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被害者を捜したが見つからず、コンビニへ1分 ― ひき逃げか

事件番号令和5年(あ)第1285号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2025-02-07
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 事故直後に車を止めて被害者を捜したが見つからず、飲酒を隠すためコンビニへ寄った運転者に、救護義務違反(ひき逃げ)が成立するかが争われた
  • 最高裁は、事故と現場の状況に応じて必要な措置を臨機に講ずることが必要だとして、無罪とした二審判決を破棄し、一審の有罪(懲役6月)を維持した
  • 事故後の行動を通してみれば救護する意思はあった、という全体評価ではなく、その時点で何をすべきだったかで判断する枠組みが示された
目次

何があったのか

2015年3月23日午後10時7分頃、長野県佐久市の交通整理の行われていない交差点で、乗用車を運転していた運転者が15歳の被害者に衝突した。被害者は右前方約44.6メートル先の歩道上にはね飛ばされ、多発外傷等の傷害を負った。

運転者はフロントガラスがくもの巣状にひび割れたことから人に衝突したと思い、衝突地点から約95.5メートル先で車を止めて降り、現場付近へ向かった。午後10時8分頃に靴や靴下を見つけ、その後約3分間付近を捜したが、被害者は発見できなかった。この間、通行人から救急車を呼んだかと聞かれたが、携帯電話を持っていながら警察や消防に通報はしていない。

午後10時11分頃、運転者は自車に戻ってハザードランプを点灯させた。そして運転前に飲酒していたため酒臭を消すものを買おうと考え、車の停止位置から衝突現場とは反対方向、約50.1メートル先のコンビニエンスストアで口臭防止用品を購入し、午後10時13分頃にこれを摂取して現場方向へ向かった。

その頃、通行人が歩道上に倒れていた被害者を発見し、午後10時14分頃に110番通報した。その通報がされている間に、運転者も被害者のもとに駆け寄って人工呼吸などをしている。報道によれば、被害者の男子中学生はこの事故で亡くなった。

何が争われたのか

問題になったのは、道路交通法72条1項前段が運転者に課す救護義務(違反すれば、いわゆるひき逃げとして処罰される)を、この運転者が尽くしたといえるかである。

一審は、救護等の措置と対極の行動を優先させた時点で救護義務・報告義務の履行と相いれない状態に至ったとして有罪とし、懲役6月を宣告した。

二審はこれを覆した。コンビニでの行動は被害者の捜索や救護のためではないが、要した時間は1分余り、移動距離も50メートル程度にとどまり、その後すぐ現場方向へ戻って人工呼吸までしていることから、運転者は「一貫して救護義務を履行する意思を保持し続けていた」と認められる。事故後の行動を全体的に考察すれば、救護義務の目的の達成と相いれない状態に至ったとはいえない、という理由である。二審は救護義務違反の成立を否定し、報告義務違反については公訴時効が完成しているとして、無罪を言い渡した。

つまり争点は、義務違反の有無をどの時点を基準にどう判断するか、という点にあった。

裁判所はどう判断したか

最高裁は、検察官の上告趣意そのものは刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとしつつ、職権で調査した上で、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとして二審判決を破棄した。

判断の出発点は条文の趣旨である。72条1項前段は、事故の際に被害者の生命・身体・財産を保護し、被害の拡大を防ぐために運転者がとるべき応急の措置を定めたものだとした上で、義務を尽くしたというためには、直ちに運転を停止して、

事故及び現場の状況等に応じ、負傷者の救護及び道路における危険防止等のため必要な措置を臨機に講ずる

ことを要するとした。

本件についてはこうである。重篤な傷害を負わせた可能性の高い事故を起こし、車を止めて被害者を捜したが発見できなかったのだから、引き続き被害者の発見・救護に向けた措置を講ずる必要があった。それなのに

これと無関係な買物のためにコンビニエンスストアに赴いており

その時点で救護義務に違反したと認められる、というのが結論である。

二審は、目的の達成と相いれない状態に至ったことが必要という解釈を前提にしたため、被害者を発見できていない状況でどのような措置を臨機に講ずることが求められていたかという具体的な検討を欠いた。そこに法令の解釈適用の誤りがある、と最高裁は述べた。

差戻しではなく、最高裁が自ら控訴を棄却した。救護義務違反と報告義務違反の成立を認めた一審判決が維持され、懲役6月が確定した。

この判決の意味

救護義務を尽くしたかどうかを、事故後の行動全体をならべて評価するのではなく、その場面ごとに、いま何をすることが必要だったかで見る、という考え方が示されたことになる。二審が重視した救護の意思が続いていたという事情や、寄り道が1分余りという短さは、結論を変えなかった。

また、被害者を発見できなかった場合に義務が終わるわけではないことが、はっきりした。捜して見つからなければ、引き続き発見と救護に向けた措置が求められる、という理解である。判決は事実として、運転者が携帯電話を持ちながら警察や消防に通報しなかったことも摘示している。

なお、この判決が適用した道路交通法72条1項は、令和4年法律第32号による改正前のものである。同改正は電動キックボード等の新しい車両区分や自動運転に関するもので、救護義務を定める部分の文言は変わっていない。

その後・実務への影響

事故は2015年、最高裁の判決は2025年2月で、約10年を経て刑が確定した。本判決は刑事判例集(刑集79巻2号91頁)に登載された。救護義務を尽くしたといえる場合について最高裁が正面から示した判断として、同種の事案で参照される判例となる。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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