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県議選の一票の格差2.69倍 最高裁はなぜ「適法」としたのか

事件番号令和5年(行ツ)第404号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2025-01-28
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 2023年4月9日の千葉県議会議員選挙で、選挙区によって議員1人あたりの人口に最大2.69倍の開きがあったことが、公職選挙法と憲法に違反するかが争われた
  • 最高裁第三小法廷は、直前の条例改正で格差が3.06倍から縮まっていたことなどから、定数の配分は県議会の裁量の範囲内だとして、選挙無効の訴えを退けた
  • 5人の裁判官のうち1人は「違憲・違法」とする反対意見を書き、結論に賛成した裁判官の1人も、船橋市選挙区の定数不足に懸念を示した
目次

何があったのか

都道府県議会の議員は、県内をいくつかの選挙区に分けて選ばれます。どの選挙区に何人の議員を割り当てるかは、各都道府県が条例で決めています。

千葉県では、2020年(令和2年)の国勢調査の結果、当時の定数配分のままだと、議員1人あたりの人口の最大格差が3.06倍になり、人口の多い選挙区のほうが定数が少ない「逆転現象」も3通り生じていました。

そこで千葉県議会は2022年(令和4年)に条例を改正しました。定数1の2つの選挙区(勝浦市・夷隅郡選挙区といすみ市選挙区)を合わせて定数2の選挙区にし、流山市選挙区の定数を1人増やしたのです。これにより、選挙区は42から41に、定数は94人から95人になりました。

この配分で行われた2023年4月の県議選では、最大格差は2.69倍となり、逆転現象はなくなりました。一方で、人口に比例して機械的に配分した場合(判決はこれを「人口比定数」と呼んでいます)と比べると、41選挙区のうち14選挙区で定数に差がありました。人口比定数より1人多いのが8選挙区、1人少ないのが5選挙区、そして3人少ないのが1選挙区です。

その3人少ない選挙区が、船橋市選挙区でした。この選挙区の有権者が、定数の配分は違法・違憲だとして、選挙の無効を求めて訴えました。東京高等裁判所は2023年9月に請求を退け、有権者側が最高裁に上告していました。

何が争われたのか

公職選挙法15条8項は、各選挙区の議員の数は人口に比例して条例で定めなければならないとしつつ、「特別の事情」があるときは、おおむね人口を基準としながら地域間の均衡を考慮して定めてよい、としています。

つまり県議選では、人口比例が原則でありながら、地域の事情に応じた調整も法律上認められています。争点は、千葉県の定数配分がこの調整の範囲に収まっているのか、それとも許される範囲を超えて、公職選挙法15条8項や、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反しているのか、という点でした。

裁判所はどう判断したか

最高裁はまず、人口比例の原則にどこまで修正を加えるかは、都道府県議会の裁量に委ねられていると述べました。そのうえで、投票価値の平等は憲法の要求であり、公職選挙法15条8項も人口比例を最も重要かつ基本的な基準としていることを確認しています。

判断の枠組みは、2015年の最高裁判決を引いたものです。格差が、地域間の均衡のために通常考慮できる事情を踏まえてもなお合理的とはいえない程度に達している場合や、「特別の事情」があるという評価そのものが合理性を欠く場合には、定数配分は裁量の範囲を超える、というものです。

この枠組みを千葉県に当てはめ、最高裁は次の点を重視しました。

  • 2022年の改正で、最大格差が3.06倍から2.69倍に縮まった
  • 人口比定数どおりに配分した場合の最大格差は2.67倍で、実際の2.69倍との差はわずかだった
  • 逆転現象もなくなった

こうした事情から、2023年の選挙当時の格差は合理性を欠く程度には達しておらず、「特別の事情」があるという評価も合理性を失っていないとして、定数配分は公職選挙法に違反しないと判断しました。憲法14条1項違反の主張も、同じ理由で退けています。

ただし最高裁は、次のようにも付け加えています。

不平等の改善に向けた一層の努力及び工夫がされることが望ましい

補足意見:船橋市選挙区の「3人不足」への懸念

多数意見に加わった渡辺惠理子裁判官は、補足意見で船橋市選挙区の状況に焦点を当てました。

  • 人口比定数より2人以上少ない選挙区は、41選挙区のうち船橋市選挙区だけだった
  • 3人不足の状態になったのは今回の選挙からだった
  • 船橋市選挙区の定数は、1975年(昭和50年)の選挙から7人のまま変わっていない
  • 定数どおりだと最も人口の少ない選挙区との格差は2.69倍だが、人口比定数どおりなら1.83倍にとどまる

渡辺裁判官は、今回の選挙を全体として直ちに違憲・違法とまではいえないとしつつも、この状態は「漫然とこれを許容してよいというものではない」と述べ、船橋市選挙区の定数を検証すべきだとしました。

反対意見:「違憲・違法」だが選挙は無効にしない

裁判長を務めた宇賀克也裁判官は、多数意見に反対しました。

宇賀裁判官は、憲法上「1票の価値が同等であることがデフォルトであり」、それを制約するなら、その正当性を説明する責任は立法者の側にあると述べています。地方選挙だからといって、当然に人口比例の原則を緩めてよいことにはならない、という立場です。

そのうえで、千葉県の説明には整合性がないと指摘しました。たとえば、行政の中核として重要な地域であることを定数を上乗せする理由にしながら、中核市である船橋市と柏市の選挙区はむしろ人口比定数より少ない。観光都市として重要であることを理由にしながら、県内最大の観光都市である浦安市の選挙区も人口比定数より少ない、といった点です。

また、船橋市選挙区の人口は1970年(昭和45年)から2020年までの50年間で約2倍になったのに定数が据え置かれ、最も価値の高い選挙区の一票を1とすると、船橋市選挙区の一票は約0.37の価値しかないと述べています。2011年(平成23年)の地方自治法改正で地方議会の定数の上限規制が廃止されている以上、他の選挙区の定数を減らさなくても、船橋市選挙区の定数を増やすことを検討すべきだ、とも指摘しました。

結論として宇賀裁判官は、定数配分は憲法14条1項と公職選挙法15条8項に違反するとしました。ただし、過去の最高裁判決に照らせば県議会が格差3倍以内なら問題ないと考えたとしても無理はないことなどを踏まえ、違憲・違法を宣言するにとどめ、選挙を無効とまではしないのが適当だとしています。

この判決の意味

衆議院や参議院の一票の格差訴訟はよく報じられますが、都道府県議会の選挙にも同じ問題があります。県議選では、公職選挙法が地域の事情による調整を認めているため、判断は、その調整が議会の裁量の範囲に収まっているかという形で行われます。

この判決で最高裁は、格差の数字だけでなく、直前の改正で格差が縮まったこと、人口比例どおりに配分した場合との差が小さいこと、逆転現象がないことを総合して、裁量の範囲内と判断しました。

一方で、個別の選挙区に目を向けると、船橋市選挙区のように人口比例と比べて定数が3人も少ない状態が生じていました。多数意見に賛成した裁判官と反対した裁判官の双方がこの点を問題にしており、全体としては適法でも、特定の選挙区の有権者の一票が軽く扱われているという問題が浮き彫りになった判決といえます。

なお、この判決が判断したのは、2023年4月の選挙当時の条例による定数配分です。その後の条例の見直しによって選挙区や定数が変わった場合、それが適法かどうかは、この判決が直接判断したものではありません。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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