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性別変更に手術を求める規定は憲法違反と最高裁が判断

事件番号令和2年(ク)第993号
裁判所最高裁判所大法廷
判決日2023-10-25
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 戸籍上の性別を変えるために、生殖腺をなくす手術を原則として求める法律の規定が、憲法に反しないかが争われました。
  • 最高裁大法廷は、この規定は憲法13条に違反し無効だと判断し、以前の最高裁の判断を変更しました。
  • ただし申立てが認められたわけではなく、別の要件について審理をやり直すよう、事件は高等裁判所に差し戻されました。
目次

何があったのか

申立てをしたのは、生物学的な性別は男性で、心理的な性別は女性である人です。この人は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、特例法)に基づいて、戸籍上の性別の取扱いを変更する審判を家庭裁判所に求めました。

特例法は、二人以上の医師の診断が一致していることなどを前提に、いくつかの要件をすべて満たす人について、家庭裁判所が性別の取扱いを変更する審判をすることができると定めています。その要件の一つが、判決当時の特例法3条1項4号でした。生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあることを求める規定です。

最高裁によれば、この規定に当てはまるためには、抗がん剤の投与などで生殖腺の機能が失われているといった事情がない限り、精巣または卵巣を摘出する手術を受ける必要があると解されています。申立てをした人は、この手術を受けていませんでした。

広島高等裁判所岡山支部は、この人がほかの要件(1号から3号まで)は満たしているものの、4号には当てはまらないとしました。そのうえで、4号の規定は憲法13条にも14条1項にも違反しないとして、申立てを認めませんでした。

何が争われたのか

争点は、4号の規定が憲法13条、14条1項に違反して無効かどうかです。

申立てをした人は、もう一つの要件である5号(変更後の性別の性器に近い外観を備えていること)についても、自分はこれを満たしている、仮に満たしていないとしても5号は憲法に違反する、と主張していました。しかし高等裁判所は、この点については判断していませんでした。

裁判所はどう判断したか

最高裁はまず、自分の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が、憲法13条によって保障されていることは明らかだとしました。そして、生殖腺を摘出する手術は生命や身体への危険を伴い、元に戻すことのできない結果をもたらす「身体への強度な侵襲」だと位置づけています。

4号の規定は、手術を直接強制するものではありません。性別変更を求める人に要件を課しているだけです。それでも最高裁は、性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けることは、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益だとし、治療としては手術を必要としない人にまで手術を余儀なくさせる点で、この自由を制約していると判断しました。

そのうえで、制約の必要性と、制約の重さを比べています。

必要性について。 この規定は、性別を変更した人に変更前の性別の生殖機能で子が生まれると、親子関係などをめぐって社会に混乱が生じかねない、という配慮に基づくとされます。しかし最高裁は、そうした問題が生じることは「極めてまれなこと」だと考えられると述べました。また、平成20年の改正で成年の子がいる人も性別変更ができるようになりましたが、それによって社会に混乱が生じたとはうかがわれないことも指摘しています。特例法の施行から約19年がたち、1万人を超える人が性別変更の審判を受けてきたことなども踏まえ、制約の必要性は低くなっているとしました。

制約の重さについて。 特例法ができた当時は、手術は段階を踏んだ治療の最終段階と位置づけられていました。しかしその後、どのような身体的治療が必要かは患者によって異なるという考え方に改められています。最高裁は、手術を前提とする要件は医学的にみて合理的な関連性を欠くに至ったとし、この規定は、手術を受け入れるか、性別変更をあきらめるかという「過酷な二者択一を迫るもの」になったと述べました。生殖能力の喪失を要件としない国が増えていることも考慮されています。

結論として、最高裁は4号の規定は憲法13条に違反し無効だと判断しました。これと異なる結論をとっていた平成31年1月23日の最高裁第二小法廷の決定は、変更されています。

そして、高等裁判所が判断していなかった5号に関する主張について審理を尽くさせるため、事件を広島高等裁判所に差し戻しました。この決定には、3人の裁判官の反対意見と、1人の裁判官の補足意見が付いています。

この判決の意味

この決定が示したのは、戸籍上の性別を変えるための条件として、生殖腺を取り除く手術を原則として求めることは、憲法13条のもとでは許されない、という判断です。

注目されるのは、最高裁が自らの以前の判断を変更した点です。その理由として挙げられているのは、医学的な知見の進展や、性同一性障害を有する人を取り巻く社会状況の変化でした。判断の中でも、現時点においては必要かつ合理的な制約とはいえない、という言い方がされています。

一方で、この決定は、性別変更の要件をすべてなくしたものではありません。判断の対象は4号だけで、外観に関する5号について最高裁の多数意見は結論を示していません。また、申立てをした人の性別変更がこの決定で認められたわけでもありません。

その後・実務への影響

差し戻しを受けた広島高等裁判所は、2024年7月10日、申立てをした人について性別の変更を認める決定をしたと報じられています。報道によれば、高等裁判所は、ホルモン療法によって身体に変化が生じていることなどから、手術を受けていなくても5号の要件を満たすと判断しました。

特例法の改正については、要件を見直す法案が2024年6月と2025年6月に衆議院に提出されたことが、提出した政党から公表されています。

なお、この記事で扱っているのは判決当時の特例法に基づく判断です。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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