| 事件番号 | 令和4年(許)第11号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 2023-10-26 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 合併で消滅する会社の株主が、株主総会の前に、会社から届いた委任状用紙の「否」に丸を付けて返送しました。これが、株式を買い取ってもらうために必要な「合併に反対する旨の通知」に当たるかが争われました
- 最高裁は、会社の側から自社宛ての委任状用紙を送って賛否を尋ねていたこの事案では、委任状の返送は反対通知に当たると判断しました
- 株主の申立てを門前払いにした地裁・高裁の判断は取り消され、事件は名古屋地方裁判所に差し戻されました。株式の買取価格はまだ決まっていません
何があったのか
会社が合併するとき、それに反対する株主は、会社に対して自分の株式を「公正な価格」で買い取るよう求めることができます(会社法785条)。合併に賛成できない株主が、お金を受け取って会社から離れる道を用意した仕組みです。
ただし、株主総会で議決権を使える株主がこの請求をするには、2つのことが必要です。総会より前に「合併に反対する」と会社に通知しておくこと、そして総会で実際に反対することです。この事件で問題になったのは、1つ目の「事前の通知」でした。
経緯は次のとおりです。
- 令和2年10月15日:スジャータめいらく株式会社(以下「スジャータ社」)が、名古屋製酪株式会社との間で、自社が吸収されて消滅する内容の合併契約を結びました。効力が生じる日は同年12月1日とされました
- 11月9日:スジャータ社の代表取締役が、同社の株式7950株を持つ株主に、臨時株主総会(11月13日開催)の招集通知を発しました。あわせて、本人が出席しない場合は、同封の委任状用紙に議案への賛否を記載して返送するよう求めました
- 11月10日:株主は、この用紙の代理人欄に代表取締役の氏名を書き、合併契約の承認議案について賛否欄の「否」に丸を付けて、スジャータ社に返送しました。欄外には、合併契約の内容や趣旨が分からず、通知も数日前で賛否を表明できない、合併契約書を示してほしい、という趣旨の書き込みもしていました
- 11月13日:総会で合併契約が承認されました。このとき代表取締役は、株主の代理人として、議案に反対する議決権の行使をしています
- 11月30日まで:株主は、スジャータ社に対し、持っている全株式を公正な価格で買い取るよう請求しました
- 12月1日:合併の効力が生じ、スジャータ社は吸収合併されました
買取価格について話し合いがまとまらなかったため、株主は令和3年1月20日、裁判所に価格を決めてもらう申立てをしました。
何が争われたのか
株主は、総会で反対の議決権行使はされています。争いになったのは、総会の前に委任状を返送したことが、会社に対する「反対する旨の通知」といえるかどうかでした。
委任状は、もともと、自分に代わって議決権を使ってもらうよう代理人に頼むための書面です。そこに書かれた「否」は代理人への指示であって、会社に向けた通知ではないのではないか、という問題です。
名古屋高等裁判所は、次のように考えて、株主は「反対株主」に当たらず、申立ては不適法だとしました。
- 「否」に丸を付けた部分は、代理人となる人への指示であり、スジャータ社に向けられたものとはいえない
- 委任状の宛先がスジャータ社になっているのは、代理権を証明する書面を会社に提出しなければならないと定められている(会社法310条1項)ことからすれば、不自然ではない
- 欄外の書き込みがあることからすると、合併に反対する意思が委任状に表明されているともいえない
つまり、価格がいくらかという中身の審理に入る前に、申立てそのものが退けられていました。
裁判所はどう判断したか
最高裁は、高裁の判断は認められないとしました。裁判官全員一致の意見です。
事前の通知は何のためにあるのか
最高裁はまず、総会の前に反対の通知を求めている理由を確認しました。それは、会社に、議案に反対する株主の議決権の数や、買取請求がされる株式数の見込みを知らせ、
当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与える
ことにある、というものです。
そうであれば、形式が委任状であっても、作成・送付された経緯や記載内容などからみて、合併に反対するという株主の意思が会社に対して表明されているといえるときには、会社はその見込みを知ることができ、対策を考える機会も与えられています。最高裁は、そのような場合には委任状の送付は反対通知に当たる、という考え方を示しました。
この事案の委任状はどうだったか
そのうえで最高裁は、本件の委任状が作られた経緯に着目しました。この委任状は、スジャータ社の側が、宛先を自社とする用紙を株主に送って議決権の代理行使を勧誘し、株主がそれに応じて記入し、スジャータ社に返送したものです。
そうすると、賛否欄への記載は、代理人への指示であるだけでなく、
上記勧誘をしてきたスジャータ社に対する応答でもあった
といえる、と最高裁は述べました。委任状の送付は、会社に向けて株主の意思を通知するものでもあった、という評価です。そして、賛否欄の「否」に丸が付いていたのだから、合併に反対する意思が表明されていたことは明らかだとしました。
高裁が重視した欄外の書き込みについては、その内容からすると
本件議案に反対する理由を記載したものとみるべき
であり、反対の意思が表明されていたという判断を左右しない、としています。
結論は「地裁で審理をやり直す」
最高裁は、委任状の送付は反対通知に当たるとして、高裁の決定を破棄し、申立てを却下していた地裁の決定も取り消しました。そして、さらに審理を尽くさせるため、事件を名古屋地方裁判所に差し戻しました。
最高裁が決めたのは、この株主が買取価格の決定を申し立てることができるかどうかという、入口の部分までです。株式がいくらで買い取られるのかは、差戻し後の審理に委ねられています。
この判決の意味
この決定は、株主総会に自分で出席せず、会社から届いた委任状用紙を返送した場合に、その返送が、株式買取請求の前提となる「事前の反対通知」として扱われうることを、最高裁として示したものです。
ただし、最高裁は、委任状を送りさえすれば必ず反対通知になると述べたわけではありません。判断の決め手になったのは、次の事情でした。
- 会社の側が、宛先を自社とし、賛否欄を設けた委任状用紙を株主に送って勧誘していたこと
- 株主がその勧誘に応じ、賛否欄の「否」に丸を付けて、会社に返送したこと
最高裁は、委任状が作成・送付された経緯や記載内容などの事情を踏まえて判断するとしています。経緯や記載が異なる場合に同じ結論になるかどうかは、この決定からは分かりません。
また、高裁は、欄外に「賛否を表明できない」という趣旨の書き込みがあったことを、反対の意思が表明されていない理由の一つにしていました。最高裁はこれを、反対する理由を書いたものと受け止めています。書面の一部の言い回しだけでなく、賛否欄の記載を含めた全体から株主の意思を読み取った判断といえます。
なお、この決定は、決定当時の会社法785条に基づく判断です。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。