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一票の格差2.059倍でも合憲 最高裁が見たのは数字より仕組み

事件番号令和7年(行ツ)第117号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2025-09-26
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 2024年10月の衆議院議員総選挙で、一票の重みに選挙区間で最大2.059倍の開きがあったことが、憲法の求める投票価値の平等に反しないかが争われた
  • 最高裁第二小法廷は、区割りを定期的に見直す仕組みそのものに合理性があるとして、違憲状態にはあたらないと判断し、選挙を無効とする訴えを退けた
  • 「2倍を超えたら直ちに問題」という見方ではなく、その格差がどういう制度の下で生じたのかを見る枠組みが改めて示された
目次

何があったのか

2024年10月9日に衆議院が解散され、同月27日に総選挙が行われた。この選挙の広島県第1区と第2区の有権者が、小選挙区の区割りを定めた公職選挙法の規定は憲法に違反して無効であり、それに基づいて行われた選挙も無効だとして訴えを起こした。いわゆる「一票の格差」訴訟である。第一審にあたる広島高等裁判所は2025年2月12日に判断を示し、有権者側が最高裁に上告した。

この選挙は、新しい区割りの下で行われた最初の総選挙だった。衆議院議員選挙区画定審議会(区画審)が2020年の国勢調査の結果に基づいて改定案をまとめ、2022年6月16日に内閣総理大臣に勧告。これを受けた法改正が同年11月18日に成立し、5都県で合計10人を増やし10県で1人ずつ減らしたうえで、25都道府県の140選挙区で線引きが引き直された。いわゆる「10増10減」である。

何が争われたのか

衆議院の議員定数は465人で、そのうち289人が小選挙区から選ばれる。全国を289の選挙区に分け、それぞれ1人を選ぶ仕組みだ。選挙区ごとに有権者の数が違えば、一票の重みも変わる。

新しい区割りを作った時点、つまり2020年国勢調査の人口で見ると、選挙区間の最大較差は1対1.999だった。ぎりぎり2倍未満に収まっている。ところが選挙当日の有権者数で見ると、最も少ない鳥取県第1区と最も多い北海道第3区との間で1対2.059となり、2倍以上の開きがある選挙区は10に達していた。

この状態が、憲法14条1項などが求める投票価値の平等に反していないか。それが争点だった。

裁判所はどう判断したか

最高裁はまず、憲法が投票価値の平等を求めていることを確認したうえで、それが唯一絶対の基準ではないとする従来の枠組みを示した。議員定数や選挙区の定め方は法律に委ねられており、

選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている

という立場である。人口の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ、行政区画・地勢・交通事情なども考慮してよく、それらを総合しても国会の裁量の限界を超えている場合に初めて憲法違反になる、という考え方だ。

そのうえで最高裁が着目したのは、格差の数字ではなく区割りを見直す仕組みのほうだった。現在の制度は、10年ごとの大規模国勢調査に基づき人口比例で各都道府県に定数を配分(アダムズ方式)して2倍未満になるよう区割りをし、さらに5年目の国勢調査で2倍以上になったときは定数配分を変えずに区割りを直す、という二段構えになっている。これは、区割りを直しても人口が動けば格差がまた広がることを前提に、格差を相当程度縮めた状態が続くよう設計されたものだと最高裁は評価した。

そして、選挙当日に2.059倍になっていたことについても、自然な人口移動以外の要因で広がったとみるべき事情はうかがわれず、広がり方が著しいともいえないとして、

憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたということはできない

と結論づけた。裁判官全員一致の意見で上告は棄却された。

ただし、4人の裁判官のうち高須順一裁判官が個別の意見を述べている。区割りを作った時点の較差が1.999倍と限りなく2倍に近く、短期間で2倍以上になることがほぼ確実に見込まれる区割りだったのだから、その下で行われた選挙は

違憲の問題が生ずる程度の不平等状態(いわゆる違憲状態)にあった

というものだ。もっとも、是正のための十分な期間が経過したとはいえないとして、憲法違反とまでは言えないとしており、結論は多数意見と同じである。

この判決の意味

一票の格差をめぐる議論では「2倍」という数字がひとり歩きしやすい。しかしこの判決が示したのは、2倍を超えたかどうかで機械的に決まるのではなく、その格差がどのような制度の下で生じ、どう是正されることになっているかを含めて判断する、という枠組みだった。

報道によれば、最高裁が衆院選の一票の格差を合憲としたのはこれで3回連続で、全国の高等裁判所に起こされた同種の訴訟でも合憲の判断が続いていた。また、この種の訴訟は近年、裁判官15人全員が加わる大法廷で審理されるのが通例だったが、今回は4人の小法廷で判断が示されており、20年以上ぶりのことだという。判決文が過去の大法廷判決を5件列挙し、その「趣旨に徴して明らか」だとしているのは、争点が既に確立した判断枠組みで処理できるという位置づけを示したものと読める。

一方で、高須裁判官の意見は、区割りを作る時点でぎりぎり2倍未満に収めるやり方そのものに疑問を投げかけている。多数意見が制度の合理性を根拠に合憲状態と判断したのに対し、その制度が機能する前提として最初の区割り自体が適切でなければならない、という指摘である。

その後・実務への影響

この判決は2024年10月の選挙の時点での区割りを判断したものであり、判決後も区割りを定めた公職選挙法の規定は改正されていない。次の見直しはこれからだ。

報道によれば、2025年の国勢調査の速報値が2026年5月末に公表されたことを受け、区画審は2026年6月3日に区割り改定の議論を始めた。今回は5年目の中間的な調査にあたるため、都道府県ごとの小選挙区の数は変えず、県内の線引きを引き直す形になる。総務省の試算では最大較差は2.274倍で、2倍以上の格差がある選挙区は39に上るとされる。勧告は2027年5月までに行われる見通しである。

高須裁判官が意見の末尾で、次の改正では短期間で2倍以上になることがほぼ確実に見込まれるような区割りになってはならないと立法関係者に注意を促しているのは、まさにこの見直しを念頭に置いたものといえる。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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