MENU

海外にサーバーを置けば日本の特許を逃れられるのか

事件番号令和5年(受)第2028号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2025-03-03
通称ドワンゴ対FC2事件
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 動画にコメントを重ねて表示する仕組みの特許について、サーバーを米国に置いた事業者に日本の特許権が及ぶかが争われた
  • 最高裁は、システムをつくる行為とできあがったシステムを全体としてみて、実質的に日本国内での生産といえるなら日本の特許権の効力が及ぶと判断した
  • 海外にサーバーを置いただけでは日本の特許権を避けられない、という考え方が最高裁として示された
目次

何があったのか

動画の画面上に視聴者のコメントが流れ、コメント同士が重ならないように位置を調整して表示する——この仕組みについて、ある会社が「コメント配信システム」という名称の特許(特許第6526304号)を持っていた。特許の請求項に書かれた発明は、端末とサーバーをネットワークでつないだシステムの発明である。

一方、米国ネバダ州法に基づいて設立された法人が、日本に住むユーザーに向けて、インターネットを通じて複数の動画共有サービスを提供していた。こちらも、動画の再生に合わせてユーザーが書き込んだコメントが表示されるサービスだった。

この法人は、サービスを提供するためのウェブサーバー、コメント配信用サーバー、動画配信用サーバーを米国内に設置して管理していた。ユーザーが日本国内の端末で動画のページを開くと、米国のウェブサーバーからHTMLファイルやプログラムを格納したファイルが端末に送られる。すると端末は自動的に米国のサーバーへ動画とコメントのデータを要求し、受け取ったコメントが重ならないように調整したうえで、動画に重ねて表示する。

こうして、日本国内の端末と米国内のサーバーが組み合わさり、特許の技術的範囲に入るシステムができあがる。特許権者は、これが特許権の侵害だとして、差止めと損害賠償等を求めた。報道では、動画サービスを手がけるドワンゴがFC2らを訴えたドワンゴ対FC2事件として知られている。

何が争われたのか

特許権には属地主義という原則がある。日本の特許権の効力は日本の領域内でしか認められない、という考え方で、最高裁もこの判決の中で改めてこう述べている。

我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められる

訴えられた法人は、この原則を根拠に争った。自分がファイルを配信する行為は日本の領域の外で行われているし、できあがるシステムの一部であるサーバーも日本の外にある。だから日本の特許権の効力が及ぶ行為にはあたらない、という主張である。

特許法は、物の発明について、その物を「生産」する行為を特許発明の実施としている(特許法2条3項1号)。争点は、海外からの配信によって日本国内の端末を含むシステムが組み上がることが、この「生産」にあたるかどうかだった。

一審はこの請求を認めなかったと報じられている。控訴審の知的財産高等裁判所は令和5年5月26日、「生産」にあたるとして侵害を認め、訴えられた法人が上告した。

裁判所はどう判断したか

最高裁第二小法廷は、上告を棄却した。控訴審と同じ趣旨の判断は正当だとして是認している。

判決はまず、通信回線を通じた国境を越える情報の流通が極めて容易になった現代において、システムをつくる行為の一部が海外からされ、システムの構成の一部であるサーバーが海外にあるというだけで常に日本の特許権が及ばないとするのは、発明の保護と奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わない、と述べた。そのうえで、行為とシステムを全体としてみて実質的に日本国内での「生産」と評価できるときは、日本の特許権の効力が及ぶとした。

本件へのあてはめとして挙げられたのは、次のような事情である。日本国内のユーザーがサービスを受けるためにページにアクセスすれば、システムの構築は当然に行われる。その結果、コメント同士が重ならないよう調整する処理がされ、その処理の結果は日本国内の端末に表示される。つまり、発明の効果が日本国内の端末で当然に現れる。それとの関係でみれば、

前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はない

さらに、この配信やその結果として構築されるシステムが特許権者に経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれない、とした。そして結論として、訴えられた法人は、

実質的に我が国の領域内において、本件システムを生産していると評価するのが相当である

と評価した。裁判官全員一致の意見による判決である。

この判決の意味

インターネットのサービスは、利用者が日本国内にいてもサーバーが海外にあることが珍しくない。属地主義を形式的にあてはめると、サーバーを海外に置くだけで日本の特許権が届かなくなりかねない。最高裁は、行為と結果を全体としてみるという枠組みでこの問題に答えたことになる。

注意したいのは、海外にサーバーがあれば常に侵害になる、と述べたわけではない点である。判決が挙げたのは、日本国内のユーザーがアクセスすれば当然にシステムが構築されること、発明の効果が日本国内の端末で現れること、特許権者に経済的な影響が及びうることといった、この事案に即した具体的な事情だった。事情が違えば結論も変わりうる。

また、上告した側が引用した平成14年の最高裁判決については、本件に適切でないとしている。過去の判断を変更したのではなく、事案が違うという整理である。

その後・実務への影響

上告が棄却されたことで、侵害を認めた知的財産高等裁判所の判断が確定した。

海外にサーバーを置いて日本のユーザーにサービスを提供している事業者にとっては、日本で成立している特許を確認しておく必要性が高まったといえる。逆に特許を持つ側からみれば、拠点を海外に置く相手に対しても権利を主張できる余地があることが示された。

なお、この判決が判断したのは、システムの発明について特許法2条3項1号の「生産」にあたるかどうかであり、判決当時の同条項に基づく判断である。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次