| 事件番号 | 令和6年(行ヒ)第281号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 2026-07-13 |
| 通称 | 辺野古住民訴訟 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 米軍飛行場のための海の埋立てをめぐり、沖縄県が出した承認を取り消したところ、国がその取消しを取り消した。この国の判断を周辺住民が裁判で争えるかが問われた
- 最高裁は、騒音予測の線のすぐ外側に住む3人には争う資格を認め、そこから1キロ余り離れた1人には認めなかった
- 騒音の被害は住民一人ひとりの利益として法が守っている。一方、墜落事故の危険はこの法律が守る利益に含まれない、という線引きが示された
何があったのか
沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の代わりの施設を、名護市辺野古の沿岸につくる計画です。沖縄防衛局は2013年3月、合計約160ヘクタールの海を埋め立てる承認を沖縄県知事に求め、同年12月に承認を受けました。埋立地に予定されているのは、V字型に配置された2本の滑走路を中核とする飛行場で、滑走路の長さはオーバーランを含めていずれも1800メートルです。
ところが2018年8月、沖縄県側は、承認の後に判明した事情によれば埋立ては法律の要件を満たしていないなどとして、この承認を取り消しました。沖縄防衛局はこれを不服として国土交通大臣に審査請求し、大臣は2019年4月、県の取消しを取り消す裁決を出しました。
この大臣の裁決を取り消してほしい、と訴えたのが埋立区域の周辺に住む4人です。
何が争われたのか
争点は、裁決の中身の当否ではなく、その手前にある、この4人にそもそも裁判を起こす資格があるかどうかでした。行政訴訟では、処分や裁決の相手方でない人が訴えるには、行政事件訴訟法9条にいう法律上の利益——原告適格——が必要になります。
最高裁がこれまで示してきた枠組みでは、法律上の利益を有する者とは、次の者を指します。
自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者
そこで問題になるのが、埋立てのルールを定める公有水面埋立法が、周辺住民の何を一人ひとりの利益として守っているのか、という点です。
4人はいずれも、事業者が作成した騒音予測図の上で、専ら住居に使われる地域の環境基準とされているW値70の線の外側に住んでいました。ただし3人は線から90.1〜194.0メートルという近さで、残る1人は1キロ余り離れており、この1人は騒音ではなく、米軍機の墜落の危険と建物の高さ制限を理由にしていました。
第1審の那覇地裁は4人全員の訴えを門前払いにし、第2審の福岡高裁那覇支部は2024年5月、逆に4人全員に資格を認めて、審理をやり直すよう第1審に差し戻していました。
裁判所はどう判断したか
最高裁第一小法廷は2026年7月13日、裁判官全員一致で次のように判断しました。
まず騒音について。埋立地の用途が環境保全に関する計画に違背しないことを求める公有水面埋立法の規定は、環境基本法や環境影響評価に関する法令の趣旨・目的も参酌すると、飛行場の供用に伴う航空機騒音などで周辺住民の健康や生活環境が損なわれるのを防ぐことも趣旨に含む、としました。そのうえで、著しい被害を直接的に受けるおそれのある住民の利益は、社会全体の公益にまとめて解消させることが難しく、一人ひとりの個別的利益としても守られている、と述べています。
誰がそれに当たるかは、飛行場の種類・規模・形状などの具体的な条件を考慮したうえで、住まいと飛行場との距離関係を中心に、社会通念に照らして合理的に判断するとしました。この見方から、W値70の線から90.1〜194.0メートルの位置にある3人については、線の付近にあたるとして原告適格を認め、国の上告をこの部分では退けています。
一方、墜落事故の危険については結論が分かれました。埋立法は、埋立てそのものについては環境保全と災害の防止を区別してどちらも要件としているのに、埋立地の用途については環境保全に関する要件を定めるだけで、用途から直接生じる災害の防止までは定めていない。飛行場についての環境影響評価も、航空機の航行の安全性を評価の対象にしていない。建物の高さ制限を定める航空法も、埋立承認の根拠となる法令と目的を共通にするとはいえない。こうした理由から、墜落の危険を理由に訴える資格は認められない、としました。
1キロ余り離れて住む1人は、騒音予測の線の付近にあるともいえないため、騒音を理由とする資格も認められません。最高裁はこの1人について第2審判決を破棄し、訴えを門前払いにした第1審の結論を維持しました。
この判決の意味
大きな事業の近くに住む人が行政の判断を裁判で争えるかどうかは、これまでも繰り返し問われてきた問題です。この判決は、埋立地に飛行場をつくる場合について、騒音を理由とする訴えは認められうる一方、墜落の危険を理由とする訴えは認められない、という二つの線を引いた点に意味があります。
目を引くのは、環境基準の線の外側に住む人にも資格を認めたことです。予測図の線をそのまま資格の境界とするのではなく、線からの距離に加えて予測図の内容や作成経緯まで見て判断する、という形をとっています。もっとも最高裁は、何メートル以内なら認められるといった数値の基準を示したわけではありません。同じような争いが起きたときにどこまで及ぶかは、事案ごとの判断になると考えられます。
その後・実務への影響
原告適格が認められた3人については、裁決そのものが違法かどうかの審理が、これから第1審の那覇地裁で行われます。今回の判決はあくまで入り口についての判断であり、埋立ての是非や国の裁決の当否が決着したわけではありません。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。