| 事件番号 | 令和6年(あ)第585号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2025-10-21 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 基礎工事をせずに土地の上に置かれた鉄製のコンテナ倉庫が、建造物侵入罪でいう「建造物」に当たるかが争われた
- 最高裁は、簡単には動かせず倉庫として使い続けられていた実態から、社会通念上、土地に定着しているといえるとして「建造物」に当たると判断した
- 基礎が打たれているかどうかの一点で決まるのではなく、大きさ・置かれ方・使われ方をあわせて見る、という判断の道筋が示された
何があったのか
窃盗と建造物侵入の罪に問われた事件です。争点になったのは、被告人が立ち入ったとされる鉄製のコンテナ倉庫でした。
このコンテナは、奥行き約12.4メートル、幅約2.4メートル、高さ約2.88メートル。土地の上に設置されたもので、置かれてから3年10か月以上、一度も移動されていません。電気は電柱から電線で引き込まれ、タイヤなどを保管する倉庫として継続的に使われていました。
第一審はこの立入りについて建造物侵入罪の成立を認め、札幌高等裁判所(令和6年4月18日)もその判断を維持しました。被告人側はこれを不服として上告しました。
何が争われたのか
刑法130条は、正当な理由がないのに、人の住居や、人が管理している邸宅・建造物・船に侵入した者を処罰すると定めています。この事件で問われたのは、コンテナ倉庫がこのうちの「建造物」に当たるかどうかでした。
被告人側の主張は、コンテナ倉庫は土地に定着していないのだから「建造物」には当たらない、というものでした。根拠として挙げたのが、基礎が打たれていないという点です。
つまり、置いただけで固定されていないものを「建造物」と呼べるのか。争点はこの一点に絞られました。
裁判所はどう判断したか
最高裁はまず、弁護人の上告の理由は単なる法令違反や量刑不当をいうものであって、刑事訴訟法405条が定める上告の理由には当たらないとして、上告を棄却しました。判決の結論そのものは、この時点で維持されています。
そのうえで最高裁は、コンテナ倉庫が「建造物」に当たるかという点について、決定の中で改めて判断を示しました。
原判決の認定と記録によれば、このコンテナは3年10か月以上動かされることなく、電気を引き込んで倉庫として継続的に使われていました。最高裁は、こうした事実関係のもとでは、このコンテナ倉庫は
移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり
とした上で、
その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえる
として、改正前の刑法130条にいう「建造物」に当たるというべきだと述べています。
被告人側が指摘した「基礎が打たれていない」という事情についても、それによって「建造物」に当たることが否定されるとは認められない、としました。建造物侵入罪の成立を認めた第一審を是認した原審の判断は正当である、というのが結論です。
この判決の意味
注目したいのは、最高裁が固定の方法そのものではなく、実態をまとめて見る道筋をとったことです。決定が挙げているのは、次のような事情でした。
- 容易には動かせない大きさであること
- 設置後3年10か月以上、移動されていないこと
- 電柱から電線で電気が引き込まれていたこと
- 倉庫として継続的に使用されていたこと
コンテナやプレハブは、建物として登記されていなくても、資材置き場や倉庫として何年も同じ場所で使われていることがあります。この決定は、そうしたものについて、基礎工事の有無だけを見て判断するのではないという考え方を示したものといえます。逆にいえば、短期間だけ仮置きされている、あるいは実際に移動を繰り返しているようなコンテナであれば、判断は違ってくる余地があります。
この決定は最高裁判所刑事判例集(刑集79巻7号403頁)に登載されており、同じような形のものをどう見るかを考えるうえでの手がかりになります。
その後・実務への影響
この事件で適用されたのは、令和4年法律第67号による改正前の刑法130条です。最高裁も決定の中で、そのように条文を特定して判断しています。
この改正は2025年6月1日に施行され、懲役と禁錮が「拘禁刑」に一本化されました。改正されたのは刑の種類にかかわる部分で、どのような場所への立入りが処罰されるのかという条文の要件部分の文言は変わっていません。もっとも、本記事で紹介しているのは、あくまで判決当時の条文についての最高裁の判断です。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。