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1票の格差2.059倍の衆院選はなぜ合憲とされたのか

事件番号令和7年(行ツ)第128号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2025-09-26
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 2024年10月の衆議院議員総選挙で、選挙区によって1票の重みが最大2.059倍違ったことが憲法違反にあたるかが争われた
  • 最高裁第二小法廷は2025年9月26日、憲法の求める投票価値の平等に反する状態にすら至っていなかったとして、選挙を無効とする訴えを退けた
  • 4人の裁判官のうち1人は、結論には賛成しつつ「違憲状態だった」とする意見を書いた
目次

何があったのか

衆議院議員の定数は465人で、うち289人が小選挙区、176人が比例代表から選ばれる。小選挙区は全国に289あり、それぞれ1人ずつを選ぶ。

ここで問題になるのが、選挙区ごとに有権者の数が違うことだ。有権者が少ない選挙区の1票は、多い選挙区の1票より「重い」。この差が1票の格差と呼ばれる。

国会はこの差を縮めるための仕組みを法律で用意している。10年ごとの大規模な国勢調査の結果をもとに、衆議院議員選挙区画定審議会が区割りの改定案をつくり、内閣総理大臣に勧告する。改定案は、各都道府県への議席配分を人口に比例させるアダムズ方式で行ったうえ、選挙区間の人口の格差が2倍以上にならないようにすることが求められている。

この仕組みに従って、審議会は2020年の国勢調査に基づく改定案を2022年6月16日に勧告した。5つの都県で計10人を増やし、10の県で1人ずつ減らす、いわゆる10増10減である。25の都道府県の140選挙区で線引きが変わった。改定を盛り込んだ法律は2022年11月18日に成立した。

2024年10月27日の総選挙は、この新しい区割りで行われた最初の総選挙だった。ところが、2020年国勢調査の時点で1対1.999だった人口の最大較差は、選挙当日の有権者数で見ると1対2.059に開いていた。最も少ない鳥取県第1区と、最も多い北海道第3区との差である。2倍以上になっていた選挙区は10あった。

そこで各地の有権者が、区割りを定めた公職選挙法の規定は憲法に違反し、それに基づく選挙も無効だとして、全国の高等裁判所とその支部に訴えを起こした。最高裁が今回まとめて判断したのは、こうして出た14件の判決に対する上告である。

何が争われたのか

憲法は、1票の重みが等しいこと(投票価値の平等)を求めている。ただし最高裁は、それが唯一絶対の基準ではないという立場を長く取ってきた。憲法は議員定数や選挙区といった事項を法律に委ねており(43条2項、47条)、選挙制度の仕組みをどう決めるかについて国会には広い裁量が認められる、という理解である。

そのうえで最高裁は、全国を多数の選挙区に分けて選挙を行う制度を採る以上、

議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれること

を最も重要かつ基本的な基準としつつ、行政区画、面積、人口密度、住民構成、交通事情といった要素も合理性がある限り考慮してよい、としてきた。憲法違反になるのは、これらを総合してもなお国会の裁量の限界を超えていると言える場合に限られる。

今回の争点は、この枠組みのもとで、2.059倍という数字と、2倍を超えた選挙区が10あったという事実をどう評価するかだった。

裁判所はどう判断したか

最高裁は、まず線引きを見直す仕組みそのものが合理的だと述べた。この仕組みは、区割りを直してもその後の人口移動で差がまた開くことを織り込んだうえで、選挙制度の安定性にも配慮しながら、格差を相当程度縮めた状態が安定して続くように作られたものだからである。

次に、今回の区割りは、この仕組みに従って審議会が作った改定案のとおりに定められたものだと確認した。そして、選挙当日に2.059倍まで開いていたことについては、格差の拡大が自然な人口移動以外の要因によるものとはうかがわれず、

その拡大の程度が著しいものともいえない

と述べて、憲法の求める投票価値の平等に反する状態には至っていなかったと結論づけた。公職選挙法13条1項と別表第1が憲法14条1項等に違反するとはいえない、というのが最高裁の判断である。上告はすべて棄却された。

ただし、4人の裁判官のうち高須順一裁判官は、結論には賛成しながら、理由を異にする意見を書いた。改定の基準となった2020年国勢調査時点での較差が1.999倍と2倍にほとんど接していた点を重く見て、この区割りは

改定後短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれる状況であった

と評価する。そのような区割りのもとで行われた選挙は違憲状態にあった、というのが同裁判官の立場である。もっとも、選挙の時点で初めて2倍超が確認された以上、それまでに国会がさらに線引きを直すことを期待するのは現実的ではないとして、憲法違反とまでは言えないとした。結論としては上告棄却に賛成している。

この判決の意味

判決から読み取れるのは、格差が2倍を超えたこと自体が直ちに憲法違反を意味するわけではない、という考え方である。最高裁が見ているのは較差の数値そのものというより、それを生んだ制度が合理的かどうか、そして拡大の程度が制度の想定を超えるものだったかどうかだ、という点が改めて確認された。

もう一つ注目されたのは、審理の場である。衆議院選挙の1票の格差をめぐる訴訟は、近年は裁判官15人全員が加わる大法廷で審理されるのが通例だった。今回は4人の小法廷が判断しており、報道によれば、小選挙区をめぐる訴訟で小法廷が判決を出したのは24年ぶりとされる。過去の大法廷判決の枠組みで足りる事案だと位置づけられたことがうかがえる。

一方で、高須裁判官の意見は、区割りを作る段階への注文として読める。基準となる国勢調査の時点で2倍未満に収まってさえいれば足りるのか、それとも短期間で2倍を超えることが見込まれる線引きは初めから問題なのか。この論点は残された。

その後・実務への影響

判決の後も、区割りを定める公職選挙法13条1項と別表第1は改正されていない(2026年8月時点)。今回の判断は、2022年の改正で定められた区割りに向けられたものである。

もっとも、見直しの手続きは動き始めている。報道によれば、2025年国勢調査の速報値が2026年5月29日に公表され、これを受けて衆議院議員選挙区画定審議会は2026年6月3日に区割り改定の検討に着手した。2027年5月までに成案をまとめる予定とされる。今回は5年ごとの簡易な調査に基づく見直しであるため、各都道府県に配分される選挙区の数は変えず、都道府県内での線引きの引き直しが中心になる。

高須裁判官の意見も、次の改定にあたっては短期間で2倍を超えるような区割りにならないよう立法に関わる者が留意すべきだ、と結んでいる。次の見直しがどのような内容になるかは、この判決が示した枠組みのもとでも引き続き注目される。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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