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自分の事件の証拠を他人に隠滅させたら罪になるか 最高裁の判断

事件番号令和5年(あ)第134号
裁判所最高裁判所第一小法廷
判決日2023-09-13
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 罪を犯した本人が、他人に頼んで自分の事件の証拠を隠滅させた場合に、証拠隠滅罪の教唆犯になるのかが問題になりました。
  • 最高裁は、この場合には教唆犯が成立するとして、被告人を有罪とした一審・二審の判断を正当と認め、上告を棄却しました。
  • 昭和40年の最高裁決定と同じ立場を確認したものですが、5人の裁判官のうち1人は、教唆犯の成立を認めるべきではないとする反対意見を述べています。
目次

何があったのか

この事件の被告人は、傷害致死、傷害、証拠隠滅教唆の罪に問われていました。一審は被告人を有罪とし、証拠隠滅罪の教唆犯の成立も認めました。二審の大阪高等裁判所も一審の判断を是認し、被告人側が最高裁に上告していました。

最高裁の決定は2ページほどの短いもので、被告人が誰に、どのような証拠を、どのように隠滅させたのかといった具体的ないきさつは書かれていません。決定文から分かるのは、被告人が自分の刑事事件に関する証拠を他人に隠滅させたとして、教唆犯に問われたということです。

以下では、決定文に書かれている範囲で、最高裁が示した法律上の考え方を紹介します。

何が争われたのか

刑法104条は、証拠隠滅等の罪を定めています。この条文が処罰の対象にしているのは、「他人の刑事事件に関する証拠」を隠滅したり、偽造・変造したりする行為です。条文上、対象は他人の事件の証拠に限られているので、罪を犯した本人が自分の事件の証拠を自分で隠滅しても、この条文の罪には当たらないと解されています。

一方、刑法61条1項は、人をそそのかして犯罪を実行させた者(教唆犯)について定めています。

では、本人が自分で証拠を隠滅するのではなく、他人に頼んで隠滅させた場合はどうなるのでしょうか。頼まれて証拠を隠滅した人から見れば、それは「他人の刑事事件」の証拠ですから、証拠隠滅罪に当たりえます。問題は、それをそそのかした本人です。自分でやれば罪にならないのに、人にやらせると教唆犯として処罰されるのか。これがこの決定で取り上げられた論点です。

裁判所はどう判断したか

最高裁第一小法廷は、上告を棄却しました。あわせて、最高裁での未決勾留日数のうち120日を刑に算入するとしています。

まず、弁護人が主張した上告の理由については、いずれも認めませんでした。自白だけで有罪とされたという憲法38条3項違反の主張に対しては、一審判決は自白以外の証拠も総合して有罪を認定しているとして、主張の前提を欠くとしました。そのほかの主張も、刑事訴訟法が定める上告理由には当たらないとしています。

そのうえで最高裁は、上告理由への応答とは別に、「なお」として証拠隠滅罪の教唆犯について判断を示しました。

犯人が他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させたときは

刑法104条の証拠隠滅罪の教唆犯が成立すると解するのが相当である、というのがその内容です。最高裁は、昭和40年9月16日の第一小法廷決定を参照すべき先例として挙げており、この決定はその立場を改めて確認したものといえます。

結論として、被告人に教唆犯の成立を認めた一審判決を是認した二審の判断は正当だとされました。一審、二審、最高裁を通じて、この点の結論は変わっていません。

1人の裁判官は反対した

この決定は全員一致ではありません。山口厚裁判官は、次のように述べて反対意見を付けました。

私は、被告人に証拠隠滅罪の教唆犯の成立を認めることは相当でないと考える。

決定文では、その理由は詳しく書かれていません。山口裁判官は、犯人蔵匿・隠避罪の教唆犯に関する令和3年6月9日の第一小法廷決定で自らが述べた反対意見と趣旨が同じだとして、それを引用するとしています。

令和3年の決定は、犯人が他人をそそのかして自分をかくまわせたり逃がさせたりした場合に、刑法103条の罪の教唆犯が成立するかが問題になったものです。そこでも多数意見は教唆犯の成立を認め、山口裁判官は反対していました。証拠隠滅と犯人蔵匿・隠避という違いはありますが、自分でやれば処罰されない行為を他人にやらせた場合に教唆犯とするかという点で、問題の形が共通しています。

この決定の意味

この決定は、新しいルールを打ち出したものではなく、昭和40年の決定以来の最高裁の立場が今も維持されていることを確認したものです。

一般の感覚からすると、自分の事件の証拠を自分で処分しても証拠隠滅罪にならないのに、人に頼むと罪になるというのは、意外に感じられるかもしれません。最高裁の多数意見は、その理由をこの決定の中では説明しておらず、先例を引いて結論を示すにとどめています。

他方で、反対意見が付いたことは、この問題について最高裁の内部でも考え方が一致していないことを示しています。令和3年の決定に続き、同じ小法廷で同じ裁判官が同じ方向の反対意見を述べたかたちです。

なお、この決定は決定当時の刑法104条に基づく判断です。同条は、その後、懲役を拘禁刑に改める刑法改正(2025年6月施行)によって刑の種類の表記が改められていますが、「他人の刑事事件に関する証拠」を対象とする部分は変わっていません。

また、この決定が示したのは、この事案について教唆犯の成立を認めた下級審の判断が正当だということです。どのような働きかけがあれば教唆に当たるのかは、決定文では触れられておらず、個別の事案ごとの判断になります。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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