| 事件番号 | 令和5年(オ)第360号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所大法廷 |
| 判決日 | 2026-02-18 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 2019年に削除される前の警備業法は、保佐開始の審判を受けた人(被保佐人)は警備員になれないと定めていた。この規定の憲法適合性が争われた
- 最高裁大法廷は、この規定は男性が退職した2017年3月の時点で、職業選択の自由(憲法22条1項)と法の下の平等(同14条1項)に違反するに至っていたと判断した
- ただし、その規定を改めなかった国会の責任は認めず、男性の慰謝料請求は退けた。15人の裁判官のうち5人が反対意見を述べている
何があったのか
軽度の知的障害がある男性が、警備会社に雇われ、交通誘導の警備業務に従事していた。2017年(平成29年)3月、この男性について保佐開始の審判が確定する。
保佐は成年後見制度の一類型で、精神上の障害によって物事を判断する能力が著しく不十分な人について、家庭裁判所が開始するものだ。財産の管理などの場面を保佐人が支える仕組みで、日常の仕事ができなくなるという制度ではない。
ところが当時の警備業法は、被保佐人であることを警備員の欠格事由の一つとして定めていた。男性の雇用契約は、警備業法上の欠格事由が生じたときに終了する内容になっていたため、審判の確定と同時に契約は終わり、男性は会社を退職することになった。
男性は、この規定は憲法に違反しており、国会が退職の時点までに規定を改めなかったことは違法だとして、国に慰謝料の支払いを求めた。
なお、この欠格事由は2019年(令和元年)の法改正ですでに削除されている。170余りの法律に置かれていた同種の欠格条項が、この年にまとめて見直された。
何が争われたのか
争点は2つに分かれる。
1つは、被保佐人というだけで一律に警備員から排除する規定が、憲法に違反していたかどうか。もう1つは、仮に違反していたとして、その規定を改めなかった国会の不作為について、国が国家賠償法上の責任を負うかどうかである。
一審・二審とも、国の責任を一部認めていた。国側がこれを不服として上告している。
裁判所はどう判断したか
規定そのものは違憲だった
大法廷はまず、審査の枠組みを示した。この規定は職業のやり方を規制するものではなく、警備員になること自体を封じるものであり、しかも精神上の障害を理由とする区別である。そのため、合憲といえるためには、その規制が「重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置」であることを要するとした。
そのうえで判決は、時期を区切って検討している。警備業法に同種の欠格事由が置かれた1982年(昭和57年)の時点、および心身の障害のために警備業務を適正に行えない人かどうかを個別に判定する規定(3条7号)が設けられた2002年(平成14年)の時点では、いずれも立法府の裁量の範囲内だったとする。
しかし、その後に事情が変わったと判断した。日本は2014年に障害者権利条約を批准し、それに向けて障害者基本法の改正、障害者差別解消法の制定、障害者雇用促進法の改正などが進められた。2016年には、これらのうち差別の禁止に関する部分が施行され、同じ年に成年後見制度の利用の促進に関する法律も施行されている。こうした積み重ねの中で、労働者について障害を理由とする差別は禁止されるべきだという考え方が確立するに至った、というのが判決の見立てである。
一方、個別に判定する3条7号の実効性を疑わせるような出来事は見当たらず、警備業法を所管する警察庁自身が2018年の政策評価で、被保佐人の欠格事由を削除しても特段の影響は想定されないと評価していた。
以上を総合して、大法廷は、遅くとも男性の退職時点までには、警備業務を適正に行える被保佐人まで一律に排除することによる不利益は看過し難いものになっており、立法府の判断は合理的な裁量の範囲を逸脱するに至っていたと述べた。
本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていた
それでも国の賠償責任は認めなかった
もっとも、法律の内容が違憲であることと、国会議員の立法行為・立法不作為が国家賠償法上違法になることは別問題だ、というのが最高裁の従来からの立場である。判決も、憲法に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃を怠った場合など、例外的な場合に限って違法の評価を受けるという枠組みを維持した。
本件について判決が挙げたのは、次のような事情である。違憲に至った理由が社会や国民の意識の変化にある以上、それは外形的な事実として観察できるものではなく、容易に見て取れるものではない。退職の時点まで、この規定の憲法適合性を論じた学説は見当たらず、裁判所が判断を示したこともなかった。成年被後見人・被保佐人の欠格条項を見直すべきだという指摘自体はあったが、それは成年後見制度の利用を妨げているという観点からのもので、憲法上の問題を理由とするものではなかった。さらに、170余りの法律にまたがる欠格条項を、制度どうしの整合性をとりながら見直すには相応の期間が必要であり、警備業法の規定だけを先行して直さなければならない事情もうかがえない。
こうして最高裁は、国の責任を認めた原審の判断を破棄し、男性の請求を棄却した。
15人中5人が反対意見
三浦守、尾島明、宮川美津子、高須順一、沖野眞已の5裁判官が反対意見を述べた。ほかに補足意見が3つ、意見が1つ付いている。
三浦裁判官は、違憲になった時期を、差別を禁止すべきだという考え方が社会に確立した時期に求める多数意見の組み立てそのものを問題にし、次のように述べた。
少数者の権利の保障が多数者の承認を条件とすることにつながりかねない
この判決の意味
法律の規定そのものを違憲とする最高裁の判断は、これまでにそう多くない。今回はそれに加えて、制定された当時は合憲だった規定が、社会の変化によって途中から違憲になったという構成をとっている点に特徴がある。
そのため、判決は「いつから違憲だったのか」を正面から論じることになった。そして、その時期を意識の変化に求めたことが、賠償を認めない結論にも直結している。意識の変化は外から見えにくいのだから、国会が明白な違憲状態を放置したとまではいえない、という論理だからだ。反対意見が突いたのも、まさにこの接続部分である。
読み手の側から見ると、判決は2つのことを同時に言っている。あなたを排除していたあの規定は憲法に違反していた、しかし、それを放置した国に金銭で償わせることまではできない。違憲だと認められることと、救済が受けられることは、必ずしも重ならない。
その後・実務への影響
問題となった欠格条項は、判決の時点ですでに存在しない。現在の警備業法は、心身の障害を理由とする制限を、業務を適正に行えるかどうかを個別に判定する形(3条7号と国家公安委員会規則)に置き換えている。この判決は、削除される前の規定について、過去の一時点における憲法適合性を判断したものだ。
報道によれば、原告の男性は、違憲だと認められたことを歓迎するコメントを出している。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。