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保釈の取消しと保証金の没取は同時でなくてよい 最高裁が高裁判例を変更

事件番号令和8年(し)第378号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2026-05-29
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 保釈を取り消したあとで、別の機会に保釈保証金を没取できるかが争われました
  • 最高裁第三小法廷は、保釈取消しの決定の後であっても没取の決定はできる、と判断しました
  • これと反対の結論をとっていた昭和27年の大阪高裁決定は、この決定によって変更されました
目次

何があったのか

刑事裁判で身柄を拘束されている被告人は、裁判所が定めた金額のお金(保釈保証金)を納めることで、判決までの間、身柄の拘束を解いてもらえることがあります。これが保釈です。納めたお金は、決められた条件を守って裁判に出頭していれば戻ってくるのが原則ですが、そうでない場合には取り上げられることがあります。この「取り上げる」ことを、法律では没取といいます。

この事件では、被告人の保釈が取り消され、あわせて保釈保証金の全部を没取する決定がされました。ただし、最高裁の決定文には、どのような事件だったのか、なぜ保釈が取り消されたのか、保証金がいくらだったのかといった事実関係は書かれていません。決定が扱っているのは、あくまで手続の順序という一点です。

これらの決定を不服として、被告人側はそれぞれ抗告しましたが、東京高裁は令和8年4月9日、いずれの抗告も棄却しました。そこで被告人側が、最高裁に特別抗告を申し立てたのが本件です。

何が争われたのか

刑事訴訟法96条は、保釈を取り消すことができる場合を1項で、保釈を取り消す場合に保証金を没取できることを2項で定めています。

問題になったのは、この2つのタイミングの関係です。保釈を取り消す決定と、保証金を没取する決定は、必ず同時にしなければならないのか。それとも、まず保釈を取り消し、あとから改めて没取の決定をしてもよいのか。条文には、いつまでに没取を決めなければならない、といった時期の定めは置かれていません。

被告人側は、この点について昭和27年9月6日の大阪高裁決定(高刑集5巻10号1649頁)を引きました。この決定は、没取は取消しと別の機会にはできない、という立場をとっていたものです。そのうえで、別の機会にすることができるとした東京高裁の判断は、この判例に反すると主張しました。特別抗告は、憲法違反や判例違反があるときにできる不服申立てなので、判例に反するかどうかがそのまま入口の争点になります。

裁判所はどう判断したか

最高裁第三小法廷は、まず、東京高裁の判断が大阪高裁の決定と相反していること自体は、被告人側の指摘するとおりだと認めました。判例と食い違っている、という前提は否定しなかったわけです。

そのうえで、条文の読み方を示しました。刑事訴訟法96条2項は「保釈保証金を没取する実体的な要件を定めたもの」であって、「その決定の時期を限定した規定とは解されず」、ほかに没取の決定を保釈取消しの決定と同時にしなければならないと解すべき根拠もない、というのが最高裁の理解です。したがって、同条1項によって保釈を取り消す場合には、取消しの決定の後であっても、保証金を没取する決定をすることができる。東京高裁の判断は正当だとされました。

そして最高裁は、「所論引用の判例を変更し、原決定を維持するのを相当と認める」として、被告人側が引いた大阪高裁の決定のほうを変更しました。判例に反するという主張は、原決定を取り消す理由にはならない、という結論です。

そのほかの主張については、憲法違反をいう部分を含めて、実質は単なる法令違反や事実誤認の主張にすぎず、特別抗告の理由(刑事訴訟法433条)には当たらないとされました。結論として、各抗告はいずれも棄却されています。裁判官5人の全員一致の意見です。

この判決の意味

保釈保証金は、被告人本人だけでなく、家族や知人が用意することもあります。まとまった金額になることが多く、それがどうなるかは当事者にとって切実な問題です。

今回の決定は、保釈が取り消された時点で没取の決定がされていなくても、それで没取を免れたことにはならない、という理解を示したものと読めます。裁判所は、保釈を取り消したあと、日を改めて保証金を没取する判断をすることができる、というのが最高裁の示した枠組みです。

もっとも、最高裁が述べたのは、没取の決定をする時期に条文上の限定はない、という点にとどまります。どのような場合に没取が認められるのか、全額なのか一部なのかをどう決めるのかといった中身の判断について、新しい基準が示されたわけではありません。その部分は、これまでどおり個々の事情に応じた裁判所の判断に委ねられています。

昭和27年の高裁決定が示していた読み方は、70年以上を経て、最高裁の手で改められたことになります。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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