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相続した借金が帳消しになったら、税金はかかるのか

事件番号令和6年(行ヒ)第160号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2026-06-23
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 亡くなった人から借金を相続した後にその借金が免除された場合、免除で得た利益に所得税をかけてよいかが争われた
  • 最高裁は、その利益を相続によって取得したとはいえないとして、課税処分を取り消した高裁判決を破棄した
  • ただし決着ではなく、残る争点を審理するため東京高裁に差し戻された
目次

何があったのか

始まりは1993年(平成5年)の貸付けです。銀行がある人物に16億円を貸し、その子が保証人になりました。返済は滞り、2002年(平成14年)に銀行が訴訟を起こします。

その後、借主が亡くなって相続が起き、2004年(平成16年)に裁判所で和解が成立しました。和解の内容は、子が借金をまとめて引き受けたうえで分割払いをする、というものです。ポイントは、その分割払いに条件が付いていたことでした。

和解では、支払いは4回に分けられました。3億7130万円、2億5000万円、そして毎年6月末に50万円ずつ10年間(合計500万円)。ここまでの合計6億2630万円を期限どおりに払い切れば、最後に残る9億7370万円は支払わなくてよい、という約束です。6億円余りを約束どおり払い切れば残り9億円台は帳消しになる、という取り決めが、裁判所での和解としてできあがったわけです。

子は約束を守って支払いを続けましたが、最後の年を迎える前の2014年(平成26年)に亡くなります。妻と子どもたちが相続し、残った債務を引き継ぎました。そして2016年(平成28年)、和解で決められた最後の50万円を支払ったところで条件が満たされ、9億7370万円の支払義務が消滅しました。

問題はここからです。税務署は、この免除によって遺族が得た利益を「一時所得」だとみなし、2018年(平成30年)に、それぞれ4億8685万円(免除額の2分の1)の所得があったとして所得税などの更正処分と過少申告加算税の賦課決定を行いました。遺族はこれを不服として、処分の取消しを求めて争いました。

何が争われたのか

争点は、この免除の利益が所得税法の定める「非課税所得」に当たるかどうかです。

所得税法9条1項16号(判決当時のもの。令和3年の改正前の規定)は、相続や遺贈、個人からの贈与によって取得するものには所得税を課さないと定めています。相続で受け取った財産には相続税がかかるので、同じものにさらに所得税をかけては二重課税になる、という考え方に基づく規定です。

ややこしいのは、相続税の計算のほうです。相続税では、故人の借金は相続財産から差し引けます。ただし相続税法14条1項は、差し引ける債務を「確実と認められるもの」に限っています。この事案では、近い将来に免除される可能性が極めて高い債務だったため、相続税の計算では差し引かれませんでした。遺族側も、いったん差し引いて申告した後、差し引かない内容の修正申告をしています。

つまり、相続税の場面では、返さなくて済みそうな借金だから財産から差し引かない、と扱われた。それなのに所得税の場面では、借金が消えて得をしたとして課税される。この二つの扱いは矛盾しているのではないか、というのが遺族側の主張の核心でした。

裁判所はどう判断したか

1審は課税を適法としましたが、東京高裁は遺族側の主張を認め、課税処分を取り消しました。高裁は、相続税で差し引かれなかった債務がその後免除された場合、その利益は所得税との関係では「潜在的には相続により取得していたものとみることが可能である」と述べ、これに所得税を課すのは非課税規定に反すると判断したのです。

最高裁は、この高裁の判断を認めませんでした。

出発点として最高裁は、この非課税規定の趣旨を、「同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したもの」と整理します。2010年(平成22年)の第三小法廷判決を引きながら、非課税とされるのは相続によって取得した財産そのものではなく、その取得によって生じる経済的価値である、という理解を示しました。

そのうえで最高裁は、この事案では相続の後に免除の効力が生じているのだから、遺族がその経済的利益を相続によって取得したとはいえない、と述べます。相続税の計算で借金が差し引かれなかったとしても、相続の後に借金が消えて生まれた経済的価値そのものに相続税がかかっているわけではない。したがって、この利益に所得税を課しても相続税との二重課税にはならない、という筋道です。

結論として最高裁は、免除で得た利益は非課税所得に当たらないと判断し、高裁判決を破棄して、審理を東京高裁に差し戻しました。裁判官2名の補足意見が付いたほか、1名の反対意見が付いています。

この判決の意味

注意したいのは、これで課税が確定したわけではないという点です。最高裁が判断したのは「非課税所得に当たるかどうか」という一点であり、免除の利益が一時所得に当たるかどうかや、税額の計算といった残りの争点は、差戻し後の東京高裁で改めて審理されます。

そのうえで、この判決からは考え方の輪郭が見えてきます。相続税の計算で借金が差し引かれたかどうかと、その借金が後で消えたときに所得税がかかるかどうかは、別々の問題として扱われる、という整理です。相続税と所得税の二重課税を防ぐ規定は、あくまで同じ経済的価値に二重に課税しないためのものであって、二つの税の間で評価をそろえるための規定ではない、という見方が示されました。

補足意見の一つは、この点をわかりやすい形で説明しています。もし借金の免除が亡くなる前に起きていれば、本人に所得税がかかり、その後の相続では借金を差し引かない財産に相続税がかかったはずです。高裁の考え方では、相続をはさんだというだけで、免除の利益に誰も所得税を納めないことになってしまう、という指摘です。

金額の桁こそ特殊な事案ですが、相続税で差し引けなかった借金が後から免除された場合について、それだけを理由に所得税がかからないとはいえない、という判断が最高裁のレベルで示されたことになります。差戻し後の審理の行方は、まだ決まっていません。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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