| 事件番号 | 令和6年(受)第1373号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2025-12-23 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 建売住宅に設置されたLPガスの配管について、ガス会社が自社の所有物だとして、供給契約を解除した住民に代金の支払いを求めた
- 最高裁は、配管は建物に付合している――つまり建物と一体になって建物の一部になっている――と判断した
- 配管がもともと住宅の持ち主のものなら、ガス会社が住民にそれを売る予約という契約の組み立て自体が成り立たない
何があったのか
LPガスの供給を業とする会社が、ある建売住宅にガスの配管とガス栓を設置した。住宅そのものを販売していたのは別の会社で、買主はその会社から家を購入している。
平成29年(2017年)7月にこの住宅を購入した買主は、同年8月に引渡しを受け、9月にガス会社との間でLPガスの供給契約を結んだ。同時に、売買予約と貸与契約書という表題の書面で、次のような取り決めをしている。
- 配管の所有権がガス会社にあることを確認したうえで、配管について売買予約契約を結ぶ
- 住民が供給契約を解除したときは、ガス会社は予約完結権を行使できる
- 予約完結権は、液化石油ガス法14条1項の書面が交付された日の翌日から15年間存続する
- 予約完結権の行使によって成立する売買契約の代金額は、21万円を出発点に、書面の交付日の翌日からの経過月数に応じて目減りしていく算定式で決める
令和2年(2020年)9月、住民は供給契約を解除する意思表示をした。ガス会社はその後、予約完結権を行使すると告げ、配管の売買代金などの支払いを求めて訴えを起こした。請求の相手は住民本人と、その債務を併存的に引き受けたと主張された別のガス会社である。
何が争われたのか
ガス会社の主張の土台は、配管が自社の所有物だという点にあった。自社のものだから、住民に売る予約ができる。予約を完結させれば売買が成立し、代金を請求できる、という組み立てである。
これに対して住民側は、配管は建物に付合しているのだから、配管は住宅の持ち主のものであって、ガス会社のものではないと反論した。
付合を定めているのは民法242条である。不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし書きで、権原によってその物を附属させた他人の権利は妨げないとされており、ガス会社としてはこのただし書きに乗りたいところだった。
原審の東京高裁は、配管は建物に付合していないとして契約を売買予約契約と解しつつ、代金額を定めた条項が消費者契約法上の違約金等条項に当たり全部無効になるとして、ガス会社の請求をいずれも退けた。ガス会社はこの理屈立てを不服として上告した。
裁判所はどう判断したか
最高裁第三小法廷は、まず配管がどう施工されているかを丁寧に確認している。配管はガスメーターに接続され、建物の外壁を貫通して屋内に引き込まれ、外壁に固定されている。1階の床下で二手に分かれ、一方は床下の断熱材と床材を貫通してシステムキッチンの収納ボックスに開けられた穴からガスコンロへ、もう一方は外壁を貫通して外へ出て給湯器へつながる。撤去するには、この断熱材や収納ボックスを取り壊す必要がある。
そのうえで三つの事情を挙げた。撤去には建物と住宅設備を相当程度毀損する必要があり、撤去や復旧に手間と費用がかかること。配管は建物の構造に合わせて設置されており、建物と一体で使われてはじめて経済的な効用を発揮するもので、外した後の配管の価値は乏しいとうかがわれること。そして、戸建て住宅に設置された状態のLPガス配管が、その住宅と切り離して市場で取引されるものとはうかがわれないこと。
ここから、配管を建物とは別に所有権の対象と考える必然性は乏しいとした。
本件建物とは別個に所有権の客体となるものと解すべき必然性は乏しい
そして結論を示す。
本件配管については、本件建物に付合したものと解される
民法242条ただし書についても、この規定は不動産に付合した物がなお不動産とは別個の存在を有する場合にのみ適用されるという昭和39年の判例を引いたうえで、本件の配管が建物と別個の存在を有するとはいえないとして、適用を否定した。
ここから先が、この判決の勘所である。配管が契約より前から住民のものだったのなら、ガス会社が住民に配管を売る予約をするという契約書の文言を、そのまま受け取るのは相当でない。
本件契約を売買予約契約と解することはできないというべきである
売買予約でないのなら、予約完結権を行使しても売買は成立しない。代金の請求は成り立たない。配管の所有権に基づいて引渡しなどを求める予備的な請求も、そもそもガス会社が所有者でない以上、成り立たない。原審とは理由が違うが結論としては是認できるとして、上告は棄却された。
この判決の意味
興味深いのは、最高裁がガス会社の言い分に一定の理解を示している点である。判決は、もし本件の契約が売買予約契約であるとすれば、代金額を定めた条項は所有権をガス会社から住民に移すことの対価を定めたものであって、違約金等条項には当たらないと解する余地がある、と述べている。原審の理屈立てそのものには疑問があると認めたわけだ。
それでも請求が通らなかったのは、前提のほうが崩れていたからである。配管がもともと住民のものだったのなら、代金条項が違約金に当たるかどうかを論じる手前で話が終わる。
LPガス業界には、ガス会社が住宅の配管を無償で設置し、その費用をガス料金に上乗せして回収するという商慣行が広く存在してきた。設置費用を負担した以上は配管も自社のものだ、という発想がその土台にある。本判決は、その発想が物権法のレベルでも当然に支えられるとは限らないことを示したものといえる。少なくとも、住宅と一体に施工された屋内の配管については、契約書に所有権の所在を書き込んだだけで建物への付合を免れるわけではない、という判断が示された。
なお、この事案で問題になった消費者契約法9条1号は令和4年の改正前のものであり、最高裁はこの点について結論を示していない。
その後・実務への影響
同じ2025年12月23日、最高裁第三小法廷は別のLPガス事件についても判断を示し、途中解約の際に消費者へ設備費用の支払いを求める条項を消費者契約法によって無効としたと報じられている。二つの判決は、違う角度から同じ商慣行に向き合ったことになる。
行政の側の動きは判決より先行していた。経済産業省は2024年に液化石油ガス法の施行規則を改正し、通常の商慣習を超える利益を消費者に提供すること――設備の無償貸与などを含む――を制限する規定を同年7月に施行している。
いま自宅のLPガス会社を切り替えようとしている人にとって、この判決は、請求されても払わなくてよいと一般化して読めるものではない。配管がどう施工されているか、契約書がどう書かれているかは事案ごとに違うからである。ただ、契約書に所有権の所在が書いてあることが決め手になるとは限らない、という見方が最高裁から示されたことの意味は小さくないだろう。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。