| 事件番号 | 令和5年(行ヒ)第339号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 2026-01-26 |
| 通称 | 南御堂 山門一体型ホテル訴訟 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 寺の本堂へ続く参道の上に、地上17階建ての賃貸商業ビルが覆いかぶさっている土地。この参道部分が、固定資産税を課せない「境内地」にあたるかが争われた
- 最高裁は、参道として使われている部分も同時に商業ビルの敷地になっている以上、宗教法人が専ら本来の用途に使っている土地とはいえないとして、大阪市の課税を適法と判断した
- 土地の所有権は上下の空間に及ぶので、同じ土地を空間ごとに区切って非課税かどうかを決めることはできない、という考え方が示された
何があったのか
大阪市中心部の主要な街路に面した、地積2589平方メートルの土地。宗教法人が所有し、不動産会社に賃貸していた。会社は令和元年9月30日、この土地の上に地下1階・地上17階建ての建物を新築する。4階の一部と5階から17階までがホテル、それ以外が店舗や事務所という、賃貸用の商業施設である。
この建物は、少し変わった形をしている。地上1階から3階に相当する中央部分が、東西に通り抜けできる幅21.76メートル、高さ約13メートルの空洞になっている。そしてその空洞が、街路から西隣の土地にある本堂へ向かう参道として使われていた。つまり、ビルが参道をまたぐ形で建っている。
判決文では当事者の名前は伏せられているが、報道によれば、この宗教法人は大阪・御堂筋沿いの真宗大谷派難波別院(南御堂)である。山門とホテルが一体になった建物として知られている。
大阪市長は令和2年4月1日、この土地の全部が非課税の境内地にはあたらないという前提で、令和2年度の固定資産税と都市計画税を賦課した。対象となった各土地の税額は、合計3億1847万4000円。寺側は、このうち参道にあたる部分についての課税は違法だとして、その取消しを求めて提訴した。
何が争われたのか
地方税法は、宗教法人が専ら本来の用途に使っている境内建物・境内地には固定資産税を課すことができないと定めている(348条2項3号)。都市計画税も、固定資産税を課せない土地には課せない(702条の2第2項)。
では境内地とは何か。これは宗教法人法3条が定めており、その3号に「参道として用いられる土地」が挙がっている。参道は、それ自体が境内地になりうるものとして条文に書かれている。
問題の土地のうち、参道として使われていた部分の面積は587.10平方メートル。そのうち467.87平方メートルは、その真上に建物の4階から17階までの一部が存在している。この参道部分を非課税の境内地と見てよいのか、それが争点だった。
第1審はこの部分についての寺の請求を退けた。ところが大阪高等裁判所(令和5年6月29日判決)は、寺の請求を一部認めた。土地の所有権は地面だけでなくその上の空間にも及ぶものであり、土地が何の用途に使われているかは、その空間や地下がどう使われているかによって決まる。この土地の上には参道として使われている空間と商業施設の空間とが混在しているのだから、参道部分にまで課税するのは違法だ、という理屈である。高裁は非課税とすべき税額を484万4400円と算定していた。
裁判所はどう判断したか
最高裁第二小法廷は、この高裁の判断は是認できないとした。
出発点は、高裁と同じである。参道として使われていた部分は、宗教法人法3条3号にいう境内地にはあたる。しかし、その上には賃貸用商業施設である建物の4階から17階までの一部が存在していた。そうである以上、その部分は「参道の用に供されていただけでなく、それ以外の用にも供されていた」というべきだ、と最高裁は述べる。
地方税法が非課税としているのは、宗教法人が「専ら」本来の用途に使っている境内地である。参道であると同時に高層ビルの敷地でもある土地は、この「専ら」を満たさない。したがって非課税にはならない、というのが結論だった。
最高裁はさらに、高裁のように空間で切り分ける発想そのものを否定した。土地の固定資産税は、その土地が持つ資産としての価値に目を向け、それを所有しているという事実に税を負担する力を認めて課される財産税だと最高裁は整理する。そして土地の所有権は、その土地の上下に及ぶ(民法207条)。「空間のみを所有権の目的とすることはできない」以上、法令に特別の定めがない限り、空間ごとに非課税の規定を適用することはできない、という筋道である。
最高裁は高裁判決のうち大阪市が敗訴した部分を破棄し、寺側の控訴を棄却した。高裁に差し戻すのではなく、最高裁自身がその場で結論を出した(破棄自判)ため、これで確定している。
裁判官4人のうち3人が多数意見で、1人が反対意見を書いた。
補足意見(三浦守裁判官)は、建物や工作物の立体化・重層化が進むなかで、それにどう課税するかは基本的に立法政策の問題であり、課税の要件は法律で明確に定められる必要がある、と述べた。そのうえで、境内地の上空に高層の商業施設がある以上「専ら」の要件を満たさないことは明らかであり、他の用途との割合に応じて一部を非課税にすべき法令上の根拠も、その割合の算定方法を定めた規定も見当たらない、と指摘している。
反対意見(高須順一裁判官)は、高裁判決を破棄する点では多数意見と同じだが、行き先が違う。多数意見のように解すると、参道の上や下に建物部分があれば、常に非課税の適用が否定されてしまう。「いたずらに非課税の余地を狭める点において妥当性を欠く」というのが反対意見の批判である。参道として使われていた部分と商業ビルの敷地になっていた部分の割合を計算し、按分して課税すれば足りる、と述べる。ただし高裁の計算方法(実際には建物が存在しない空洞部分に1階から3階までの床面積を想定し、容積率の計算に使う面積で按分した)は租税法律主義の観点から疑問が残るとして、審理を尽くさせるために高裁へ差し戻すべきだとしていた。
この判決の意味
条文の「専ら」という一語が決め手になった判決といえる。参道であることは最高裁も認めている。それでも、同じ土地が同時に賃貸ビルの敷地でもある以上、非課税の要件は満たされないという判断だった。
もう一つの意味は、土地の課税を空間で分割する扱いを、法令の根拠なしには認めなかった点にある。建物については、一棟のなかに課税部分と非課税部分がある場合に床面積の割合などで按分する定めが固定資産評価基準にある。しかし土地の境内地について同じことを認める規定はない。反対意見はその不均衡を突いたが、多数意見は、根拠のない按分に踏み込むことを避けた。
なお、これは判決当時の地方税法および宗教法人法の規定に基づく判断である。
その後・実務への影響
この判決は、参道という宗教上の用途が事実として残っていても、その上空を賃貸の収益施設が占めていれば非課税の扱いは受けられない、という線を引いたことになる。土地を貸してその上に高層の建物を建ててもらい、参道だけを従来どおり通す——そうした立体的な使い方をしている宗教法人には、同じ判断が及びうる。
一方で、補足意見と反対意見はいずれも、立体化した土地利用と課税の仕組みとのずれを正面から論じている。割合に応じた非課税を認めるかどうかは条文の解釈ではなく立法で決めるべき事柄だという補足意見の指摘は、今後の制度づくりに向けられたものといえる。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。