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火事で壊れた建物の解体費用は、賠償の対象になるのか

事件番号令和6年(受)第1694号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2026-07-07
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 火事で使えなくなった施設の解体費用について、二審は、いつかは解体する費用なのだから火事のせいとはいえない、として賠償の対象から外しました。
  • 最高裁は、その考え方は誤りだと判断し、審理をやり直させることにしました。
  • あわせて、「浮いた費用の差引き」と「被害者側の過失による減額」をどちらの順番で行うかについても、最高裁が順序を示しました。
目次

何があったのか

2015年10月、岐阜市が所有するごみ処理施設で火事が起きました。施設内のコンベア下にある金属板のひび割れを直すため、市から補修を委託されていた会社の従業員が溶接作業をしていたところ、その重大な不注意で出火したものです。

火は複数のコンベアに燃え広がり、建物は屋根と壁の一部まで焼けました。延べ床面積4,253平方メートルほどの施設のうち、焼けた部分が1,280平方メートル、水びたしになった部分が931平方メートルに及びました。市は、この施設を直すことはできないと判断して解体しました。

施設は鉄骨・鉄筋コンクリート造りで、税法上の耐用年数は38年。火事の時点で、建ってから18年ほどが経っていました。

施設が使えなくなったため、市はその後、外部に委託したり仮設の破砕機を借りたりして、粗大ごみの処理を続けました。2021年3月までにかかった費用は約5億1,451万円。一方で、施設を動かしていれば当然かかっていたはずの費用約3億9,278万円は、支払わずに済みました。

なお、火事については市の側にも3割の落ち度があったと認定されています。

何が争われたのか

争点は2つありました。

ひとつは、解体費用を損害として認めるかです。二審の名古屋高裁は2024年5月、会社側の重大な不注意は認めたものの、解体費用については、火事がなくてもいずれどこかの時点でかかる費用であることを理由に、火事との因果関係を否定しました。

もうひとつは、計算の順序です。市は代わりの処理に約5億1,451万円を使いましたが、その一方で約3億9,278万円の支出を免れています。この「浮いた分」を差し引く作業(損益相殺)と、市の落ち度3割を反映させる作業(過失相殺)を、どちらから行うのか。二審は、先に3割を減らし、そのあとで浮いた分を差し引く順序をとりました。

順序が違うと、最終的な金額は大きく変わります。たとえば支出500万円・浮いた分300万円・落ち度3割という単純な例で考えると、先に差し引けば(500−300)×0.7で140万円、先に3割減らせば500×0.7−300で50万円と、結果が異なります。

裁判所はどう判断したか

最高裁第三小法廷は2026年7月7日、二審の判断はどちらも認められないとして、その部分を破棄し、名古屋高裁で審理をやり直すよう命じました。

解体費用について、最高裁はまず、施設が広い範囲で焼けたり水をかぶったりして、直すことが不可能か著しく困難な状態になっていたと述べました。そのうえで、耐用年数や火事の時点での経過年数、それまでの稼働状況からすると、火事がなければ施設はまだ相当長く使われていた可能性が高く、

本件施設を近い将来に解体する予定があったといった事情は見当たらない

と指摘しました。だとすれば、いつかは解体されるからといって、ただちに「本件解体費用の全部について、本件火災事故との相当因果関係が否定されることにはならない」というのが最高裁の判断です。

計算の順序については、代わりの処理にかかった費用と、支払わずに済んだ費用は、どちらも施設が担っていた粗大ごみの処理に要する費用であり、同じ性質のものだと整理しました。市は、前者を負担する損害を受けると同時に、後者を免れる利益を得た関係にある。そうであれば、まず両者を差し引きした残りが実際に被った損害であり、

上記利益の控除は、過失割合による減額に先行して行うのが相当である

と述べました。裁判官全員一致の意見で、補足意見が1つ付いています。

この判決の意味

1つ目の判断は、「どうせいずれ壊すものだった」という理屈で損害を否定することに歯止めをかけたものといえます。建物にはいつか寿命が来ますが、それを理由に解体費用を丸ごと損害から外してしまえば、まだ使えたはずの期間を奪われた分が評価されないままになります。最高裁は、耐用年数や実際の使われ方を踏まえて判断すべきだという枠組みを示しました。

2つ目の判断は、被害を受けた側が「代わりの手段」でしのいだ場合の計算方法にかかわります。代わりの手段には費用がかかる一方、元の設備を動かす費用は浮きます。この差引きを過失相殺より先に行うという順序は、事故で壊れた設備を持つ企業や自治体にとって、賠償額を見積もるうえで実務的な意味を持ちます。

なお、この判決は解体費用の金額そのものを確定したものではありません。「全部が否定されるわけではない」と述べたにとどまり、いくらが損害にあたるのかは、これから審理されます。

その後・実務への影響

事件は名古屋高裁に差し戻され、解体費用のうち火事と因果関係のある額などについて、あらためて審理されることになります。賠償額がいくらになるかは、この時点では決まっていません。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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