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ATMで現金を下ろすだけの「出し子」も詐欺の共犯になるのか

事件番号令和6年(あ)第264号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2025-07-11
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 特殊詐欺でATMから現金を引き出す「出し子」役が、被害者に振り込ませた「架け子」役の犯行についてまで共犯といえるかが争われました
  • 最高裁は、出し子が手口の中身を知らされていなくても、暗黙のうちに意思を通じ合っていたと評価できるとして、共犯の成立を認めました
  • 二審が無罪とした部分は破棄され、一審の有罪判決が維持されました
目次

何があったのか

2021年(令和3年)10月初旬、被告人はインターネット上の掲示板で知り合った氏名不詳の相手から、ATMから現金を引き出す「仕事」の依頼を受け、暗証番号が書かれた他人名義のキャッシュカードを複数枚受け取りました。条件は、平日の午前9時頃からカードを持ってATMの近くで待機し、電話で指示があればただちに引き出すこと。報酬は、引き出した現金50万円につき1万円でした。

被告人はこの依頼を、次のような認識の上で引き受けたと認定されています。

特殊詐欺等の犯罪行為によって得られた現金を引き出すものである可能性を認識した

いっぽう、電話をかける役の者たちは、2021年10月25日から12月1日までの間に9回、保険料の還付金などを受け取れると誤信させたAさんら8名に対し、金融機関の従業員になりすまして電話で操作を指示。振込送金の操作だと気づかせないままATMを操作させ、被告人らが管理する口座に合計773万1734円を振り込ませました。被告人は同じ期間に26回にわたり、その口座から合計722万9000円を引き出しています。

被告人はこのほか、別の日の窃盗と覚醒剤取締法違反(使用・所持)についても起訴されており、一審の青森地裁八戸支部はこれらを含めて懲役4年を言い渡しました。

何が争われたのか

最高裁で問題になったのは、被告人がATMから現金を引き出した行為そのものではなく、その前段階でした。つまり、被害者自身にATMを操作させて被告人らの口座の残高を増やさせた行為についても、被告人を共犯者といえるかどうかです。

この行為に問われたのは、通常の詐欺罪ではなく電子計算機使用詐欺罪です。人をだまして財物を渡させるのではなく、金融機関のコンピュータに虚偽の情報を与えて残高を増やす、という組み立てになるためです。被害者は自分で振込操作をしており、お金は人から人へではなく口座から口座へ動いています。

被告人は、この手口を具体的には知らされていませんでした。二審の仙台高裁は、被告人が犯行の中身を全く把握しておらず、相手方も被告人の認識の有無に関心を持っていなかったことなどから、意思の連絡があったとは認められないとして、この点を無罪とし、懲役3年6月に減軽しました。これに検察官が上告しました。

裁判所はどう判断したか

最高裁第三小法廷は、二審判決を破棄し、被告人の控訴を棄却しました。一審の判断が結論において是認できる、という理由です。

最高裁が重く見たのは、被告人の待機の仕方でした。被告人が引き出す現金は詐欺などの犯罪で振り込まれたものだと十分に想起させる事情があり、本件のような手口の電子計算機使用詐欺も、被告人が想定しうる犯罪の範囲に含まれていた。その認識のもとで被告人は犯行当日の午前9時頃からATM付近で待機し、相手方も被告人が待機して引き出すことを前提に犯行に及んでいる。だから初回の犯行までには、

暗黙のうちに意思を通じ合ったと評価することができる

としました。さらに、被害者が振込操作をしてから短時間のうちに現金を引き出すという被告人の役割は、不法に得た利益をただちに現金として確保するという犯行の目的を達成する上で極めて重要だったと評価しています。

二審が挙げた事情——被告人が手口を把握していなかったこと、相手方が被告人の認識に関心を持っていなかったこと、実行行為を分担していないこと、代わりに引き出す者がいた可能性があること、被告人が窃盗の報酬と認識して受け取っていたこと——は、いずれも共謀を否定する事情にはならないと退けられました。

裁判長の平木正洋裁判官は補足意見で、出し子に求められる認識の程度に触れています。うそをついて人にATMを操作させ振り込ませる、という中核的な行為態様への未必的な認識があれば足りるのであって、

電子計算機使用詐欺罪の構成要件に当てはまるものであるかどうかまで認識する必要はない

と述べました。

この判決の意味

報道によれば、被害者を直接だます行為に関与していない出し子と架け子との共謀を最高裁が認めたのは、これが初めてとされています。

示された判断の軸は、犯罪の詳細を知っていたかどうかではありません。どういう種類の犯罪かをおおまかに想定できていたか、そして自分の役割がその犯行にとってどれだけ重要だったか。この2点で共謀の有無が測られています。何の犯罪か聞かされていなかった、という説明だけでは、それ自体は共犯の成立を妨げる事情にならない、という考え方です。

ただし最高裁は「本件事実関係の下では」と限定しています。事例判断であり、現金を引き出す役割であれば常に詐欺の共犯になると決めたものではありません。とはいえ、本件のようにインターネット上の募集に応じ、犯行の中身を知らされないまま役割だけを引き受けた人でも、想定していたより重い罪の共犯として責任を問われる可能性がある。そう読める判断の枠組みが、最高裁のレベルで示されたことになります。

その後・実務への影響

二審判決が破棄され控訴が棄却された結果、一審の懲役4年が維持されました。あわせて、二審の審理中の未決勾留日数のうち250日が刑に算入されています。

なお、この判決が適用したのは犯行当時(2021年)の刑法246条の2です。その後の改正(令和4年法律第67号、2025年6月1日施行)により法定刑の呼び名が懲役から拘禁刑に変わりましたが、犯罪の成立要件そのものと、共同正犯を定める刑法60条に変更はありません。共謀の成否についての本判決の判断は、この改正の影響を受けるものではありません。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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