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出演者が有罪になった映画への助成金、不交付は許されるのか

事件番号令和4年(行ヒ)第234号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2023-11-17
通称「宮本から君へ」助成金不交付事件
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 出演者の一人が麻薬取締法違反で有罪となったため、国の芸術助成を担う法人が映画「宮本から君へ」への助成金を、公益性の観点から適当でないとして交付しませんでした。
  • 最高裁は、表現活動への助成で「公益」を理由に不利に扱えるのは、その公益が重要で、しかも害される具体的な危険がある場合に限られるとし、この不交付決定を違法と判断しました。
  • 芸術への公的助成で、抽象的な「公益」を持ち出して選別することに歯止めをかけた判決として注目されています。
目次

何があったのか

舞台は、劇場や映画などの芸術活動に助成金を出している独立行政法人日本芸術文化振興会です。助成金の財源は、文化庁から交付される文化芸術振興費補助金で、交付するかどうかは振興会の理事長が決めます。手続きは2段階で、まず外部の有識者でつくる委員会の審査を経て「交付内定」が出され、そのあと正式な申請を受けて「交付決定」をする流れでした。

ある映画製作会社は、平成30年11月、製作中の劇映画「宮本から君へ」について助成金の交付を求める要望書を出しました。委員会は採択すべきと答申し、理事長は平成31年3月29日付けで交付内定を出しています。

ところが、その直前の3月12日に、映画の出演者の一人がコカインを使用したとして逮捕されていました。この出演者は令和元年6月18日、麻薬及び向精神薬取締法違反の罪で懲役1年6月・執行猶予3年の有罪判決を受け、判決はその頃確定します。

製作会社は7月2日までに正式な交付申請書を出しましたが、理事長は7月10日付けで、有罪判決が確定した出演者が出演している映画に国の事業として助成金を出すことは公益性の観点から適当でないとして、助成金を交付しない決定をしました。製作会社はこの決定の取消しを求めて裁判を起こしました。

なお、報道によれば、振興会はこの決定のあと、公益性の観点から交付を取り消せるよう交付要綱を改めています。

何が争われたのか

助成金を出すかどうかについて、法律に細かな要件は書かれていません。そのため理事長に広い裁量(判断の幅)があることには争いがありません。問題は、芸術的には助成に値すると評価された作品について、「助成すると公益が害される」という理由で交付を拒むことが、どこまで許されるかでした。

第1審は製作会社の請求を認めて決定を取り消しましたが、2審の東京高裁は逆の結論でした。2審は、出演者が著名で重要な役を演じていたこと、事件が広く報道されたこと、ほかの映画の多くでは代役による撮り直しなどの対応がとられていたことなどを挙げ、薬物乱用の防止という公益の観点から交付しなかった判断は裁量の範囲内だとしました。

裁判所はどう判断したか

最高裁はまず、助成金の交付が理事長の裁量に委ねられていることを認めました。そのうえで、振興会は公共の利益を目的とする法人なので、芸術的には助成に値する活動であっても、交付すると一般的な公益が害されると認められるときは、それを不利な事情として考慮すること自体はできるとしています。

しかし、ここに大きな限定をかけました。助成の対象は公演や展示などの表現活動です。表現の内容を理由に「公益が害される」として交付を拒むことが広く行われると、「公益がそもそも抽象的な概念であって助成対象活動の選別の基準が不明確にならざるを得ない」ため、申請する側や表現する側が萎縮するおそれがある、と最高裁は指摘しました。そして、それは助成制度の目的や芸術家の自主性・創造性を損ない、憲法が保障する表現の自由の趣旨に照らしても見過ごせないとしています。

そこで最高裁は、公益を理由とする不利な扱いを重く見ることができるのは、

当該公益が重要なものであり、かつ、当該公益が害される具体的な危険がある場合に限られる

と判断しました。この考え方は、交付要綱に公益の考慮についての定めがあるかどうかで変わるものではない、とも述べています。

この基準をあてはめると、振興会側は、助成すれば国が薬物犯罪に寛容だという誤ったメッセージと受け取られ、薬物への許容的な態度が広がるおそれがあると主張していました。これに対し最高裁は、「本件出演者が本件助成金の交付により直接利益を受ける立場にあるとはいえない」ことなどから、助成によってそうしたメッセージを発したと受け取られることは、出演者の知名度や役の重要性にかかわらず想定しにくく、薬物を使う人が増えるという根拠も見当たらないとして、具体的な危険があるとはいえないとしました。

また、振興会が挙げた、税金を原資とする助成金の在り方への国民の理解という点については、仮に別の公益とみる余地があるとしても、抽象的なもので、薬物乱用の防止と同じほど重要とはいえないとしています。

結論として、最高裁は、芸術的な観点から助成対象とした判断が不合理とはいえず、ほかに交付が不合理となる事情もない以上、不交付決定は重く見るべきでない事情を重く見たもので、裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法なものだと判断しました。2審判決を破棄し、決定を取り消した第1審判決を正しいものとして振興会の控訴を退けています。裁判官全員一致の意見です。

この判決の意味

この判決のポイントは、公的な助成金という「お金を出す・出さない」の場面でも、表現の自由の観点から行政側の判断に枠をはめた点にあります。判決自身も、法律に交付の要件が定められていないことなどから、交付の判断は理事長の裁量に委ねられているとしています。それでも最高裁は、表現の内容を理由に「公益」を持ち出して助成を拒むことについては、公益の重要性と具体的な危険という2つの条件を求めました。

また、出演者の不祥事という、作品の外の事情が問題になった点も特徴的です。最高裁は、出演者が助成金で直接利益を受ける立場にないことなどを重視し、作品への助成がそのまま出演者の行為を容認するメッセージになるとはいえないと判断しました。出演者の不祥事と公的助成の関係について最高裁が判断を示したのは初めてと報じられています。

もっとも、この判決は公益を考慮することを一切禁じたわけではありません。公益が重要で、害される具体的な危険があれば、不利な事情として重く見ることは認められうるという枠組みです。どのような事情がそれにあたるかは、個々の事案ごとに判断されることになります。

その後・実務への影響

最高裁の判決により、助成金を交付しないとした決定を取り消す第1審判決が確定しました。公的機関が芸術活動に助成するかどうかを判断する場面で、表現の内容に照らした抽象的な「公益」を理由に助成を拒むことには限界がある、という考え方が最高裁によって示されたことになります。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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