| 事件番号 | 令和6年(許)第12号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 2025-03-19 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる決定
- 保育を行う事業者が市から受け取るはずのお金を、その事業者に対して金銭債権を持つ人が差し押さえられるかが争われました
- 最高裁は、差押えを禁じた規定は子どもと保護者を守るためのもので、事業者を守るためのものではないとして、差押えを認めました
- 差し押さえられても、保護者が保育の費用をもう一度請求されることにはならない、という整理も示されました
何があったのか
登場するのは3者です。熊谷市で地域型保育を行っている事業者、その事業者に対して金銭債権を持つ債権者、そして保育の費用を負担している熊谷市です。
債権者は、簡易裁判所の調停で成立した内容を記した調書という、強制執行ができる文書を持っていました。そこで強制執行として、事業者が熊谷市に対して持っている債権、つまり保育の対価として市から支払われるお金の差押えを申し立てます。
差押命令を出した裁判所はこの申立てを認めましたが、東京高裁はそれを取り消し、申立てを却下しました。このお金は差し押さえてはならない、という判断です。債権者はこれを不服として、最高裁に抗告しました。
何が争われたのか
前提として、お金の流れを押さえる必要があります。
地域型保育にかかる費用は、本来、市町村が保護者に対して地域型保育給付費として支給するものです。ただし法律は、市町村が保護者に代わって事業者へ直接支払うこともできる仕組みを置いています。最高裁はこれを直接支払制度と呼び、お金が確実に保育の費用に充てられるようにするとともに、保護者の事務的・経済的な負担を軽くする趣旨だと説明しています。
一方で法律には、この給付を受ける権利は譲り渡したり、担保に入れたり、差し押さえたりできない、という規定があります。必要なお金を確実に届けるための規定です。
争点は、事業者が市町村に対して持つ債権も、この差押禁止の対象に含まれるのかどうかでした。東京高裁は、これを差し押さえれば保護者の受給権を差し押さえたのと同じ結果になり、規定の趣旨に反するとして、差押えを認めませんでした。
最高裁はどう判断したか
最高裁はまず、直接支払制度のもとで、事業者は市町村に対してこのお金の支払を求める債権を持つ、と整理しました。
そのうえで、差押禁止の規定が何を守るためのものかを検討します。この規定が守ろうとしているのは、保護者が給付を現実に受け取れるようにして子どもと保護者を保護することであって、「保育事業者の保護を図る趣旨によるものではない」というのが最高裁の読み方です。
さらに、差押えを認めても保護者が不利益を受けることはない、としました。差押えを受けた事業者について、最高裁はこう述べています。
当該保育事業者債権に相当する額の保育費用を認定保護者に対して請求することはできない
事業者の債権が差し押さえられて債権者に取り立てられたとしても、事業者はその分を保護者に請求し直すことはできない、という意味です。だから保護者が二重に負担する事態は生じず、差押えを禁じた規定の趣旨に反することにはならない、という結論になります。
こうして最高裁は、事業者が市町村に対して持つ債権は「子どものための教育・保育給付を受ける権利」に当たらないと判断しました。東京高裁の決定を破棄し、差押えを認めた当初の判断を維持しています。裁判官全員一致の結論で、1人の裁判官の補足意見が付いています。
この決定の意味
事業者の側から見ると、原資が公費であっても、事業者が受け取る段階のお金は、その事業者の債務の引当てになりうるということになります。経営状態が悪化すれば、差押えの対象になる可能性があります。
保護者の側から見ると、意味合いはむしろ逆です。通っている保育事業者が差押えを受けたとしても、その分の保育の費用をあらためて請求される筋合いはない、と最高裁が正面から述べたことになります。
なお、この決定が扱ったのは地域型保育に関する規定であり、決定当時の子ども・子育て支援法に基づく判断です。
その後・実務への影響
補足意見は、福祉関係の法律は市町村・事業者・保護者・その債権者など多くの関係者の利害に関わるため、規定の内容が文言のうえで明確であることが求められる、と述べています。そのうえで、同じような仕組みを採る規定の解釈について、下級審の裁判例や学説が分かれる原因になっていると指摘しました。
また補足意見は、差押えの後に保護者が事業者へ費用を支払ってしまった場合にどうなるか、複数の債権者がそれぞれ別の債権を差し押さえた場合はどうかといった派生する問題があることにも触れ、それらは今後の事案の審理に委ねられるとしています。この決定が答えたのは、事業者が市町村に対して持つ債権の差押えが禁止されるかどうか、という一点です。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。