MENU

入札でなく「企画競争」でも入札妨害罪になるのか

事件番号令和7年(あ)第262号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2026-09-28
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 病院が敷地内薬局の運営事業者を「公募型企画競争」で選んだ際、締切後に他社の提案内容を教えられた会社が提案書を出し直しました。これが入札妨害罪に当たるかが争われました。
  • 二審は、企画競争は刑法でいう入札に当たらないとして被告人2人を無罪にしましたが、最高裁はこれを破棄しました。
  • 名前が「入札」でなくても、中身が競争入札と同じといえる選び方なら入札妨害罪の対象になる、という考え方が示されました。
目次

何があったのか

舞台は、国家公務員共済組合連合会が運営する札幌市の病院(報道によればKKR札幌医療センター)です。病院の敷地内に調剤薬局を開く事業者を選ぶため、病院は連合会の内部規程に基づいて「公募型企画競争」を行いました。

公募要領では、応募できるのは設立から20年以上たち、400床以上の病院の敷地内薬局を運営した実績がある法人などに限られていました。応募者は、会社の概要、薬局の建築方針、運営体制、災害時の体制、スケジュール、収支計画、月額賃借料、自由提案の8項目を書いた企画提案書を期限までに出します。提出後の追加や変更は認めないとされていました。

選定委員会の委員7名が8項目を採点し、配点は非公表で合計100点満点。このうち月額賃借料は30点で、病院が20年間に得る総収入1億円につき1点という基準で、事務部があらかじめ機械的に点数を計算していました。

応募は5社。賃借料では、ある調剤薬局チェーンの会社の提案を上回る会社が複数ありました。すると病院の事務部長は、締切が過ぎたあとで、その会社の北海道支店長に、他社がより高い賃借料を提案していることやその概算額を伝え、提案書を返して出し直すよう持ちかけました。会社は修正した提案書を出し、さらに事務部長の指摘を受けて書き方を直した提案書を再提出しました。

結果は、7名の委員全員がこの会社に最高点を付け、会社は最優秀提案者に選ばれました。その後、再修正した提案書とほぼ同じ内容で契約が結ばれています。報道によれば、提案書の出し直しは2020年12月のことです。

北海道支店長と、親会社の開発統括本部長だった人物の2人が、公契約関係競売入札妨害罪で起訴されました。

何が争われたのか

刑法96条の6第1項は、偽計や威力を使って、公の競売や入札で契約を結ぶためのものの公正を害する行為を罰しています。争点は、今回の企画競争が、この条文にいう「入札で契約を締結するためのもの」に当たるかどうかでした。

企画競争は、一般的な競争入札のように金額だけで決まるのではなく、複数の項目を総合的に評価して選ぶ方式です。報道によれば、一審の札幌地裁(2024年4月)は2人に執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました。これに対し二審の札幌高裁(2025年1月)は、企画競争は刑法の入札に当たらないとして、2人とも逆転無罪としました。

二審はさらに、この企画競争は契約相手そのものではなく「優先交渉権者」を決めるだけのものだから、契約を結ぶための手続とはいえない、という理由も挙げていました。検察官が上告しました。

裁判所はどう判断したか

最高裁第二小法廷は、裁判官全員一致で二審判決を破棄しました。

まず判断の枠組みとして、入札が自由競争の原理で契約相手を選ぶ方法であることから、法令や内規に基づく選び方が権限ある機関によって適法に決められた場合には、次のように考えるとしました。

当該方法が競争入札の実質を有するときは

その方法は刑法でいう入札に当たる、という考え方です。最高裁は昭和33年の自らの判例を参照しています。

そのうえで今回の企画競争を具体的に見て、次の点を挙げました。

  • お互いの提案を知らないまま競わせる仕組みだった。 応募者は他社の申出内容を知らずに自分の提案を出していました。
  • 何を競うかが具体的に示されていた。 8項目は公募要領で明らかにされ、自由提案を除けば、病院の経済的利益や薬局運営への貢献という観点から客観的・公平に比べられる性質のものでした。応募できるのは実績の豊富な法人に限られていたので、配点が非公表でも、どういう観点で評価されるかは容易に予測できたとしました。
  • 評価の基準と方法に客観性・公平性があった。 賃借料は一律の数値基準で採点され、病院の経済的利益に関わる項目の配点は合計5割でした。7名の得点の合計で評価し、結果は事後の決裁などの対象にもなっていました。
  • 評価の順に契約相手を選ぶものだった。 優先交渉権者が決まったあとの交渉で、提案書の契約条件を大きく変えることは予定されていませんでした。

これらから最高裁は、「本件企画競争は、競争入札の実質を有するということができる」として、刑法でいう入札に当たると判断しました。

優先交渉権者を決めるだけだという二審の理由についても、最高裁は退けました。条文の「契約を締結するためのもの」という言葉は、公契約についての罪と強制執行についての罪(刑法96条の4)を区別するためのものにすぎず、処罰の範囲をそれ以上に狭める趣旨ではない、という理由です。

結論として、北海道支店長については一審の有罪判決を維持し、その控訴を棄却しました。もう1人については、二審が判断していなかった事実誤認の主張について審理させるため、札幌高裁に差し戻しました。差し戻された1人の有罪・無罪は、まだ決まっていません。

この判決の意味

この判決のポイントは、手続の名前ではなく中身で判断するという点にあります。「入札」と呼ばれていない企画競争やプロポーザル方式でも、他の応募者の提案を知らないまま競わせ、客観的な基準で優劣を付け、その順番に従って契約相手を選ぶ仕組みであれば、入札妨害罪で守られる「入札」に当たりうることが示されました。

公的な機関の契約では、価格だけでなく提案内容も含めて選ぶ方式が使われることがあります。今回の判決は、そうした方式でも、締切後に他社の情報を伝えて提案を出し直させるような行為が刑事罰の対象になりうることを示したものといえます。

一方で最高裁は、企画競争であれば常に入札に当たるとしたわけではありません。競わせる事項が具体的に示されていたか、評価の基準や方法に客観性・公平性があったか、評価の順に相手を選ぶものだったかといった事情を一つずつ検討したうえで、今回の企画競争について結論を出しています。

なお、この判決が適用したのは、懲役と禁錮を拘禁刑に一本化した2022年の刑法改正(2025年6月施行)より前の条文です。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次