| 事件番号 | 令和6年(あ)第753号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 2025-01-27 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる決定
- 18歳未満の子の親(監護者)と共謀し、その子と性交をした「監護者ではない人」に、監護者性交等罪が成立するかが問題になりました。
- 最高裁は、刑法65条1項を適用して、監護者ではない人にも監護者性交等罪の共同正犯が成立すると判断しました。
- 親ではない人でも、親と共謀してその影響力に乗じる形で加わった場合には、この罪が成立しうるという考え方が示されました。
何があったのか
被告人は、当時16歳だった児童の監護者ではありませんでした。一方、児童の実母は、その児童を現に監護する立場にありました。
最高裁の決定が前提とした事実によれば、被告人は実母と意思を通じていました。そして、被告人との性交に応じるよう実母から説得などをされた児童と、被告人は性交をしました。
被告人は、監護者性交等罪のほか、いわゆる児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪にも問われました。原審の広島高等裁判所松江支部は、令和6年5月31日に判決を言い渡し、被告人側が最高裁に上告しました。
何が争われたのか
監護者性交等罪とはどんな罪か
監護者性交等罪(令和5年の改正前の刑法179条2項)は、平成29年の刑法改正で新しく設けられた罪です。18歳未満の人に対し、その人を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした場合に処罰されます。
条文は暴行や脅迫を要件としておらず、監護者であることによる影響力に乗じた性交等そのものを処罰の対象にしています。
この罪は、条文上「現に監護する者」が行うことを前提としています。つまり、監護者という立場(刑法でいう「身分」)を持つ人が主体となる罪です。
監護者でない人はどう扱われるのか
本件の被告人は、児童の監護者ではありません。そこで、監護者という身分を持たない人が、監護者と共謀して性交をした場合に、この罪の共同正犯(共に犯罪を実行した者)として処罰できるのかが問題になります。
ここで関係するのが、刑法65条です。65条には次の2つの定めがあります。
- 1項: 犯人の身分によって成り立つ犯罪に加わった場合、身分のない人も共犯とする
- 2項: 身分によって刑に軽重がある場合、身分のない人には通常の刑を科する
監護者でない人がこの罪の共同正犯になりうるのか、なりうるとして65条のどちらの項で考えるのかについては、研究者の間でも論じられていました。
裁判所はどう判断したか
上告そのものは退けた
最高裁はまず、弁護側の上告趣意について、「単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない」として、上告を棄却しました。刑事事件で最高裁に上告できる理由は、憲法違反や判例違反などに限られており、この主張はそれに当たらないという判断です。
あわせて、最高裁での審理中の未決勾留日数のうち110日を刑に算入しました。
「なお」として示された法律判断
そのうえで最高裁は、「なお」として、この事件の核心である法律問題について自らの考えを示しました。
最高裁によれば、監護者の身分のない人が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて18歳未満の人と性交等をした場合、「監護者の身分のない者には刑法65条1項の適用により監護者性交等罪」の共同正犯が成立します。
そして本件については、被告人は児童の監護者ではないものの、監護者である実母と意思を通じ、実母から説得などをされた児童と性交をしたのだから、監護者性交等罪の共同正犯が成立することは明らかだと述べました。
この判断は、裁判官全員一致の意見によるものです。
この決定の意味
身分のない人も「共同正犯」になる
最高裁は、刑法65条1項を適用するという道筋を示しました。65条1項は身分によって成り立つ犯罪についての定めなので、監護者という立場をこの罪を成り立たせる身分として位置づけ、その身分を持つ親と共謀して加わった人も同じ罪の共同正犯として責任を負う、という考え方だと読むことができます。
実際に性交をしたのは監護者ではない被告人であり、子どもに影響力を持つ実母は説得などをした立場でした。最高裁は、このように役割が分かれていても、両者が意思を通じ、監護者の影響力に乗じる形で行われた以上、監護者でない側にもこの罪が成立すると判断したことになります。
親の影響力を「利用する側」にも責任が及ぶ
監護者性交等罪は、監護者であることによる影響力に乗じた性交等を処罰する罪です。この決定は、親本人だけでなく、その影響力を共謀して利用した第三者にもこの罪が成立しうることを示しました。
この決定は、最高裁判所刑事判例集(刑集)にも登載されています。
その後・実務への影響
性犯罪に関する刑法の規定は、令和5年の改正(令和5年法律第66号)で大きく見直され、従来の強制性交等罪は不同意性交等罪に改められました。監護者性交等罪は改正後も刑法179条に規定されています。
最高裁自身も、この決定で適用した条文が令和5年法律第66号による改正前の刑法179条2項であることを明記しています。この決定は、改正前の刑法に基づく判断である点に注意が必要です。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。