| 事件番号 | 令和4年(あ)第655号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 2023-10-11 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 高裁が刑の重さの決め方が不合理だとして事件を地裁に差し戻したあと、やり直しの裁判で、被告人が犯人かどうかをもう一度判断し直せるのかが問題になりました。
- 最高裁は、高裁が犯人だと認めた点に誤りはないと判断したうえで差し戻した以上、その点についても地裁は高裁の判断に拘束されるとしました。
- 差戻し後の裁判で審理できる範囲がどこまでかを、最高裁が明らかにした決定です。
何があったのか
被告人は、2人が住む住居に侵入し、その2人を殺害して遺体を遺棄したとして起訴されました。被告人は、殺人と死体遺棄について、自分は犯人ではないと争いました。
この事件は、地裁と高裁のあいだを行き来する複雑な経過をたどっています。順に整理します。
1回目の地裁は、被告人が犯人であると認定しました。ただし、住居に侵入した時点で殺害するつもりだったのは2人のうち1人についてだけだった、と認定し、懲役23年を言い渡しました。
これに対して、検察官と被告人の両方が控訴しました。検察官は事実の認定の誤りと刑が不当であることを、被告人は手続の違法と、自分を犯人とした認定の誤りを主張しました。
1回目の高裁は、検察官・被告人それぞれの事実認定に関する主張と、被告人の手続に関する主張をいずれも退けました。そのうえで、地裁は不適切な資料を使ったために量刑の傾向を見誤り、不合理な量刑判断をしたとして、地裁の判決を破棄し、事件を地裁に差し戻しました。被告人は上告しましたが、退けられています。
2回目の地裁は、1回目の高裁の判断が、量刑についてだけでなく、被告人が犯人であるという点にも及んでいるという立場で審理を進めました。そして、犯人性についてはこれと食い違う判断は許されないとしたうえで、被告人に無期懲役を言い渡しました。
2回目の高裁もこの考え方を支持し、被告人の控訴を退けました。被告人がさらに上告したのが、今回の最高裁の決定です。
なお、懲役は判決当時の刑法に基づく刑の名称です。
何が争われたのか
鍵になるのは、裁判所法4条です。この条文は次のように定めています。
上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。
高裁が地裁の判決を破棄して差し戻した場合、やり直しを担当する地裁は、高裁の判断に従わなければなりません。問題は、従わなければならない判断がどこまでを指すのかです。
1回目の高裁が地裁の判決を破棄した直接の理由は、量刑が不当だという点でした。被告人が犯人かどうかについては、高裁は地裁の認定に誤りはないとしただけで、それを理由に判決を破棄したわけではありません。
そうすると、やり直しの裁判を縛るのは破棄の理由になった量刑の点だけで、犯人かどうかについては改めて判断できるのではないか。これが、この事件で問われた点です。
裁判所はどう判断したか
最高裁は被告人の上告を棄却し、2回目の高裁の判断は正当だとしました。裁判官全員一致の意見です。
弁護人が主張した上告の理由そのものは、法律が定める上告理由に当たらないとされています。そのうえで最高裁は、この論点について職権で判断を示しました。
まず、裁判所法4条の趣旨について、審級制度があることを前提に、
事件が上級審の裁判所と下級審の裁判所とをいたずらに往復することを防止
しようとするものだと述べています。
次に、1回目の高裁の判断の中身に着目しました。1回目の高裁は、被告人を犯人とした地裁の認定に誤りはないと判断し、そのうえで刑の重さが不当だとして判決を破棄しています。この2つの判断の関係について、最高裁は次のように指摘しました。
刑の量定は、犯人性の認定を当然の前提とするものである。
刑の重さをどうするかという判断は、そもそも被告人が犯人であることが前提になっています。犯人であるという土台があって初めて、量刑が重いか軽いかを論じることができるという関係です。
こうした条文の趣旨と1回目の高裁の判断の内容を踏まえ、最高裁は、この事件のような差戻しの判決は、破棄の理由になった量刑不当の点だけでなく、量刑の前提として犯人だと認めた地裁判決に誤りはないとした点でも、その事件について下級審の裁判所を拘束すると結論づけました。
この判決の意味
この決定は、差戻し後の裁判で地裁が何を判断し直せるのかについて、ひとつの線を引いたものです。
高裁が判決を破棄するとき、判決の中にはさまざまな判断が含まれています。今回の事件では、破棄の直接の理由になった判断(量刑が不当だ)と、破棄の理由にはなっていない判断(犯人だとした認定に誤りはない)の両方がありました。最高裁は、後者についても、量刑判断の前提になっているという関係を重視して、拘束力を認めました。
注意したいのは、最高裁がこの事件の経過を前提に、事案を特定して判断している点です。高裁が判決の中で触れたことのすべてが、どんな場合でも差戻し後の裁判を縛ると述べたわけではありません。今回は、高裁が犯人性について誤りはないと判断したうえで、その犯人性を前提とする量刑の不当を理由に破棄した、という関係がありました。別の形の差戻しで同じ結論になるかどうかは、この決定からはただちには読み取れません。
また、拘束されるのは、やり直しを担当する下級審の裁判所です。この事件で被告人は、1回目の地裁と1回目の高裁で犯人性を争い、その判断に対して上告もしています。最高裁が示したのは、そうした審理を経て高裁が示した判断を、差戻し後の地裁が改めて覆すことはできない、という考え方です。
裁判のやり直しと聞くと、すべてを白紙に戻して最初から審理し直すように思えるかもしれません。しかしこの決定によれば、少なくとも今回のような差戻しでは、やり直しの対象は限られています。同じ争点について事件が地裁と高裁のあいだを何度も行き来することを防ぐという、条文の趣旨に沿った判断だといえます。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。