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業務停止中の弁護士が出した抗告は依頼者が追認しても有効にならない

事件番号令和7年(マ)第490号
裁判所最高裁判所第一小法廷
判決日2025-12-18
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 業務停止6か月の懲戒処分を受けた弁護士が、その処分に違反して、依頼者の代理人として最高裁に即時抗告を申し立てました
  • 最高裁は、この抗告は不適法であり、補正を命じることなく却下すべきだと判断しました
  • 代理権が欠けている場合は本人があとから追認すれば有効になるのが原則ですが、この事案ではその追認も認められないとされた点が特徴です
目次

何があったのか

舞台は、福岡家庭裁判所小倉支部の婚姻費用分担調停です。夫婦の一方が、ある弁護士を手続代理人として、裁判所書記官の忌避を申し立てました。

家裁は令和7年11月21日、この忌避の申立ては手続を遅らせることだけを目的としていることが明らかで不適法だとして、却下する決定をしました。決定は同じ日に弁護士に告知されています。

その4日後の11月25日、この弁護士は福岡県弁護士会から業務停止6か月の懲戒処分を受け、処分の効力が生じました。最高裁がこの事実を知ったのは、遅くとも翌26日でした。

ところが弁護士は、11月28日、依頼者の代理人として、家裁の決定に不服を申し立てる書面を最高裁に提出します。これによって即時抗告がされたことになりました。

最高裁は、この経緯に加えて次の事情を挙げています。この弁護士が11月27日以降に弁護士として最高裁に提出した、裁判を求める旨の書面は相当多数にのぼっていたこと。抗告状には依頼者の住所として弁護士の法律事務所の所在地が書かれ、依頼者本人からの委任状は添付されておらず、抗告の理由も事案に即した実質的な記載に乏しかったことです。

何が争われたのか

代理人としての資格を欠いた人がした手続行為を、裁判所はどう扱うべきか、という点です。

家事事件の手続では、原則として弁護士でなければ手続代理人になれません(家事事件手続法22条1項本文)。そして代理権などが欠けている場合の扱いについては、民事訴訟法34条が準用されます。同条は、裁判所は期間を定めて補正を命じなければならないと定め、さらに、代理権を欠く者がした行為も本人の追認によってさかのぼって効力を生じると定めています。

つまり通常であれば、いきなり門前払いにするのではなく、手続を整え直す機会が与えられるはずの場面でした。この事案でも、依頼者本人が「その抗告は自分の意思です」と追認すれば救われるのか。それが問われました。

裁判所はどう判断したか

最高裁第一小法廷は、まず業務停止処分の効果を確認しました。弁護士法57条1項2号の業務停止の懲戒を告知された弁護士は、

その告知によって直ちに当該期間中、弁護士としての一切の職務を行うことができない

ことになり、違反してされた職務上の行為も違法を免れない、としています。そのうえで、裁判所がその懲戒の事実を知ったときは、

裁判所は、当該弁護士に対し、手続への関与を禁止し、これを手続から排除しなければならない

と述べました。これは昭和42年9月27日の大法廷判決(民集21巻7号1955頁)を引いた判断です。本件の抗告は、最高裁が懲戒処分を知った後にされたものでした。したがって、この弁護士は手続から排除されなければならず、抗告は資格を一時的に停止された者がした不適法なものになる、というのが出発点です。

続いて最高裁は、追認による救済を否定します。理由として挙げられたのは、弁護士法1条が定める弁護士の使命と、それを支える懲戒制度が高度の公益性を持つことです。また、日本弁護士連合会が平成4年1月17日の理事会議決で定めた基準にも触れています。この基準では、業務停止の期間が1か月を超える場合、弁護士は直ちに依頼者との委任契約を解除し、係属している裁判所に辞任の手続を執らなければならないとされています。

そのうえで最高裁は、この弁護士が処分に違反する意図をもって書面を提出したこと、処分の効力が生じた後に提出した書面が相当多数にのぼること、上記の基準が求める措置を講じていないことがうかがわれることを挙げ、懲戒処分の違反の程度は重大だと評価しました。さらに、委任状がなく抗告理由の記載も乏しいことから、この抗告が依頼者本人の意思を反映したものだとうかがわせる事情は見当たらない、としています。

これらを併せ考えると、追認によって有効になると解することは懲戒制度を設けた趣旨を没却するに等しいから、

本件抗告は、その不備を補正することができない

というべきである——最高裁はそう結論づけ、補正を命じることなく不適法として却下しました。裁判官全員一致の意見です。抗告費用も、依頼者ではなくこの弁護士の負担とされています。

この判決の意味

注目すべきは、補正の機会を与えずに却下した点です。代理権の不備は補正や追認で治すのが原則であり、この判断はそこからの例外にあたります。

ただし、最高裁が示した裁判要旨は、処分に違反する意図があったこと、提出書面が相当多数にのぼること、委任状がなく抗告理由も実質を欠くことといった事情を並べたうえで、そうした事情の下においてはという限定を付けています。業務停止中の弁護士がした行為がすべて一律に補正不能になる、という射程の判断ではないと読むのが自然です。

依頼者の側から見ると、弁護士が業務停止処分を受けたことに気づかないまま手続が進んでいた場合、その間に代理人名義でされた申立てが効力を持たないおそれがある、ということになります。弁護士の懲戒処分は日本弁護士連合会や各弁護士会が公表しており、依頼している弁護士から連絡が途絶えたときなどに確認する手がかりになります。

その後・実務への影響

日弁連の基準は、1か月を超える業務停止を受けた弁護士に対し、委任契約の解除と裁判所への辞任手続を求めています。この判決は、その運用が守られなかったときに、書面を受け取った裁判所の側がどう対応しうるかを具体的に示したものといえます。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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