MENU

買収で当選無効になった市議は、在任中の報酬を全額返すべきか

事件番号令和4年(行ヒ)第317号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2023-12-12
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 選挙で買収の罪に問われ、有罪が確定して当選が無効になった元大阪市議に対し、市が在任中に払った議員報酬と政務活動費を返すよう求めた
  • 最高裁は、元市議が議員として活動していた期間の分も含め、議員報酬等と政務活動費の全額の返還を命じた
  • 活動した分は手元に残してよいとした高裁の判断を退けたもので、この点について最高裁が判断を示したのは初めてと報じられた。ただし1人の裁判官が反対意見を述べている
目次

何があったのか

平成31年4月7日の大阪市議会議員選挙で当選した人物が、この選挙に関して、公職選挙法が定める「公職の候補者による買収」の罪で起訴されました。令和元年9月6日に懲役1年・執行猶予5年の有罪判決を受け、この判決は令和2年2月13日に確定しました。

公職選挙法251条は、当選人がその選挙に関して一定の選挙犯罪を犯し刑に処せられたときは、その当選を無効とすると定めています。当選無効の効果は当選時にさかのぼるため、この元市議は「最初から議員ではなかった」ことになります。

ところが、有罪が確定するまでの間、大阪市は元市議を議員として扱い、お金を払っていました。

  • 令和元年5月分から令和2年2月分までの議員報酬と、令和元年6月・12月の期末手当(源泉徴収税額を差し引いて1001万0611円)
  • 元市議が1人だけで結成した会派に対する、令和元年7月分から令和2年2月分までの政務活動費(合計410万4000円)

そこで大阪市は、当選が無効になった以上これらを払う法律上の理由はなくなったとして、元市議に対し、民法の「不当利得」の考え方に基づいて返還を求めました。

何が争われたのか

元市議は、市の請求に対して相殺を主張するなどして争いました。

有罪が確定するまでの間、自分は実際に議員として活動しており、市はその活動によって利益を受けた。だから自分の側にも同じ額を返してもらう権利(不当利得返還請求権)があり、それと市の請求を差し引きすべきだ、という主張です。

大阪高裁(原審)は、この主張を一部認めました。

  • 議員報酬等については、逮捕・勾留されていた期間を除き、議員として相応の活動をしていたので、その期間の分は相殺できる
  • 政務活動費についても、会派が条例で定められた範囲で使って調査研究等を行った分は、市が利益を受けたといえる

つまり高裁は、返還すべき額を「実際に活動した分」だけ減らしたのです。大阪市はこれを不服として最高裁に上告受理の申立てをしました。

裁判所はどう判断したか

最高裁第三小法廷は高裁の判断を変更し、元市議の相殺の主張をすべて退けました。そのうえで、元市議に1411万4611円(議員報酬等と政務活動費の合計額)と利息の支払いを命じました。事件を高裁に差し戻すのではなく、最高裁自身が結論を出しています。

政務活動費について

最高裁は、政務活動費はそもそも議員の活動への「対価」ではないと指摘しました。大阪市の条例に基づく政務活動費は、

市会議員の調査研究その他の活動に資するために必要な経費の助成として交付されるもの

であって、活動の見返りとして払われるものではない、という理解です。そのため、当選無効となった人を唯一の所属議員とする会派が活動をしていたとしても、それによって市が利益を受けたとは評価できないとしました。

議員報酬等について

こちらは裁判官の意見が分かれました(5人中4人の多数意見)。

多数意見は、選挙犯罪で刑に処せられた当選人は、

自ら民主主義の根幹を成す公職選挙の公明、適正を著しく害したものというべきであり

公職選挙法251条はそのことを踏まえて当選の効力をさかのぼって失わせている、と述べました。そこから、当選無効となった人が議員として活動していたとしても、「それは上告人との関係で価値を有しないものと評価せざるを得ない」(上告人=大阪市)と結論づけています。

つまり、活動をしていたという事実はあっても、市との関係ではその価値はゼロと評価する、という判断です。

この判決の意味

この判決の特徴は、実際に働いた分まで返させるのか、という素朴な疑問に対し、多数意見が「返させる」とはっきり答えた点にあります。その根拠は、議員報酬の性質というより、選挙犯罪が民主主義の根幹を傷つける重大な行為だという評価に置かれています。

一方で、今崎幸彦裁判官は議員報酬等の部分について反対意見を述べました。要旨は次のとおりです。

  • 資格を欠いていても、外形上議員として活動した事実は残るのだから、市は労務の提供によって利益を受けており、元市議の不当利得返還請求権は否定できない
  • 議員活動の価値を裁判所が中身に立ち入って評価するのは困難で相当でもないので、結論として正規の議員報酬等と同額とみなさざるを得ない
  • 減額やゼロ評価は、しかるべき要件と手続を定めた制度があれば政策として十分ありうるが、本件ではそうした手当てがされていない

これに対し、多数意見に加わった林道晴裁判官は補足意見で、法的に瑕疵のある活動を正規の報酬と完全に同じ価値とみるのは現行法の解釈として無理がある、と反論しています。同時に、一定の利益の保持を認めるのが相当な場合もありうるとして、議会での審議・議決などを通じたルールづくりに触れ、従来はこうした請求をしない運用が行われてきたようにうかがわれるとして、本判決を機に他の地方公共団体も含めて議論が尽くされることへの期待を述べました。

反対意見は結論として採用されていませんが、多数意見の側も「ルールを定める余地」に言及している点は、今後の制度づくりを考えるうえで押さえておきたいところです。

その後・実務への影響

判決の結果、大阪市の全面勝訴が確定しました。報道では、公選法違反で失職した議員の報酬等の返還範囲について最高裁が判断を示したのは初めてとされ、地方議員だけでなく国会議員の歳費などの返還請求にも影響を与える可能性があると指摘されました。

補足意見が示したように、当選無効となった議員の報酬をどう扱うかについて各議会でルールを整える余地が残されています。どのような制度が設けられるかは、今後の議論に委ねられています。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次