| 事件番号 | 令和8年(ク)第407号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2026-06-22 |
| 通称 | 旧統一教会解散命令事件 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 宗教法人に解散を命じることが、憲法の保障する信教の自由・宗教的結社の自由を侵害しないかが争われました。
- 最高裁は裁判官全員一致で教団側の主張を退け、この解散命令は憲法に違反しないと判断しました。
- 解散命令は法人格を失わせるだけで、信者の宗教活動そのものを禁じるものではない、という理屈が判断の中心にあります。
何があったのか
宗教法人「世界平和統一家庭連合」(報道では旧統一教会と呼ばれています)について、所轄庁である文部科学省の請求を受けて、東京地方裁判所が2025年3月に解散を命じました。宗教法人法81条1項1号にあたる事由がある、という判断です。
教団側はこれを不服として即時抗告しましたが、東京高等裁判所は2026年3月4日にこれを棄却し、地裁の解散命令を維持しました。教団側はさらに、この決定は憲法に違反するとして最高裁に特別抗告しました。
最高裁第三小法廷は2026年6月22日、裁判官全員一致でこの抗告を棄却しました。これにより解散命令は確定しています。
なお、ここでいう解散命令は宗教法人という「法人格」を裁判所が失わせるものであって、信仰や布教そのものを禁止する制度ではありません。この違いが、以下の判断のほとんどを組み立てています。
何が争われたのか
教団側は大きく2つの憲法違反を主張しました。
1つ目は、解散命令が教団と信者らの宗教活動の自由・宗教的結社の自由を侵害し、憲法20条1項・21条1項に違反する、というものです。
2つ目は、解散命令に対する抗告審の手続は公開の法廷での対審(口頭弁論)によるべきなのに、口頭弁論を経ずに決定が出されたのは憲法32条・82条に違反する、というものです。
裁判所はどう判断したか
まず、宗教法人法81条1項1号の意味について。 同号は解散命令の事由を「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」と定めています。最高裁は、この規定の趣旨は、そうした事由がある場合に法人としての能力を与えたままにしておくのは不適切だから、裁判所の手続で強制的に解散させられるようにする点にあるとしました。そのうえで、民法709条の不法行為にあたる行為は、ここでいう法令違反にあたると解するのが相当だとしています。
次に、信教の自由との関係。 最高裁は、解散命令は法人格を失わせる効力を持つにとどまり、「信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わない」と述べました。ただし解散命令が確定すれば清算手続に入り、礼拝施設など宗教上の行為に使われてきた財産も処分されることになるため、宗教活動の継続に何らかの支障が生じうるとして、憲法がそのような規制を許すものかどうかは慎重に吟味しなければならないとしています。この枠組みは、最高裁が1996年に示した判断を引き継いだものです。
そのうえで、原審(高裁)が適法に確定した事実関係として、次の点を前提に検討しています。
- 信者らが1973年から2022年までの長期間にわたり、不法行為にあたる献金の勧誘を継続的に行い、多数の人に極めて多額の財産的・精神的損害を与えたこと
- それが、日本の信者は無理をしてでも世界の国々のために経済的援助をすべきだとする教義の創始者らの方針を踏まえ、社会通念上相当な範囲を超えないやり方では達成できない数値目標を定めて勧誘を求めるなど、教団の組織的な関与のもとで行われたこと
- 教団が不相当な勧誘を防ぐ実効性のある措置をとっておらず、今後も同様の勧誘を求めるおそれがあること
これらから最高裁は、教団が法令に違反して著しく公共の福祉を害する行為をしたことは明らかであり、これに対処するには解散して法人格を失わせることが必要かつ適切で、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律に基づく措置を含め、他に実効性のある手段があるとはいえないと判断しました。
一方で、解散命令によって教団や信者の宗教上の行為に支障が生じることは避けられないとしても、その支障は解散命令に伴う「間接的で事実上のもの」にとどまるとしています。法人格を持たない宗教団体として存続することは妨げられないため、宗教的結社の自由への影響も同様だ、というのが最高裁の見方です。結論として、解散命令は必要でやむを得ないものであり、憲法20条1項・21条1項に違反しないとされました。
手続の点についても、教団側の主張は退けられました。 最高裁は、解散命令は当事者が主張する権利義務の存否を確定するためのものではなく、公益の確保の観点から裁判所が強制的に解散させるものだから、その性質は非訟事件の裁判であり、純然たる訴訟事件のように口頭弁論を経る必要はないとしました。抗告審も解散命令への不服申立てについての裁判にすぎないため同様だとして、憲法32条・82条違反にはあたらないとしています。
その他の抗告理由については、憲法違反をいうものの実質は単なる法令違反の主張であり、特別抗告の事由にあたらないとして退けられました。
この判決の意味
この決定でおさえておきたいのは、宗教法人法の「法令に違反」に、刑事罰を伴う違法行為だけでなく民法上の不法行為も含まれると最高裁が正面から認めた点です。組織的に行われた献金勧誘が民事の不法行為と評価される場合、それが解散命令の事由になりうることが確認されました。
もう1つは、法人格と信仰を切り分ける考え方が改めて示されたことです。解散命令が及ぶのは宗教法人という法律上の器であって、信仰や宗教団体としての活動そのものではない、という整理があるからこそ、最高裁は解散命令を憲法上許されるものと位置づけています。財産の処分などで実際上の支障が生じることは最高裁も認めていますが、それは間接的な影響にとどまる、という評価です。
同時に、この決定は解散命令が無制限に許されると述べたものではありません。最高裁は、信教の自由の重要性に照らして慎重に吟味しなければならないとしたうえで、長期間にわたる組織的な不法行為と再発のおそれ、他に実効性のある手段がないことを一つずつ確認して結論に至っています。同じような判断が他の宗教法人にそのまま及ぶわけではない、と読むのが自然でしょう。
その後・実務への影響
解散命令が確定したことにより、宗教法人法にもとづく清算手続が行われることになります。文化庁も、解散命令の確定と清算手続の開始について公表しています。
最高裁の決定文によれば、この手続の中では、法人に帰属する財産のうち礼拝施設など宗教上の行為に使われてきたものも処分されることになります。他方で最高裁が述べているとおり、法人格を失っても宗教団体として存続すること自体は妨げられません。解散命令の確定は、教団の活動が法律上すべて終わることを意味するものではない、という点は押さえておく必要があります。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。