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住所を明かさなかった被告人への郵便送達、最高裁が有効と判断

事件番号令和6年(あ)第1087号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2026-01-14
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 控訴を申し立てた被告人が住所を明らかにせず、裁判所が送った書類が届かないまま審理が進んだことの当否が争われた
  • 最高裁は、裁判所に尋ねられても住居を答えなかった本件の事情の下では、戸籍の附票の住所に宛てた書留郵便による送達は有効だと判断した
  • 書類が現実に手元に届かなくても、その不利益は届出をしなかった側が負う、という考え方が示された
目次

何があったのか

窃盗の現行犯として逮捕された人が、逮捕された当初から氏名や住所といった人定事項を話しませんでした。検察官は住居不詳のまま起訴し、被告人は第1審の第1回公判期日における人定質問に対しても答えませんでした。

第1審の裁判所は、住居不詳のまま、罰金40万円の判決を言い渡しました。あわせて、判決前に身柄を拘束されていた日数(未決勾留日数)のうち、1日を5000円に換算して罰金額に満つるまでの分を刑に算入するという扱いをしています。

判決の当日、第1審の弁護人が控訴を申し立てました。同じ日、裁判所書記官は釈放された直後の被告人に対し、控訴審の弁護人照会などのために帰着先や連絡先を教えてほしいと伝えましたが、被告人は回答を拒み、その後は所在が分からなくなりました。

控訴審となった高等裁判所は、戸籍の附票に記載されている住所に宛てて、弁護人選任に関する通知と照会書などを発送しました。しかしこれは「あて所に尋ねあたりません」という理由で返送されてきます。裁判所は、検察事務官から、裁判所に提出されていない記録(不提出記録)を探しても住居所の記載がある記録は見つからなかったと聴き取り、検察官からは戸籍の全部事項証明書などの提出を受けましたが、附票の住所に変更はありませんでした。

そこで高等裁判所は、同じ住所に宛てて、控訴趣意書差出最終日通知書、公判期日召喚状、国選弁護人選任通知書を書留郵便に付して送達しました。第1回公判期日の後には、第2回公判期日召喚状も同じ方法で送っています。被告人が出頭しないまま審理は進み、令和6年8月7日の第2回公判期日で、控訴を棄却する判決が言い渡されました。

何が争われたのか

被告人側は上告し、この郵便による送達のせいで被告人は公判期日を知ることができず、被告人が出頭しないまま審理を進めた控訴審の訴訟手続には法令違反があると主張しました。

ここで問題になっている「書留郵便に付する送達」は、付郵便送達とも呼ばれる方法です。書類を書留郵便で発送した時点で送達があったものとして扱い、相手が現実に受け取ったかどうかは問いません。刑事訴訟規則は、控訴を申し立てた被告人に住居や送達を受け取る人を届け出るよう求めており、その届出がないときは、裁判所書記官がこの方法で送達できると定めています。

つまり争点は、被告人の住所が分からない状態になった経緯に被告人自身の対応が関わっている場合に、戸籍の附票に記載された住所へ宛てた付郵便送達を有効と認めてよいか、という点でした。

裁判所はどう判断したか

最高裁第三小法廷は、弁護人の上告趣意は単なる法令違反や事実誤認の主張であって刑事訴訟法405条が定める上告理由に当たらないとしたうえで、送達が有効かどうかについては職権で判断を示しました。

まず、被告人は第1審判決に対して控訴を申し立てながら、控訴審の裁判所に住居や送達受取人の届出をしていない。それならば、規則の定めにより書留郵便等に付して送達をすることができる、としました。この点については、平成19年4月9日の同じ第三小法廷の決定が参照されています。

そのうえで、控訴を申し立てた被告人が

裁判所から尋ねられても住居等を明らかにしなかった

などという本件の事情の下では、戸籍の附票の住所に送達された書類が現実には被告人に届かないとしても、

その不利益を被告人が受けるのはやむを得ない

というべきだとして、控訴審が行った付郵便送達は有効だと結論づけました。上告は棄却され、裁判官全員一致の意見によるものとされています。

この判決の意味

この決定が示しているのは、送達の効力を、届いたか届かなかったかという結果だけで決めているわけではない、という点です。裁判所は、控訴審が何もせずに郵便を送ったわけではないことを事実として細かく拾い上げています。附票の住所に普通に発送してみたこと、返送された後に検察事務官から記録の状況を聴き取ったこと、あらためて戸籍の証明書で附票の住所に変更がないかを確かめたこと。こうした経過を積み上げたうえで、なお所在がつかめない状態だったと認定しています。

同時に、住所を明らかにしなかったのが被告人自身の選択だった点も重く見られています。逮捕された時から人定事項を話さず、第1審の人定質問にも答えず、控訴を申し立てた直後に書記官から連絡先を尋ねられても回答を拒んでいる。自分から控訴という手続を起こしながら、連絡がつく状態を作らなかったという評価につながっています。

一般の読者にとっての含意も、そこにあります。裁判所からの書類は、届出のあった住所に送られるのが原則で、受け取らなかったこと自体が手続を止める理由になるとは限りません。同じような事情があれば、書類が現実に手元に届かなくても手続が進む可能性がある、という考え方が示された事例だといえます。

なお、この決定は令和8年(2026年)1月のもので、当時の刑事訴訟法および刑事訴訟規則に基づく判断です。個別の事案でどう扱われるかは、その事案ごとの事情によって変わります。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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