| 事件番号 | 令和5年(行ツ)第52号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所大法廷 |
| 判決日 | 2023-10-18 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 令和4年(2022年)7月の参議院選挙で、議員1人あたりの有権者数に最大3.03倍の開きがあったことが、憲法の求める「投票価値の平等」に反するかが争われました。
- 最高裁大法廷は、違憲の問題が生じるほどの著しい不平等状態にはなかったとして、定数配分の規定は憲法に違反していなかったと判断しました。
- ただし、較差をさらに縮めることは急いで取り組むべき課題だとして、国会に具体的な検討を求めています。
何があったのか
参議院の選挙区選挙は、原則として都道府県を1つの選挙区としています。人口の多い県と少ない県とでは、議員1人が代表する有権者の数が違ってきます。この差が、いわゆる「一票の格差」です。
判決によれば、この格差は長いあいだ5倍前後で推移してきました。最高裁は、最大較差が5.00倍だった平成22年(2010年)の選挙と、4.77倍だった平成25年(2013年)の選挙について、いずれも違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあったと判断し、都道府県を単位とする仕組みそのものの見直しを国会に求めていました。
これを受けて、平成27年(2015年)の法改正で、鳥取県と島根県、徳島県と高知県をそれぞれ1つの選挙区にまとめる「合区」が初めて導入されました。格差は3倍程度まで縮まり、平成28年(2016年)の選挙(3.08倍)と令和元年(2019年)の選挙(3.00倍)について、最高裁は著しい不平等状態にあったとはいえないと判断しています。
今回争われたのは、その次に行われた令和4年7月10日の選挙です。最大較差は3.03倍でした。青森・岩手・宮城・福島・山形の各選挙区の有権者が、定数配分の規定は憲法に違反しており、自分たちの選挙区の選挙は無効だと主張して訴えを起こしました。
何が争われたのか
争点は、3.03倍という格差が憲法に違反するかどうかです。
前回の令和元年選挙のあと、国会では参議院改革協議会が設けられ、選挙制度の見直しが議論されました。しかし、都道府県単位を維持するのか、より広い選挙区にするのか、議員の総数を増やすのかといった点で各会派の意見がまとまらず、法改正には至りませんでした。格差を縮めるための新しい手当てがないまま迎えた選挙を、どう評価するかが問われたことになります。
原審の仙台高等裁判所は、定数配分の規定は選挙当時、憲法に違反していたと判断しました。そのうえで、選挙を無効とはせず、請求を棄却しつつ、選挙が違法であることを主文で宣言していました。これに対し、双方が上告しました。
裁判所はどう判断したか
最高裁大法廷は、原審の判決を変更し、有権者側の請求を棄却しました。定数配分の規定は憲法に違反していなかった、という結論です。
出発点として最高裁は、憲法が投票価値の平等を求めていることを確認しています。同時に、どのような選挙制度にするかは国会の裁量に委ねられているとして、次のように述べました。
投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく
つまり、ほかの正当な政策目的との調和のなかで実現されるべきものだ、という従来からの考え方を維持したものです。そのうえで、参議院だからといって投票価値の平等の要請が後退してよい理由は見いだしにくいとも述べ、国会には較差の是正に向けた取組が引き続き求められているとしました。
この観点から最高裁は、令和4年の選挙までのあいだ、法改正の見通しが立っていないだけでなく、実現に向けた具体的な検討が進んでいるともいい難いと指摘しています。
それでも合憲とした理由として、判決は主に次の点を挙げています。
- 合区を導入した平成27年の改正で著しい不平等状態はひとまず解消され、その後の約7年間、合区は維持されて格差は3倍程度で推移していること。判決は格差について「有意な拡大傾向にあるともいえない」と述べています。
- 合区の対象となった4県で、投票率の低下や無効票の割合の上昇が続いていること。最高裁は、都道府県ごとに地域の実情に通じた議員を選びたいという有権者の考え方がなお強いことがうかがわれるとし、仕組みをさらに見直すには慎重に検討すべき課題があるとしました。
- 議員定数の見直しなどほかの方法にもさまざまな制約があり、合理的な案をまとめるにはなお一定の時間がかかると見込まれること。
こうした状況のもとで、国会が議論を続けながら合区を含む定数配分を維持した経緯を踏まえると、新たな是正策が講じられなかったことを考慮しても、憲法の求める投票価値の平等に反していたとはいえない、というのが多数意見の結論です。
この判決の意味
この判決は、3倍程度の格差そのものを「問題なし」としたものではありません。判決の終わり近くで、最高裁は国会に向けてこう述べています。
較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題というべきである
そして、現在の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含めて具体的に検討し、広く国民の理解が得られる立法措置を講じることを求めました。結論は合憲でも、国会への宿題は残された形です。
裁判官の意見も一致していません。判決には、1人の裁判官の反対意見と、3人の裁判官の意見が付いています。このうち三浦守裁判官は、請求を退ける結論には賛成しながらも、選挙当時の格差は違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあったと述べています。
同じ選挙をめぐる各地の訴訟では、高等裁判所でも判断が分かれていたと報じられています。国会の取組をどう評価するかによって結論が変わりうる、難しい問題であることがうかがえます。
なお、この判決はあくまで令和4年の選挙の時点での格差と、それまでの国会の取組を前提にした判断です。格差が何倍までなら合憲か、という線を引いたものではありません。
その後・実務への影響
報道によれば、令和7年(2025年)7月の参議院選挙も定数配分が見直されないまま行われ、最大較差は3.13倍に広がりました。この選挙についても各地で無効を求める訴訟が起こされ、高等裁判所の判決は「違憲状態」が11件、「合憲」が5件と分かれています。
これらの訴訟は最高裁大法廷で審理されることになり、弁論期日は2026年10月7日に指定されたと報じられています。今回の判決が「喫緊の課題」とした是正が進まないまま次の選挙が行われたことを、最高裁がどう評価するのかが注目されます。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。