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最高裁に出された離婚の訴状 なぜ移送されず却下されたのか

事件番号令和7年(マ)第244号
裁判所最高裁判所第一小法廷
判決日2026-01-28
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 離婚を求める訴状が、本来まったく管轄のない最高裁判所に、弁護士の手で提出された
  • 最高裁は、管轄する裁判所へ回す(移送する)のではなく、訴えそのものを却下した
  • 手続のルールを承知のうえで裁判所を「経由地」に使う訴えは、訴訟上の信義則に反する、という判断が示された
目次

何があったのか

令和7年5月、ある人が弁護士を訴訟代理人として、配偶者に対し離婚などを求める訴状を最高裁判所に提出しました。

この訴状は、書面としてかなり異例のものでした。表題は「遍く女性が光り輝く令和光の離婚等請求事件訴状」に始まる長いもので、提出先として書かれた裁判所の名前にも同じ「令和光」の語が冠されています。原告には「光り輝く令和原告」という肩書が付されていました。

内容面も通常の訴状とは異なっていました。原告の住所として書かれていたのは、北九州市内にある代理人弁護士の法律事務所の所在地です。相手方である被告は、福島県いわき市に住んでいるとされていました。そして訴状には「令和管轄の利益」と題する項目が置かれ、この訴訟を仙台家庭裁判所へ移送するよう求める趣旨が書かれていました。

手数料の印紙は貼られていませんでした。貼用印紙額の欄には「訴訟救助申立中」とありましたが、実際には訴訟救助の申立てはされておらず、郵便切手の予納もありませんでした。

何が争われたのか

離婚を求める訴えは、家庭裁判所に起こすものです。最高裁判所は上告などを扱う最終審であって、離婚の訴えを最初に受け付ける裁判所ではありません。

では、管轄のない裁判所に訴状が出されたとき、その裁判所はどうすべきか。民事訴訟法16条1項は、訴訟が自分の管轄に属しないと認めるときは、職権ででも管轄裁判所に移送する、と定めています。つまり原則は、間違った裁判所に出されても正しい裁判所へ回す、という扱いです。訴えた側が管轄を取り違えても、それだけで門前払いにはならない仕組みになっています。

この事件で問われたのは、その原則をそのまま当てはめてよいのか、という点でした。

裁判所はどう判断したか

第一小法廷は、まず前提を確認します。離婚などを求めて起こされた訴えが最高裁判所の管轄に属するという法令上の定めはないのだから、この訴えが最高裁の管轄に属しないことは明らかである、と述べました。

そのうえで、訴状が求めていた移送先である仙台家庭裁判所についても、そこの管轄に属することをうかがわせる事情はない、と述べました。仮に最初から仙台家庭裁判所に出されていたとしても、結局そこからさらに別の裁判所へ移送されることが見込まれる、という指摘です。

さらに最高裁は、この訴状が法律の専門家である弁護士によって作成・提出されたという点を重く見ました。管轄がないことを十分に認識しながら、あえて最高裁判所を経由し、本来管轄のない裁判所に訴訟を係属させようとしたものだ、と評価しています。そのような訴えの提起は、次のように位置づけられました。

現行法規に則って訴えを提起し訴訟手続を追行するという意思を欠いた不当な目的

移送を認めると、最高裁自身が管轄裁判所を調べる負担を負うことになり、その負担を課すことに法的な正当性は見いだせない、審理が始まるまでの経緯も迂遠である、という点も挙げられています。加えて、この弁護士が今回より前にも同じような行為を繰り返してきたことは裁判所にとって明らかである、とされました。

結論として、この訴えの提起は訴訟制度の趣旨や目的に照らして著しく相当性を欠くとされ、裁判官全員一致で次のように判断されました。

本件訴えは、訴訟上の信義則に反するとして却下すべきものである

なお最高裁は、この扱いをしても、原告が主張する権利の中身について法の予定する手続に沿って裁判を受ける機会が失われるわけではないから、原告の権利を過度に制約するものではない、とも述べています。却下の方法については、上告を決定で却下できると定めた民事訴訟法317条1項の趣旨が当てはまるとして、同項を類推適用し、判決ではなく決定で処理しました。

この判決の意味

裁判所の管轄を間違えたときは移送してもらえる、というのは民事訴訟の基本的な扱いです。今回の決定は、その扱いを否定したものではありません。訴えた側に手続を進める意思があり、単に管轄の判断を誤ったにすぎない場合まで却下される、という趣旨ではないと読めます。

区別されたのは、ルールを知らなかった場合ではなく、ルールを知ったうえで裁判所を利用しようとした場合です。最高裁は、訴状を作ったのが弁護士であること、同種の行為が繰り返されていたことを、その判断材料として明示的に挙げました。民事訴訟法2条は、当事者は信義に従い誠実に訴訟を追行しなければならないと定めており、この事件はその考え方が、訴えの提起そのものの適法性を左右する場面で使われた事例といえます。

依頼者の側から見ると、代理人がどの裁判所にどう訴えを起こすかは、自分ではなかなか確かめにくい部分です。この決定は、その部分に問題があれば訴え自体が却下されうることを示す一方で、実体的な権利については改めて適切な手続で裁判を受ける道が残る、とも述べています。同じような事情があるときに常に同じ結論になるとは限りませんが、訴訟手続の使い方それ自体が審査の対象になりうる、という考え方が示されたものといえます。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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