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亡くなった母の刑務所の記録は、遺族の「個人情報」なのか

事件番号令和6年(行ヒ)第362号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2026-02-20
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 刑務所に収容中だった母がいじめを受けたとされる事案の調査記録を、子が自分の個人情報として国に開示請求し、全部不開示とされたことを争った
  • 最高裁は、子が損害賠償請求権を実際に持っているとはいえない以上、記録に残る母に関する情報は子に関する情報ではなく、子を本人とする開示請求はできないと判断した
  • 原審は別の条文を理由に請求を退けていた。最高裁はその理由付けを誤りとしながら、結論だけを維持して上告を棄却した
目次

何があったのか

母は平成30年(2018年)5月に懲役受刑者として刑務所に収容された。収容中、子との面会で、同じ部屋の人からいじめられていると話していた。平成31年(2019年)4月に刑の執行停止で釈放され、令和元年(2019年)12月に死亡している。

子は令和2年(2020年)8月、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律12条1項に基づき、刑務所がそのいじめの事案を調査した記録に記録されている情報などの開示を請求した。同年9月、法務大臣から権限又は事務の委任を受けた行政庁は、その情報は生存する個人に関する情報ではなく、請求した子を本人とする保有個人情報にも当たらないとして、全部を開示しない決定をした。子はこの決定の取消しを求めて国を相手に訴えを起こした。

なお、この法律は令和3年法律第37号によって廃止され、令和4年4月1日から個人情報保護法に統合されている。判決も条文を引くたびに廃止前のものであることを断っており、以下は判決当時の法律に基づく判断である。

何が争われたのか

当時の法律は、誰でも行政機関の長に対して、自分を本人とする保有個人情報の開示を請求できると定めていた。ここでいう個人情報は「生存する個人に関する情報」であって、氏名や生年月日その他の記述等によって特定の個人を識別できるものを指す。そして「本人」とは、その個人情報によって識別される特定の個人をいう。

亡くなった人の情報は、それだけでは個人情報に当たらない。では、遺族が自分の情報でもあると言えるのはどういう場合か。ここが争点になった。

原審の大阪高裁(令和6年7月4日判決)はこう考えた。母が同室者や国に対して損害賠償請求権を持っていたなら、子がそれを相続する。調査記録はその請求権があるかどうかを判断する最も重要な証拠の一つだから、記録の情報は請求権と密接な関連を持つ情報であり、子を本人とする保有個人情報に当たる。そのうえで、刑の執行に関する保有個人情報を開示請求の対象から外す規定(45条1項)を適用して、子の請求を棄却した。

つまり原審は、子の情報だと認めながら、別の除外規定で開示を拒んだことになる。子はこの除外規定の解釈が誤りだと主張して上告した。

裁判所はどう判断したか

最高裁はまず、原審が持ち出した除外規定の使い方を否定した。この規定が対象にするのは刑の執行を受けた者に関する保有個人情報である。母はすでに生存する個人ではないから、母に関するものとしてこの規定に当たることはない。子は刑の執行を受けた者ではないから、子に係るものとして当たる余地もない。原審の判断には解釈適用を誤った違法がある、とした。

ここまでは子の主張が通った形になる。しかし最高裁は、その先で結論を変えなかった。

開示請求が認められるには、その情報が請求した本人のものでなければならない。そこで最高裁は、母の同室者や国に対する損害賠償請求権について、子は「その発生の可能性を主張しているにとどまる」のであって、実際にその権利を持っているとはいえないとした。権利を持っていない以上、調査記録に残された母に関する情報は、子が持つ損害賠償請求権に関する情報とはいえず、子に関する情報ともいえない。母に関する情報から子を識別することもできない。

そして、その記録が請求権の存否を判断する重要な証拠であるかどうか、請求権と密接に関連する情報であるかどうかによって、この結論は左右されないと述べた。他に子を識別できる記述が記録されていることをうかがわせる事情も見当たらないとして、「本件情報は、上告人を本人とする保有個人情報に当たらないというべきである」と結論づけている。

そうであれば不開示決定は適法であり、請求を棄却した原審の判断は結論において是認できる。原審の理由付けの誤りは結論に影響しないとして、裁判官全員一致で上告は棄却された。

この判決の意味

これまでの下級審の裁判例には、開示請求の対象になった情報が、請求者の主張する死者の損害賠償請求権の存否に密接に関連するのであれば、請求者を本人とする保有個人情報に当たるとするものが見られた。この事件の原審もその流れに沿っている。

補足意見を書いた林道晴裁判官と石兼公博裁判官は、その考え方を法律の条文から離れた判断だと位置づけ、「法の規定に従って検討することが肝要であり」と述べている。重要な証拠かどうか、密接に関連するかどうかを基準に判断するのは相当でない、という指摘である。

同時に補足意見は、この判決が事例判断の一つにすぎないことにも注意を促している。たとえば、労災の保険給付を請求した労働者が亡くなり、遺族が未支給の保険給付を請求して支給決定を受けている場合、その労働者の請求について作られた調査結果復命書に遺族の氏名がなくても、遺族を本人とする保有個人情報に当たるとする情報公開・個人情報保護審査会の答申がある。相続税の更正処分を受けた相続人について、相続財産の調査関係書類が同じように扱われた答申もある。補足意見は、いずれも請求者自身が権利を取得していたり納税義務者として特定されていたりする点で説明できると整理し、法廷意見はそうした事案を論じたものではないとしている。

分かれ目は、請求する人自身に権利や義務が生じているかどうかにある。可能性を主張しているだけでは足りないが、支給決定や課税処分のように自分に関する処分が現にあれば、その書類は自分に関する情報として扱われる可能性がある、という整理になる。

その後・実務への影響

記録を見たい遺族にとって、開示請求だけが道ではない。補足意見は、訴えを起こすために証拠を集める必要があるなら、訴え提起前の証拠収集の処分や証拠保全の申立てでその必要が満たされることもあると述べ、この事件でも子が申し立てた証拠保全の手続で調査記録の検証が行われたことが記録上うかがわれる、と指摘している。

補足意見はさらに、個人情報保護法制の外にも道があることに触れている。医療や介護の分野では、死者に関する情報が遺族の個人情報に当たるかどうかにかかわらず、個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンスによって遺族への診療情報の提供が定められている。警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律や医療法にも、遺族への情報提供を定めた規定がある。これらは個人情報保護法制の枠組みの外の問題であり、法廷意見はその当否を論じるものではないと付け加えられている。

亡くなった家族の記録を求める場面は珍しいものではない。この判決が示したのは、その求めを個人情報の開示請求という枠に乗せるには、条文の定める要件をひとつずつ満たす必要がある、という考え方である。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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