| 事件番号 | 令和4年(行ツ)第144号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2023-09-12 |
| 通称 | 臨時国会召集訴訟 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 憲法53条に基づいて臨時国会の召集を求めた参議院議員が、内閣の対応が遅れたことを理由に、国に損害賠償などを求めました。
- 最高裁は、憲法53条後段は個々の議員の権利や利益を保障した規定ではないとして、賠償請求を認めませんでした。
- 将来の召集について内閣の義務の確認を求めた訴えも退けられましたが、裁判官1人が反対意見を述べています。
何があったのか
憲法53条は、国会の臨時会(臨時国会)について定めています。前段は内閣が召集を決定できるとし、後段は、衆議院か参議院のどちらかで総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集を決定しなければならないとしています。ただし、要求から何日以内に召集するかは書かれていません。
平成29年(2017年)6月22日、参議院の総議員の4分の1以上にあたる72名の議員が、この規定に基づいて臨時会の召集を決定するよう内閣に求めました。
内閣が召集を決定したのは同じ年の9月22日で、臨時会は9月28日に召集されました。しかし、その冒頭で衆議院が解散され、参議院も同時に閉会となりました。
召集を求めた参議院議員の1人が、国を相手に裁判を起こしました。報道によれば、同じ召集要求をめぐる訴訟は東京・那覇・岡山の3か所で起こされ、最高裁は同じ日に3件の判決を言い渡しています。この記事で扱うのは、そのうち東京高等裁判所を経た1件です。
何が争われたのか
議員側の請求は、大きく2つありました。
1つ目は、将来に向けた確認の請求です。次に自分が4分の1以上の議員の1人として召集を求めたときには、内閣は20日以内に臨時会が召集されるよう決定する義務を負う、ということの確認を求めました。
2つ目は、損害賠償の請求です。内閣が要求から92日後まで召集を決定しなかったのは憲法に違反し、国会議員としての権利を行使できなかったとして、国家賠償法1条1項に基づく賠償を求めました。
原審の東京高等裁判所は、確認の訴えについては、そもそも裁判所が扱える争いではないとして却下し、賠償請求は棄却していました。
裁判所はどう判断したか
最高裁は議員側の上告を棄却しました。ただし、確認の訴えについては、原審とは違う理由を示しています。
確認の訴え:裁判所で扱える争いだが、今の時点では訴えの利益がない
原審は、召集の要求は議員が国の機関として行使する権限であって、個人の権利をめぐる争いではないから、裁判所が判断する対象にならないと考えました。
最高裁はこの点を改めました。議員側は、個々の議員が召集要求に関する権利を持つという憲法解釈を前提に、国との間の義務や地位の確認を求めています。これは当事者間の具体的な法律関係をめぐる争いで、法令を当てはめて解決できるものだから、裁判所が扱える争いにあたる、という判断です。
そのうえで最高裁は、訴えを退ける結論は維持しました。将来、4分の1以上の議員による召集要求が実際に行われるかどうか、行われたとして内閣がいつ召集を決定するかは、現時点では分かりません。そのため、
上告人に上記不利益が生ずる現実の危険があるとはいえず
確認を求める利益を欠く不適法な訴えだとしました。
賠償請求:憲法53条後段は議員個人の権利を保障していない
賠償請求について、最高裁はまず憲法53条後段の趣旨を整理しました。この規定は、国会と内閣の間の権限の分け方という観点から、内閣が召集を決定しない場合でも国会が活動を始められるように、一定数以上の議員に召集を要求する権限を与え、要求があれば内閣が召集を決定する義務を負うとしたものだ、というのが最高裁の理解です。
そして、この規定は
個々の国会議員の臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されない
と述べました。
議員側は、臨時会が開かれれば議案の発議などの議員活動ができると主張していました。これに対して最高裁は、内閣は議員がどんな活動を予定しているかに関係なく召集を決定する義務を負うこと、召集を要求した議員かどうかで臨時会で行使できる権能に違いはないことを指摘しています。召集の決定が遅れたからといって、直ちに個々の議員の議員活動に関する権利や利益が侵害されるとはいえない、としました。
結論として、召集を要求した議員は、内閣の決定が遅れたことを理由に国家賠償法に基づく損害賠償を請求することはできない、と判断しています。
なお、多数意見は、要求があれば内閣が召集を決定する義務を負うことは認めています。一方で、今回の92日という期間が憲法に違反するかどうかについては、判断を示していません。
この判決の意味
この判決が示したのは、憲法53条後段をめぐる内閣の対応について、召集を求めた議員が個人として賠償を求める道は開かれていない、という考え方です。報道では、臨時国会の召集義務を定めた憲法53条について最高裁が初めて示した判断だと伝えられています。
他方で、確認の訴えについて、裁判所が扱える争いであること自体は認められました。退けられた理由は、将来の召集要求や内閣の対応がまだ明らかでない、という時点の問題です。
この判決には、宇賀克也裁判官の反対意見が付いています。反対意見は、過去の召集要求の経過などからみて、再び要求が行われ、召集が遅れる可能性は相当に高いとして、確認の訴えは適法だと述べました。また、召集までに必要な合理的な期間について、憲法に定めはないとしつつ、
20日あれば、十分と思われる
との考えを示し、特段の事情がない限り内閣は20日以内に召集されるよう決定する義務を負う、という限度で確認の請求を認めるべきだとしています。賠償請求についても、今回の内閣の対応は特段の事情がない限り違法といわざるを得ないとの見方を示しました。
これはあくまで1人の裁判官の意見で、最高裁としての判断ではありません。ただ、多数意見が触れなかった点について、別の考え方がありうることを示すものといえます。
その後・実務への影響
この判決で、議員側の敗訴が確定しました。
何日以内に臨時会を召集すべきかは、判決後も憲法の条文には書かれていないままです。召集の要求から20日以内の召集決定を内閣に義務づける内容の国会法改正案が国会に提出された例があります。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。