない。
ところが文化功労者年金法には、そうした条文が無い。
そこで問われたのが、明文の規定が無くても、その年金の性質そのものから差押えができないと言えるか、という点だった。大阪高裁は言える、と考えたわけである。
裁判所はどう判断したか
最高裁はまず、条文の有無を確認している。
本件年金の支給を受ける権利に対して強制執行をすることはできない旨を定めた規定は存しない
そのうえで、文化功労者年金法の目的や支給に関する定めから、この年金は文化功労者の功績を世間に知らせ、表彰することを目的として支給されるものだと読み取った。だとすれば、国がその人を文化功労者と決定して年金を受ける権利が認められた時点で、表彰という目的はすでに果たされている。したがって、
その者が現実に本件年金を受領しなければ上記目的が達せられないとはいえない
と述べ、この権利は性質上強制執行の対象にならない、とは解せないとした。結論として、
本件年金の支給を受ける権利に対しては強制執行をすることができる
と判断している。裁判官全員一致の意見だった。
この決定の意味
差押えを禁じるかどうかは立法が決めることであって、支給の目的が顕彰にあるからといって裁判所が解釈で差押禁止の範囲を広げることはしない——という整理が示されたものと読める。年金という名称や、その制度が持つ趣旨の高さは、それ自体では差押えを免れる理由にならない、ということになる。
もっとも最高裁が判断したのは、この権利が差押えの対象になりうるかという入口の部分である。個々の事案で仮差押えが認められるか、差押えがどの範囲まで及ぶかは、別に検討されることになる。
そして、この決定は事件を終わらせたものではない。最高裁は原決定を破棄して大阪高裁に差し戻しており、申立てが認められるかどうかは差戻し後の審理による。
なお以上は、2024年10月の時点における文化功労者年金法および民事執行法のもとでの判断である。
その後
本決定は、最高裁判所民事判例集78巻5号1353頁に登載されている。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。