MENU

高裁は一審判決をどこまで覆せるか 最高裁が示した破棄の限界

事件番号令和6年(あ)第1161号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2025-07-07
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 高裁は、一審が被害者の供述調書を証拠に採用した手続に違法があるとして一審判決を破棄し、自ら一審より軽い刑を言い渡した
  • 最高裁は、その高裁の判断のほうに、刑事訴訟法の解釈適用を誤った違法があると指摘した
  • ただし上告したのは被告人側であり、職権で原判決を破棄すべき場合には当たらないとして、上告そのものは棄却された
目次

何があったのか

窃盗と強盗致傷に問われた被告人の刑事裁判である。

一審では、強盗致傷の被害者が法廷で供述できない状態にあったことから、検察官が作成した供述調書の抄本(必要な部分だけを抜き書きしたもの)を証拠として採用する決定がされ、これも用いて有罪の判断がされた。

刑事裁判では法廷での証言が原則で、書面が証拠になるのは例外に限られる。刑事訴訟法321条1項2号前段は、供述した人が死亡・所在不明などの理由で法廷で供述することができないときに、検察官の面前での供述を録取した書面を証拠にできると定めている。一審はこの規定によって調書の抄本を採用していた。

これに対して仙台高等裁判所は2024年(令和6年)8月6日、一審のこの証拠採用に問題があるとした。高裁は、一審には「証拠能力をいまだ獲得していない証拠を採用し、事実認定に供した違法がある」として、刑事訴訟法397条1項・379条により一審判決を破棄。そのうえで自ら判決を言い渡し(自判)、一審と同じ犯罪事実を前提にしながら、一審判決よりも軽い刑を科した。

何が争われたのか

被告人側が上告した。

最高裁はまず、上告趣意について、憲法違反をいう点を含め実質は単なる法令違反・事実誤認の主張であって、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとした。上告理由としては通らない、という判断である。

ところが最高裁は、そこで終わらせずに「なお」と続け、高裁が一審判決を破棄したこと自体を取り上げた。高裁が破棄の根拠にした訴訟手続の法令違反(379条)は、そもそも存在したのか。ここが本件の実質的な争点になった。

裁判所はどう判断したか

最高裁が着目したのは、高裁の判決文の中にある食い違いだった。

高裁は一方で、一審の証拠決定は証拠能力を備えていない証拠を使ったもので違法だとしていた。しかし他方で、控訴審での事実の取調べの結果も踏まえて、その証拠決定の時点で既に被害者が供述できない状況にあったとも述べていた。

最高裁は、後者を述べている以上、高裁は結局のところ、証拠決定の時点で321条1項2号前段の要件が満たされていたと認めたことになると整理した。そうであれば、証拠決定それ自体が違法だとはいえない。にもかかわらず高裁は379条の事由があるとして一審判決を破棄したのだから、その判断には397条1項・379条の解釈適用を誤った違法がある——これが最高裁の結論で、裁判官全員一致の意見である。

もっとも、上告したのは被告人側だった。最高裁は、この違法は、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときに職権で破棄できるという規定(刑事訴訟法411条)を適用すべき場合には当たらないとした。結果として上告は棄却され、一審より軽い刑を言い渡した高裁判決は維持されている。

2人の裁判官が付けた補足意見

この決定には、渡辺惠理子裁判官と平木正洋裁判官の補足意見が付いている。取り上げられたのは、高裁が一審と同じ犯罪事実を前提にしながら、一審より軽い刑を言い渡した点である。

補足意見は、控訴裁判所が一審判決を破棄して自ら有罪の判決をするときは自判の時点を基準に量刑を判断することになるとしつつ、破棄の理由が一審の量刑判断の基礎となる事実の認定を動かすものでない場合には、「基本的に第1審判決の量刑判断を尊重すべき」であり、一審と異なる刑を言い渡すのであれば「第1審判決と異なる結論に至った実質的な理由を示すべき」だとした。

理由として挙げられたのは、量刑不当を理由とする破棄について裁判実務で積み重ねられてきた共通認識である。量刑判断の前提となる事実の認定・評価が明らかに不合理であるときや、行為責任・公平性の観点から明らかに不合理であるときを除いて、一審の量刑判断を尊重するという考え方で、補足意見はこれが裁判員制度の導入を契機とする議論などを通じて形成されてきたものだと説明している。理由を示さないまま刑を変えれば、この考え方と相いれない結果になりかねない、という懸念である。

補足意見はさらに、本件の高裁判決について、判文全体を見ても一審と異なる量刑判断をした実質的な理由を示しているとはいえない、と指摘している。

この判決の意味

控訴審は一審をやり直す場ではなく、一審の審理と判決のどこに法律の定める破棄の理由があるのかを審査する場である。補足意見もその点に触れており、今回の決定は、この建て付けを具体的な事案で確認したものといえる。

高裁は、証拠として使える資格がまだ備わっていなかったと述べる一方で、その時点で既に被害者は供述できない状況にあったとも述べていた。この2つは両立しない。最高裁は、後者を前提にする以上、破棄の理由となる手続の違法はなかったことになると判断した。破棄の理由は判決文の中で一貫している必要がある、という当たり前のことが、実際に問題になった事例である。

もう一つは補足意見が示した点だ。控訴審が一審の刑を変えるのであれば、なぜ変えるのかを判決の中で説明すべきだという考え方が、最高裁の裁判官によって明示された。法廷意見ではないため拘束力を持つものではないが、量刑をめぐる控訴審の判決の書き方に向けられた具体的な指摘である。

その後・実務への影響

被告人にとっては、上告が棄却された結果、高裁が言い渡した刑がそのまま残った。最高裁が高裁の判断に違法があると指摘しながら破棄しなかったのは、上告したのが被告人側であり、職権で破棄すべき場合には当たらないと判断したためである。

この決定は最高裁判所刑事判例集(刑集)第79巻5号に登載されている。控訴審が一審判決を破棄して自ら刑を言い渡す場面で、破棄の理由や量刑を変えた理由をどう示すかが問われたときに、参照される可能性がある。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次