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土地の一部を守るために全部の処分を止められるか

事件番号令和5年(許)第9号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2023-10-06
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 1筆の土地の一部分だけを自分のものだと主張する人が、その土地の全部について処分を禁じる仮処分を求められるのかが争われました。
  • 最高裁は、原則として一部分を超える範囲には仮処分の必要がないとしつつ、一部分を切り分ける登記の申請ができない、または著しく難しいといった特段の事情があれば、全部が対象だからというだけで必要がないとはいえないと判断しました。
  • 仮処分を認めたわけではなく、その事情があるかどうかを調べ直すよう、事件を高裁に差し戻した決定です。
目次

何があったのか

登記のうえでひとまとまりとして扱われている土地を、1筆の土地といいます。この事件で申立てをした人は、複数の土地について、それぞれの一部分の所有権を時効によって取得したなどと主張していました。土地はどれも1筆で、登記上の所有者は相手方らです。

自分のものだと主張する以上、最終的にはその部分の登記を自分の名義に移してもらうことを求めることになります。しかし、その結論が出る前に、登記上の所有者が土地を第三者に売ってしまうと、権利を実現することが難しくなります。

そこで使われるのが、処分禁止の仮処分です。裁判の結論が出るまでのあいだ、相手が土地を処分できないよう、あらかじめ登記に記録しておく手続です。

申立てをした人は、一部分についての登記を求める権利を守るために、土地の全部について処分禁止の仮処分を申し立てました。最初に審理した裁判所はこれを却下し、大阪高裁もその結論を支持しました。そこで最高裁に不服を申し立てたのが、この事件です。

何が争われたのか

仮処分は、相手の権利を一時的に縛る手続です。そのため、そうする必要があること(保全の必要性)が認められなければ出されません。

守りたいのは土地の一部分についての権利なのに、土地の全部について処分を禁じるのは行き過ぎではないか。これが問題の出発点です。

高裁は、次のように考えました。一部分について処分禁止の仮処分を得れば、申立てをした人は登記上の所有者に代わって、土地を分ける登記(分筆の登記)を申請できる。分けられた一部分に処分禁止の登記がされれば、それで権利は守られる。だから、土地の全部についての仮処分には必要性がない、というものです。

これに対し、そもそも分筆の登記を申請することができない場合にはどうなるのか、という点が最高裁で問われました。

裁判所はどう判断したか

最高裁は高裁の決定を破棄し、事件を高裁に差し戻しました。裁判官全員一致の意見です。

まず、原則については高裁と同じ方向の考え方を示しています。一部分についての権利を守るには、その一部分に処分禁止の登記がされれば足りるので、全部についての仮処分は、

原則として当該一部分を超える部分については保全の必要性を欠くものと解される

としました。

そのうえで、例外がありうることを指摘しました。一部分に処分禁止の登記をするには、前提として、その一部分を分ける登記がされていなければなりません。ところが、申立てをする人がその登記を申請できるかどうかは、相手に知られないまま迅速に進めるという仮処分の手続の性質を損なわずに、申請に必要な情報を用意できるかどうかに左右されます。最高裁は、

当該債権者において当該申請をすることができない又は著しく困難である場合があることも否定できない

と述べました。その場合、一部分についての仮処分を得ても権利を守れないので、土地の全部について申し立てるほかない、という考え方です。

結論として最高裁は、分筆の登記の申請ができない、または著しく困難であるなどの特段の事情が認められるときは、その仮処分命令は、

当該土地の全部についてのものであることをもって直ちに保全の必要性を欠くものではない

と判断しました。

この事件では、分筆の登記について登記官から得た回答を記載した代理人の報告書が、裁判所に提出されていました。それにもかかわらず高裁は、回答を裏付ける資料を求めるなどして、地積測量図など申請に必要な情報を用意することを妨げる客観的な事情があるかどうかを検討していませんでした。最高裁は、審理を尽くさないまま申立てを退けた点に法令の違反があるとしました。

この判決の意味

この決定は、土地の一部分についての権利を守るために土地の全部の処分を止めるという申立てが、どんな場合にも認められないわけではないことを示したものです。

ただし、読み方には注意が必要です。

第一に、原則は変わっていません。全部についての仮処分は、一部分を超える範囲については必要性を欠くというのが出発点です。例外にあたるのは、分筆の登記の申請ができない、または著しく困難であるといった特段の事情が認められる場合に限られます。

第二に、特段の事情があれば必ず仮処分が出るとされたわけでもありません。全部について処分を禁じられれば、登記上の所有者は、争いのない部分についてまで権利の行使を制約されます。最高裁は、その不利益の内容や程度は別に考慮されるとし、所有者の権利の行使が過度に制約されないと認められるだけの事情がない場合には、申立ては却下されるべきだと述べています。

第三に、この事件自体はまだ決着していません。最高裁は、特段の事情があるかどうか、申立てをした人が主張する権利があるのかどうかとその内容、相手方らが受ける不利益の内容や程度について、さらに審理を尽くさせるために事件を差し戻しました。申立てをした人の主張が認められたわけではありません。

なお、この決定は判決当時の民事保全法に基づく判断です。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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