MENU

機能性表示食品の検証報告書、黒塗りはなぜ認められなかったのか

事件番号令和6年(行ヒ)第94号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2025-06-06
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 消費者庁が外部機関に委託した機能性表示食品の検証報告書について、黒塗り部分を開示しない扱いが適法かどうかが争われました
  • 最高裁は、不開示を適法とした高裁の判断には法令違反があるとして原判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻しました
  • 開示するとチェックの内容が事業者に知られてしまう、という説明だけでは不開示を支えられない、という考え方が示されています
目次

何があったのか

機能性表示食品は、健康の維持などに役立つ成分(機能性関与成分)が入っていることを、科学的根拠に基づいて容器包装に表示できる食品です。判決によれば、当時の制度では、事業者が安全性と機能性の根拠に関する情報などを販売の60日前までに消費者庁長官に届け出る仕組みになっていました。

制度が始まったのは2015年4月ですが、届け出られた成分の分析方法には、試験機関の標準作業手順書が付いていない、届出者が独自に定めた方法が示されているだけで第三者機関では分析できない、といった問題がありました。そこで消費者庁は、届出資料の質を上げ、事後監視の基礎資料を得るため、外部の機関に検証事業を委託します。内容は、届け出られた分析方法で成分をきちんと測れるかどうかの検証と、実際に商品を買い上げて6種類の成分の表示値が妥当かを調べる買上調査でした。

この検証機関がまとめた報告書について、ある人が情報公開法に基づいて開示を請求します。消費者庁長官は2016年11月に一部を開示しない決定をし、2017年3月にこれを変更して、検証の手法や基準、検証結果のデータ、考察内容、問題点などが書かれた部分を不開示としました。請求者は、その不開示部分の取消しと開示の義務付けを求めて訴えを起こしました。

何が争われたのか

根拠となったのは情報公開法5条6号です。国などの事務や事業に関する情報のうち、公にすることでその事務や事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものは、開示しなくてよいという規定で、同号イは監査・検査・取締りなどに関して、違法または不当な行為を容易にするおそれがある場合を挙げています。

国の側の説明はこうでした。報告書を開示すれば、消費者庁がガイドラインのどの部分を中心に事後監視をしているか、検証機関がどの程度の不備を問題視したかが推知される。そうなると事業者は指摘を免れやすくなり、検証機関も忌たんのない指摘をしにくくなる、というものです。東京高裁(2023年11月9日判決)はこの説明を受け入れ、請求を退けました。

裁判所はどう判断したか

最高裁は、裁判官全員一致で高裁の判断を是認できないとしました。理由は3点です。

第一に、ガイドラインには、ある分析方法が妥当かどうかを判断する具体的な基準にあたる記載があるとはうかがわれません。しかも検証を行ったのは消費者庁自身ではなく委託を受けた外部機関で、報告書に、その機関がガイドラインにどう依拠したかを示す情報が記録されていることをうかがわせる事情も見当たらない。だとすれば、開示によって事後監視の中心が推知されるとは直ちにいえない、としました。

第二に、どの程度の不備を問題視するかは、主に検証機関が持つ知見によって判断されたとも考えられます。しかし最高裁は、その知見が検証機関独自のもので事業者が通常は知り得ないものかどうかは明らかでない、と述べます。

事業者においても通常知り得るような一般的なものである可能性は否定し難い

そうである以上、問題視のしかたが事業者に推知されたとしても、それだけで指摘を免れやすくなるとは直ちにいえない、という判断です。

第三に、高裁はこの2点のほかに、忌たんのない指摘が困難になるといえる理由を示していませんでした。

以上から最高裁は、これらの点を認定・説示しないまま不開示情報にあたるとした高裁の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして、原判決を破棄しました。**注意したいのは、最高裁が開示せよと命じたわけではないことです。**審理を尽くさせるため、東京高裁に差し戻しています。

補足意見が示したもの

この判決には、宇賀克也裁判官の補足意見が付いています。法廷意見とは別に述べられたものですが、判断の枠組みを具体的に示しています。

補足意見は、5条6号イのおそれは名目的なものでは足りず実質的なものである必要があり、抽象的な可能性ではなく法的保護に値する程度の蓋然性が要求されること、その立証責任は国が負うこと、柱書きの適正という要件の判断では、開示による支障だけでなく開示がもたらす公益も比較衡量しなければならないことを確認します。

そのうえで数字を挙げています。平成27年度に分析方法の情報に不足等があったとされた68件のうち、62件は変更の届出、6件は撤回の届出がされ、行政指導や行政処分に至った例はない。平成28年度の242件についても、144件が変更、13件が撤回、85件が対応中で、やはり処分に至っていない。指摘されても届出を直せば足りるのだから、わざわざ手間をかけて脱法的な方法を考える事業者がいるとは想定しにくい、という見立てです。

高裁の審理については、こう述べています。

開示がもたらす公益については、全く考慮した形跡が窺われない

この判決の意味

情報公開の場面では、行政の側が支障のおそれを説明して不開示とすることがあります。この判決は、そのおそれを認めるには、どういう事実関係が確かめられている必要があるのかを、事案に即して具体的に指摘したものと読めます。手の内が知られるという説明も、報告書に本当にその手の内が記録されているのか、用いられた知見が外部には分からないものなのか、といった点が確かめられて初めて成り立つ、という整理です。

なお、この判断は、不開示決定がされた当時の情報公開法5条6号の規定に基づくものです。

その後・実務への影響

報道によれば、2025年9月に消費者庁がこの検証事業報告書を公表し、その後、請求者側が高裁での審理を取り下げたとされています。差戻審の判断が示される前に、行政の側が開示に応じた形です。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次