| 事件番号 | 令和4年(許)第14号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 2023-10-26 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 相続人の妻が、遺言で相続分をゼロとされたもう一人の相続人に対して、特別寄与料の支払いを求めました。
- 最高裁は、遺言で相続分がないと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使していても特別寄与料を負担しないと判断しました。
- 特別寄与料を誰がどれだけ負担するかは、法定相続分や遺言による相続分の指定という明確な基準で決まる、という考え方が示されました。
何があったのか
ある人(以下、被相続人)が令和2年6月に亡くなりました。相続人は、被相続人の子2人です。
被相続人は生前、自分の財産の全部を子の一方に相続させるという内容の遺言を残していました。最高裁の決定によれば、この遺言は、財産を受け取る子の相続分を全部と指定し、もう一方の子の相続分をないものと指定する趣旨を含むものでした。
相続分をゼロとされた子は、令和3年3月、財産の全部を相続した子に対して、遺留分侵害額請求権を行使するという意思表示をしました。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている取り分のことで、遺言などによってこれが侵害されたときは、侵害された額に相当する金銭の支払いを求めることができます(民法1046条)。
一方、財産の全部を相続した子には妻がいました。この妻は相続人ではありませんが、被相続人の親族にあたります。妻は、相続分をゼロとされた子を相手に、民法1050条に基づいて、特別寄与料のうち相手が負担すべき額の支払いを求める申立てをしました。
特別寄与料とは、相続人ではない親族が、被相続人に対して無償で療養看護などの労務を提供し、その財産の維持や増加に特別の寄与をした場合に、相続人に対して請求できる金銭のことです。なお、妻が具体的にどのような寄与をしたのかは、最高裁の決定文には書かれていません。
何が争われたのか
争点は、遺言で相続分がないと指定された相続人が、遺留分侵害額請求権を行使した場合に、特別寄与料を負担するのかどうかです。
民法1050条5項は、相続人が複数いるときの負担の分け方を定めています。各相続人は、特別寄与料の額に、民法900条から902条までの規定によって算定した自分の相続分を掛けた額を負担する、というルールです。900条と901条は法律が定める相続分、902条は遺言による相続分の指定についての規定です。
このルールをそのまま当てはめると、遺言で相続分をゼロと指定された相続人は、掛ける数字がゼロなので、負担もゼロになります。
これに対して妻の側は、遺言で相続分をゼロとされていても、遺留分の請求をした以上は、遺留分の割合に見合う分だけ特別寄与料を負担するはずだ、と主張しました。
原審の名古屋高等裁判所は、相続分がないと指定された相続人は特別寄与料を負担せず、そのことは遺留分侵害額請求権を行使しても変わらないとして、妻の申立てを却下すべきものとしていました。
裁判所はどう判断したか
最高裁は、妻の側の抗告を棄却しました。原審の判断を正当と認めたことになります。裁判官5人の全員一致の意見です。
最高裁がまず確認したのは、民法1050条5項がなぜ法定相続分や指定相続分を基準にしているのか、という点です。決定は、この規定の趣旨を、相続人どうしの公平に配慮しながら、次の観点から明確な基準を採用したものだと説明しています。
特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を防止する観点
相続人が誰であるか、遺言があるか、遺言の内容がどうなっているか。これらが分かれば負担割合が決まる、という分かりやすさを重視した規定だという理解です。
そのうえで最高裁は、遺留分侵害額請求権の行使は、この条文が負担割合を決める事情として定めていないものだと指摘しました。決定は、
遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情
によって、負担割合が法定相続分などから修正されることはないと述べています。
結論として最高裁は、遺言で相続分をゼロと指定された相続人については、遺留分の請求をした場合であっても、
特別寄与料を負担しないと解するのが相当である
と判断しました。
この決定の意味
この決定は、特別寄与料の負担割合について、条文に書かれた基準どおりに決めるという考え方を最高裁が示したものです。裁判所の公式の判例集である民集にも登載されています。
ポイントは、遺留分侵害額請求によって実際に金銭を受け取るかどうかという事情を、負担割合の計算に持ち込まなかったところにあります。最高裁は、相続人どうしの公平だけでなく、基準が明確であることを重視しました。遺留分侵害額がいくらになるかは、財産の評価などをめぐって争いになることがあります。それが決まらないと特別寄与料の負担も決まらない、という仕組みにはしなかった、と読むことができます。
特別寄与料の制度は、相続法の改正によって新しく設けられた制度です。本件は、その負担割合の決め方について最高裁が判断を示した事例にあたります。
なお、この決定が判断したのは、遺言で相続分がないと指定された相続人が負担するかどうか、という点です。妻の寄与が特別寄与料の対象になるものだったのか、額はいくらが相当なのか、といった点について最高裁は判断を示していません。
また、この決定は、遺言が相続分の指定の趣旨を含むとされた事案についてのものです。遺言の書き方や内容が違う場合に同じ結論になるかどうかは、この決定からは直ちには分かりません。遺言や遺留分、特別寄与料が絡む相続では、個別の事情によって結論が変わりうることに注意が必要です。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。