| 事件番号 | 令和5年(行ツ)第334号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2024-05-07 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 税務署長が会社の青色申告の承認を取り消す際、事前に会社側へ弁明や反論の機会を与えなかったことが、憲法31条(適正手続)に反するかが争われました。
- 最高裁は、青色申告の承認取消処分について事前の防御の機会がなくても憲法31条の趣旨に反しないと判断し、会社側の上告を退けました。
- ただし5人の裁判官のうち1人が、事前手続は憲法上の原則として必要だとする反対意見を書いており、判断は全員一致ではありませんでした。
何があったのか
ある会社が、行橋税務署長から、平成30年7月1日から令和元年6月30日までの事業年度以後の法人税について、青色申告の承認を取り消す処分を受けました。処分は令和元年12月10日付けです。
青色申告は、きちんと帳簿をつけることを条件に、税務上の特典を受けられる仕組みです。承認が取り消されると、以後その特典を受けられなくなります。
会社は、この処分を受ける前に、自分の言い分を述べたり反論したりする機会がまったく与えられなかったとして、処分の取消しを求めて裁判を起こしました。福岡高等裁判所(令和5年6月30日判決)でも会社側の主張は認められず、会社が最高裁に上告しました。
なお、判決文には、そもそも何を理由に承認が取り消されたのかは書かれていません。今回の最高裁の判断の対象は、取消しの理由の当否ではなく、取り消す前の手続のあり方です。
何が争われたのか
憲法31条は、法律の定める手続によらなければ刑罰を科されないと定めた条文です。刑事手続についての規定ですが、行政機関が人の権利を制限する処分をする場合にも、その趣旨が及びうるかが古くから議論されてきました。
一般の行政処分については、行政手続法が、許認可の取消しなどの不利益処分をする前に、相手方の意見を聴く手続(聴聞や弁明の機会の付与)を定めています。しかし、国税通則法74条の14第1項は、税に関する法律に基づく処分について、行政手続法の不利益処分の規定を、理由の提示に関する部分を除いて適用しないとしています。そのため、青色申告の承認取消しでは、事前に意見を述べる機会が法律上用意されていません。
会社側は、このように事前の防御の機会がないまま処分がされたことは憲法31条に違反する、と主張しました。
裁判所はどう判断したか
最高裁第三小法廷は、会社側の上告を棄却しました。多数意見の結論は次のとおりです。
その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとはいえない
理由としては、処分によって制限を受ける権利利益の内容や性質などに照らすと、このように言えるとし、平成4年7月1日の最高裁大法廷判決の趣旨から明らかだとしています。この大法廷判決は、行政処分の相手方に事前の告知・弁解・防御の機会を与えるかどうかは、制限される権利利益の内容や程度、処分で達成しようとする公益の内容や緊急性などを総合的に比べて決めるべきもので、常に必要というわけではない、という枠組みを示したものです。
残りの上告理由については、違憲をいうものの、民事訴訟法が定める上告理由のいずれにもあたらないとして退けました。
補足意見:審査請求の手続と、行政手続法の制定
裁判長の渡惠理子裁判官は補足意見で、多数意見の考え方を2点補っています。
1つ目は、青色申告の承認取消しには、専門性を持ち第三者的な機関ともいえる国税不服審判所への審査請求という、充実した事後の手続があることです。事後の手続があるだけで事前手続が不要になるわけではないが、総合的に比べる際の考慮要素の1つになる、という位置づけです。
2つ目は、同じ趣旨の最高裁判決(平成4年9月10日の第一小法廷判決)の後に行政手続法が制定されるなど事情の変化はあるものの、関係規定の制定経緯なども踏まえたうえで、憲法判断を変える必要はないと判断した、という説明です。
反対意見:事前手続は憲法上の原則だ
宇賀克也裁判官は反対意見で、不利益処分をする前に根拠と事実を通知し、意見を述べる機会を保障することは憲法上の適正手続として原則的に求められ、青色申告の承認取消しを例外とする合理的な理由は見当たらないと述べました。
原判決は、税の処分に行政手続法の適用が除外されている理由として、①事後の不服申立て手続が整っている、②大量・反復的に行われる、③限られた人員で迅速に処理する必要がある、④処分の理由は示される、といった点を挙げていました。宇賀裁判官は、これらを1つずつ退けています。
- ①について:憲法31条は違法・不当な処分がされないように事前の手続を求めているのであり、「事後の救済手続が整備されていれば、事前手続がおよそ不要であるということにはならない」。
- ②について:青色申告の承認取消しは相手方への不利益が大きく、実際には個々の事案ごとに慎重な事実確認がされているはずで、大量処理だから事前手続の余裕がないという理解は実際の税務行政の姿とかけ離れている。
- ③について:弁明の機会の付与に相当する手続であれば、「弁明書の提出期限を1週間程度とすることも許容されると考えられる」ので、迅速性は事前手続をまったく保障しない理由にならない。
- ④について:理由の提示と事前に意見を述べる機会とは役割が違い、行政手続法も両者を別々の規定として設けている。
そのうえで宇賀裁判官は、本件処分は違憲であり取り消すべきだとし、平成4年9月の第一小法廷判決も変更すべきだとしました。
この判決の意味
この判決により、青色申告の承認取消処分を事前の弁明の機会なしに行っても、憲法31条の趣旨に反しないという最高裁の立場が改めて確認されました。補足意見によれば、平成4年9月の第一小法廷判決は判例集に載っていないものでしたが、行政手続法の制定という事情の変化を念頭に置いても、その判断を維持したことになります。
一方で、多数意見は、青色申告の承認取消しという個別の処分の性質を踏まえた判断です。行政処分一般について事前手続が不要だと述べたものではありません。事前手続が必要かどうかは処分ごとに総合的に判断するという、平成4年の大法廷判決の枠組みに沿ったものといえます。
また、反対意見は税務の実務にまで踏み込んで事前手続の必要性を論じており、行政手続と憲法の関係を考えるうえで、多数意見とあわせて読まれる判決となりました。判決後、法学雑誌などでもこの判決を取り上げた評釈が出ています。
なお、この判決は、判決当時の法人税法127条1項と国税通則法74条の14第1項の定めを前提にした判断です。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。