| 事件番号 | 令和7年(行ツ)第72号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2026-01-27 |
| 通称 | 名張毒ぶどう酒事件 死刑執行上申書開示訴訟 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 死刑執行に関する文書の開示を求めたところ、国は「有無すら答えない」という形で全部不開示にした
- 名古屋高裁はこの決定を適法としたが、最高裁は「肝心の点を判断していない」として破棄し、審理をやり直させた
- 文書の中身が秘密であることと、文書があるかないかが秘密であることは、別々に判断しなければならないと示した
何があったのか
情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)は、国の役所が持っている文書の開示を、誰でも請求できる仕組みを定めています。原則は公開で、個人に関する情報や、犯罪の捜査・刑の執行などに支障が出るおそれのある情報は、例外として不開示にできます。前者が同法5条1号、後者が5条4号です。
この法律にはもう一段の仕組みがあります。同法8条は、文書があるかないかを答えるだけで不開示情報を明かすことになってしまう場合には、行政機関の長は文書の存否を明らかにしないまま請求を拒否できると定めています。「その文書はある」と答えた瞬間に秘密が漏れてしまう場面を想定したものです。実務では「存否応答拒否」と呼ばれます。
この事件で開示を求められたのは、すでに亡くなっていたある死刑確定者に関する死刑執行上申書と、その添付書類でした。請求を受けた法務大臣側は、5条1号と4号の不開示情報に当たるとして、文書の存否を明らかにしないまま全部を開示しない決定をしました。請求した側は、この決定の取消しと、開示決定をするよう義務付けることを求めて裁判を起こしました。
報道によれば、この訴訟は名張毒ぶどう酒事件をめぐるものです。1961年に三重県名張市で起きたこの事件では、5人が亡くなりました。死刑が確定した奥西勝元死刑囚は無実を訴えて再審請求を重ね、死刑が執行されないまま2015年に亡くなっています。開示を求めたのは、この事件で再審請求を続けてきた弁護団側でした。
なお、この判決が扱っているのは、令和3年の法改正より前の情報公開法です。判決文自身がそのことを断っています。
何が争われたのか
存否応答拒否が適法かどうかを考えるとき、論点は二段構えになります。
ひとつは、その文書に記録されている情報が、そもそも不開示情報に当たるのかという点です。もうひとつは、文書の存否を答えるだけで、その不開示情報を開示したことになってしまうのかという点です。8条が求めているのは後者であり、前者だけでは足りません。
請求した側は、この両方を争っていました。文書の中身は不開示情報に当たらないし、仮にそうだとしても、文書の有無を答えるだけで不開示情報が明らかになるわけではないから、8条によって存否を伏せた拒否をすることはできない、という主張です。
ところが原審の名古屋高裁は、文書に記録された情報が5条1号と4号の不開示情報に当たるという理由で決定を適法とし、取消請求を退けました。二つ目の論点、つまり存否を答えるだけで不開示情報の開示になるのかについては、判断を示していませんでした。
裁判所はどう判断したか
最高裁第三小法廷は、裁判官全員一致の意見で原判決を破棄し、事件を名古屋高裁に差し戻しました。
理由は明快です。原審は、
本件文書の存否を答えるだけで、同各号所定の不開示情報を開示することとなるかについて判断をしていない
と指摘したうえで、決定が適法だというためにはこの点に関する主張を排斥することが必要であることは明らかだとして、
原判決には、理由の不備の違法があるといわざるを得ない
と結論づけました。そして、この点について「更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す」としています。
ここで押さえておきたいのは、最高裁が判断したのは原審の判決の書き方についてであって、文書を開示すべきかどうかではないということです。存否応答拒否が違法だと述べたわけでも、文書を開示せよと命じたわけでもありません。差し戻された名古屋高裁が、判断されないままだった論点をあらためて審理することになります。
この判決の意味
存否応答拒否は、請求した側から見ると反論が難しい仕組みです。文書があるのかないのかを教えてもらえないため、何を争えばよいのかが分かりにくいからです。
この判決は、その審査の道筋をはっきりさせたものと読めます。文書の中身が不開示情報に当たるというだけでは、存否を伏せた拒否を適法とする理由にはなりません。存否を答えること自体が不開示情報の開示になってしまうのか、という8条固有の問いに答えなければならず、裁判所がその判断を飛ばしたまま結論を出せば、理由の不備という違法になります。
同じような主張をしている当事者がいる訴訟では、裁判所はこの二つ目の論点にも正面から答える必要がある、という考え方が示されたことになります。
その後・実務への影響
事件は名古屋高裁に戻り、判断されていなかった論点の審理が続きます。開示するかどうかの決着はついていません。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。