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靖国合祀への国の協力、韓国籍遺族の賠償請求を最高裁が退けた理由

事件番号令和6年(受)第275号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2025-01-17
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 国が遺族の了承なく戦没者の情報を靖国神社に提供し、父親が合祀されたことについて、韓国籍の遺族が国に慰謝料などを求めました。
  • 最高裁は、国の情報提供が違法かどうかを判断しないまま、20年の除斥期間が過ぎているとして、遺族の請求を退けた原審の結論を維持しました。
  • 裁判官4人のうち1人が、審理をやり直すべきだとする反対意見を述べ、政教分離と「時の経過」をめぐる考え方の違いが表れた判決です。
目次

何があったのか

訴えたのは、大韓民国の国籍を持つ遺族です。遺族の父親たちは、第二次世界大戦中、日本の軍隊の下で行動して戦死または戦病死しました。

判決の反対意見が整理した原審の認定事実によると、戦後、国(当時の厚生省)は靖国神社と打合会を重ね、昭和31年には各都道府県に通知を出して、靖国神社の合祀事務への協力を求めました。国は都道府県の協力を得て、戦没者の氏名や所属部隊、死亡の日時・場所などを記した「祭神名票」を靖国神社に送り、靖国神社はこれをもとに合祀を行いました。昭和32年から昭和47年までの間だけで、合祀された人は100万人を超えるとされています。

遺族の父親たちも、この情報提供に基づき、昭和34年4月6日または同年10月17日に、創氏改名による日本式の氏名で合祀されました。

遺族は平成25年10月22日、国を相手に訴えを起こしました。国が遺族の了承を得ずに父親の情報を靖国神社に提供したことは違法だとして、国家賠償法1条1項に基づく慰謝料などを求めたものです。報道によると、一審の東京地方裁判所(2019年5月)、二審の東京高等裁判所(2023年5月)はいずれも遺族の請求を認めませんでした。

何が争われたのか

遺族側は、国の情報提供は合祀のために必要なものであり、信仰生活の静けさや遺族としての自己決定権といった、法的に守られるべき利益を侵害したと主張しました。

これに対し二審は、合祀は宗教法人である靖国神社が信教の自由に基づいて行える宗教的行為であり、遺族への強制や不利益を伴うものとも認めがたいとして、遺族の権利利益が侵害されたとはいえないと判断していました。

最高裁では、この二審の判断の当否が問われました。なお、国の情報提供に関する賠償請求以外の請求についての上告は、最高裁が審理の対象から外しています。

裁判所はどう判断したか

多数意見:違法かどうかの前に「期間」で決着

最高裁の多数意見は、国の情報提供が違法かどうかという中心的な争点には踏み込みませんでした。

多数意見が注目したのは日付です。合祀は昭和34年10月17日までに行われ、訴えが起こされたのは平成25年10月22日でした。そのため、「本件情報提供行為が違法か否かについて判断するまでもなく」、平成29年の改正前の民法724条後段が定める20年の除斥期間が過ぎていることは明らかだとしました。除斥期間とは、一定の期間が過ぎると権利が消えてしまう仕組みです。

さらに、国が除斥期間を主張することが信義則に反する、または権利の濫用にあたると判断すべき事情も見当たらないとして、請求を退けた原審の結論を維持しました。

補足意見:損害の程度と権利行使の妨げ

尾島明裁判官は補足意見で、令和6年7月3日の最高裁大法廷判決(旧優生保護法をめぐる訴訟)に触れています。この大法廷判決は、除斥期間による権利の消滅が著しく正義・公平の理念に反する場合には、除斥期間の主張を信義則違反や権利の濫用として退けられるとしたものです。

そのうえで尾島裁判官は、宗教団体が誰かを祭神として祀ること自体は、原則として他人への不法行為にはなりにくいと述べました。国には政教分離の規定があるため事情は異なるとしても、想定される精神的な損害は、生命や身体への重大な侵害と比べれば「相当程度軽度なものであるといわざるを得ない」としています。また、国が遺族の権利行使をことさら妨げた事情もうかがわれないとして、除斥期間の主張は信義則違反や権利の濫用にはあたらないと述べました。

反対意見:審理をやり直すべき

三浦守裁判官は、二審判決を破棄して高等裁判所に差し戻すべきだとする反対意見を述べました。

反対意見はまず、私人どうしであれば、他人の宗教的行為によって心の平穏が乱されたとしても直ちに賠償は求められないとしつつ、国は立場が違うと指摘します。「国家には信教の自由がなく、むしろ宗教的活動を禁止されている」からです。亡くなった近親者を敬い慕うための平穏な精神生活は、憲法13条と20条1項の趣旨に照らして尊重されるべき利益であり、国が政教分離の規定に反する行為でこれを害したといえる場合には、強制を伴わなくても賠償責任を問いうると述べました。

そして、国による合祀への直接の協力は政教分離の中心的な問題であるのに、二審は国が情報提供を始めた経緯や、朝鮮出身の戦没者を合祀の対象にした協議の状況などを十分に検討していないと批判しました。

除斥期間についても、合祀が続いている限り侵害も続いているとみる余地があること、遺族は合祀を知って初めて損害を受けたといえること、関係資料が現在も保管されていて時の経過による証拠の散逸という問題が小さいことなどを挙げ、期間の経過が明らかとはいえないとしました。

この判決の意味

この判決で最高裁の多数意見が示したのは、期間が過ぎているので賠償は認められないという結論です。国が戦没者の情報を靖国神社に提供したことが政教分離に反するかどうかについて、最高裁の多数意見としての判断は示されていません。

一方で、反対意見は、国と宗教との関わりによって個人の心の平穏が害された場合に国の賠償責任を問いうるという考え方を、具体的に展開しました。補足意見と反対意見は、旧優生保護法の大法廷判決が示した、除斥期間の主張を退けられる場合についての考え方を、ほかの事件にどう当てはめるかについても見解が分かれています。この点で、今後の議論の手がかりになる判決といえます。

その後・実務への影響

この判決が適用したのは、平成29年法律第44号による改正前の民法724条後段です。2020年4月に施行された改正民法は、この20年の期間を除斥期間から消滅時効に改めましたが、施行の時点ですでに20年が過ぎていた場合には改正前の規定が適用される経過措置が設けられています。この判決は、判決当時の法令とこの経過措置を前提とした判断です。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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