| 事件番号 | 令和8年(行フ)第1号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 2026-05-27 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 難民認定の申請が3回目以降になると、申請中でも強制送還を止める効力(送還停止効)が及ばなくなる。その扱いを受ける人が、裁判所に仮の救済を求めた事案
- 最高裁は、その規定があることは裁判所が執行停止を認めるかどうかの判断を直ちに左右しないと述べ、仮の救済を認めた原審の判断を維持した
- 行政の手続で送還が止まらなくなることと、裁判所が暫定的に救済するかどうかは、別々に判断される
何があったのか
難民認定を申請したものの在留資格を持たない外国人(入管法でいう在留資格未取得外国人)が、難民と認めない判断に対する不服申立て(審査請求)を棄却された。
この人は、それ以前にも2度、難民認定の申請をしており、そのいずれについても入管法61条の2の4第5項2号に該当することとなったことがある、という立場にあった。2023年の入管法改正で設けられた「3回目以降の申請」の枠に入る人である。
この人は、審査請求を棄却した裁決について、裁判所に効力停止を求めた。行政事件訴訟法の執行停止(効力停止)は、訴訟の結論が出る前に、処分の効き目を一時的に止めておく仮の救済措置である。
裁判所は効力停止を認めた。これを不服とする抗告がされたが、東京高裁は令和7年(2025年)11月27日に抗告を棄却し、効力停止は維持された。抗告した側はさらに許可抗告を申し立て、最高裁第二小法廷が判断することになった。
何が争われたのか
2023年に成立し、2024年6月10日に施行された改正入管法は、難民認定の申請中は送還しないという原則(送還停止効)に例外を設けた。3回目以降の申請者は、難民や補完的保護対象者と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出しない限り、申請中であっても送還の手続を進められる、というものである。
そこで問題になるのが、法律が行政手続の場面で送還停止効を外した人について、裁判所が行政事件訴訟法25条2項の執行停止を認めてよいのか、という点である。同項は、処分によって生じる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときに、執行停止を認めている。
最高裁が退けたのは、次の2つの見方である。第一に、法律があえて送還停止効の対象から外した以上、その事情は裁判所の執行停止の判断にも及ぶはずだ、という見方。第二に、その人が執行停止を求めるには、少なくとも難民と認定すべき資料が存在しうることを示さなければならない、という見方である。
裁判所はどう判断したか
最高裁第二小法廷は、裁判官全員一致で抗告を棄却した。理由は短く、示された判断は2つである。
ひとつは、3回目以降の申請者を送還停止効の対象外とする入管法61条の2の9第4項1号の規定について、その人に関する行政事件訴訟法25条2項の要件の判断に「直ちに影響を及ぼすものとは解されず」としたこと。改正規定があることは、執行停止の入口を自動的に狭めるものではない、という趣旨である。
もうひとつは、同項の「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に当たるというために、難民の認定を行うべき相当の理由がある資料が存在する可能性を示すことまでは必要ではない、としたことである。
そのうえで最高裁は、
所論の点に関して以上と同旨をいう原審の判断は、正当として是認することができる
と述べ、効力停止を維持した東京高裁の判断を支持した。
この判決の意味
この決定が整理したのは、行政の手続の中で送還停止効が及ばなくなることと、裁判所が仮の救済を与えるかどうかは、別の土俵の問題だということである。
2023年の改正をめぐっては、3回目以降の申請者を送還停止効の例外とすることについて、争う機会が実質的に失われるのではないかという懸念が示されてきた。最高裁はその懸念に正面から答えたわけではないが、少なくとも改正規定の存在を理由に執行停止のハードルが上がるという考え方は採らなかった。
もうひとつ実務的に大きいのは、執行停止を求める側に「資料が存在する可能性」の疎明まで求めない、とした点である。送還停止効の例外から外れるには「相当の理由がある資料」の提出が求められるのに対し、裁判所の執行停止では、その入口で同じレベルの説明を要求しない。行政手続の要件と、裁判所の仮の救済の要件は連動しない、という線引きが明示されたことになる。
ただし、これは執行停止が広く認められるようになった、という意味ではない。最高裁が述べたのは、改正規定の存在と資料の疎明という2点が要件の判断を直ちに左右しないということであって、重大な損害があるか、緊急の必要があるかは、引き続き事案ごとに判断される。今回の決定も、仮の救済の段階について判断したものであり、難民として認めるべきかどうかという本体の争いに結論を出したものではない。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。