| 事件番号 | 令和6年(受)第385号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 2026-01-22 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- マンションの共用部分(外壁や床下)の亀裂が原因で自室が水漏れ被害を受けた住民が、管理組合に損害賠償を求めた
- 最高裁は、マンションの管理組合は特段の事情がない限り共用部分の「占有者」に当たり、工作物の責任を負う立場にあると判断した
- 占有者に当たらないとした東京高裁の判断は破棄され、賠償額などの審理のため高裁に差し戻された
何があったのか
東京都練馬区にある1棟のマンションが舞台です。平成2年5月に新築された総戸数27戸の建物で、平成25年10月から平成27年3月にかけて、4回にわたり漏水事故が起きました。
原因は、外壁のコンクリート躯体部分と床下のスラブ部分に生じた亀裂等です。被害を受けたのは203号室でした。
このマンションの規約には、共用部分の管理は管理組合がその責任と負担で行うという定め(20条)と、管理組合が共用部分の保全・保守・修繕を行うという定め(31条)が置かれていました。
裁判では、亀裂等が工作物の設置または保存の瑕疵に当たること、亀裂等の生じた外壁・床下の部分が共用部分に当たることは、前提となる事実として確定していました。203号室を共有していた住民が、この管理組合を相手取って損害賠償を求めたのが本件です。
何が争われたのか
請求の根拠になったのは民法717条1項です。土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害が生じたときは、まずその工作物の占有者が賠償責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときは所有者が責任を負う、という規定です。
争点は一つ。マンションの管理組合が、この「占有者」に当たるかどうかでした。
管理組合は、建物を所有しているわけではありません。区分所有法によれば、管理組合は区分所有者が全員で構成する団体であり、共用部分そのものは区分所有者たちが持っています。そこに住んでいるわけでもない団体を、法律上の占有者と呼べるのか。ここが問題になりました。
原審の東京高等裁判所(令和5年9月27日判決)は、管理組合は外壁・床下の部分について占有者に当たるとはいえないと判断し、この請求を退けていました。
裁判所はどう判断したか
最高裁判所第一小法廷は令和8年1月22日、裁判官全員一致で、原審の判断は是認できないとしました。
出発点に置かれたのは、民法717条1項がそもそも誰に責任を負わせようとしている規定なのか、という点です。最高裁は、通常有すべき安全性を欠いた工作物を支配し管理して、損害の発生を防ぐべき立場にある者に賠償責任を負わせるところに規定の趣旨があると整理しました。所有しているかどうかではなく、現に支配・管理する立場かどうかを見る、という捉え方です。
そのうえで区分所有法の仕組みに目を向けます。区分所有者は全員で建物等の管理を行うための団体を構成し(3条前段)、共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決めることになっている(18条1項)。これらの規定に照らせば、共用部分は基本的に区分所有者の団体が支配管理して安全性を確保していくことが予定されている、と述べました。管理者の選任や権限についての定め(25条・26条)があることは、この結論を左右しないとも付け加えています。
もう一つ挙げられたのが、お金の流れです。管理組合は区分所有者から持分に応じて共用部分の管理のための費用を集めているのが通例です。だとすれば、共用部分の瑕疵で損害が生じたときに
区分所有者の団体の財産からその賠償をすることが、区分所有者の通常の意思に沿い
被害を受けた人の保護にも資する、というのが最高裁の見方でした。
結論として、区分所有者の団体は
特段の事情がない限り、区分所有建物の共用部分について、民法717条1項本文にいう「占有者」に当たる
と判示しました。そして本件では特段の事情はうかがわれないとして、この管理組合は外壁・床下の部分について占有者に当たると認めています。
原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして、損害賠償請求に関する部分は破棄されました。損害額などについてさらに審理を尽くさせるため、事件は東京高等裁判所に差し戻されています。
この判決の意味
注意したいのは、これで住民側の勝訴が確定したわけではないという点です。最高裁が決めたのは「管理組合は占有者に当たる」という法律上の位置づけまでで、賠償額がいくらになるのか、そもそも認められるのかは、差し戻された高裁の審理を待つことになります。
そのうえで、この判断は共用部分をめぐるトラブルの見取り図を変えるものです。共用部分が原因の漏水で管理組合が責任を負うのかは、これまで下級審の判断が分かれてきた領域だと報じられており、最高裁の判断はこれが初めてとされています。原則が示されたことで、同種の紛争の出発点がはっきりしました。
読む立場によって、意味は二方向に働きます。被害を受けた区分所有者から見れば、原因が共用部分にある以上、管理組合に賠償を求める道筋が明確になりました。他方、管理組合の財産は区分所有者が出し合った管理のための費用です。賠償の負担は、めぐりめぐって住民全体で背負うことになります。最高裁が、賠償を組合の財産から支払うことは区分所有者の通常の意思に沿うと述べているのは、まさにこの構造を踏まえたものといえます。
もっとも、最高裁は特段の事情がない限り、という留保を付けています。どのような事情があればこの原則が動くのかは、この判決からは読み取れません。また民法717条1項には、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていた場合についての定めもあります。個々の事案でどう扱われるかは、今後の裁判の積み重ねによることになりそうです。
なお、この判断は令和8年(2026年)1月時点のもので、判決当時の民法717条1項および区分所有法の規定に基づくものです。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。