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本人が亡くなった後に裁判をやり直す 日野町事件の再審開始が確定

事件番号令和5年(し)第155号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2026-02-24
通称日野町事件
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 40年以上前の強盗殺人事件で無期懲役が確定し、その後に亡くなった人について、裁判をやり直す(再審)べきかどうかが争われました
  • 最高裁は、検察官の特別抗告を退け、再審を始めるとした下級審の判断に誤りはないとしました
  • これで再審開始が確定しました。死刑や無期懲役が確定した事件で、本人が亡くなった後にやり直しの裁判が開かれるのは戦後初とされています
目次

何があったのか

1984年12月、滋賀県日野町で女性が殺害され、金品が奪われる事件が起きました。逮捕・起訴されたのは、3年以上たった1988年3月のことです。直接の物証は乏しく、有罪の決め手とされたのは本人の自白でした。裁判ではその自白が任意になされたものか、信用できるものかが争われましたが、2000年9月に上告が退けられ、無期懲役が確定しました。

本人は確定後にも裁判のやり直しを求めましたが、その求めは退けられています。そして2011年3月、本人は亡くなりました。

日本の刑事訴訟法は、有罪判決を受けた本人が亡くなった後でも、配偶者や親族が裁判のやり直しを求められると定めています。遺族は2012年3月、2度目の再審請求を申し立てました。

その審理の過程で、それまで表に出ていなかった資料が明らかになります。警察が検察官に送っていなかった、引き当て捜査(容疑者に現場などを案内させて確認する捜査)の様子を撮影した写真のネガです。このネガと照らし合わせたところ、捜査報告書に貼られていた写真が入れ替えられていたことが判明しました。

2018年7月11日、大津地方裁判所はこのネガなどを新しい証拠と認め、再審を開始する決定をしました。検察官が不服を申し立てましたが、2023年2月27日、大阪高等裁判所もこれを退けました。検察官はさらに最高裁に特別抗告し、その判断が今回の決定です。

何が争われたのか

争点は大きく2つに分かれます。

1つは、そもそも最高裁に持ち込める話なのか、という入口の問題です。刑事訴訟法は、下級審の決定に対して最高裁に不服を申し立てられる場面(特別抗告)を、憲法違反があるときと、最高裁の判例に反するときに限っています。検察官は、新しい証拠の評価の仕方が過去の判例に反する、と主張していました。

もう1つは中身の問題です。再審が認められるのは、有罪判決を受けた人について、無罪などを言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときです(刑事訴訟法435条6号)。ここでは、その証拠がこれまで判断の材料になっていなかったか(新規性)と、有罪の判断を揺るがすだけの力を持つか(明白性)の2点が問われます。写真のネガがこれを満たすのかが争われました。

裁判所はどう判断したか

最高裁は、まず入口の段階で検察官の主張を退けました。決定は、検察官の主張について次のように述べています。

実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない

判例違反という言い方をしていても、実際には証拠の評価や法律の適用のしかたを争っているだけで、最高裁に持ち込める種類の主張ではない、という判断です。

そのうえで最高裁は、念のためとして中身にも触れ、記録によれば次のとおりだとしました。

本件再審請求を認容すべきものとした原々決定の結論を正当とした原判断に誤りがあるとは認められない

新しい証拠の新規性と明白性を認めて再審を始めるとした大津地裁の結論、それを正当とした大阪高裁の判断、そのどちらにも誤りは見当たらない、という趣旨です。裁判官全員一致の意見でした。

この判決の意味

注意しておきたいのは、この決定は「無罪だ」と述べたものではない、という点です。決まったのは、裁判をやり直す手続きを始めること。有罪か無罪かの判断は、これから開かれる再審の法廷で示されます。

それでも、この決定にはいくつかの意味があります。

第一に、有罪判決を受けた本人が亡くなった後でも、遺族が申し立てた再審請求によって、確定した判決を見直す道が実際に開かれたことです。死刑や無期懲役が確定した事件で本人の死後に再審が始まるのは戦後初とされており、制度が文字どおり機能した例といえます。

第二に、決め手になったのが、捜査機関の手元にあって法廷に出ていなかった資料だったことです。捜査報告書の写真が入れ替わっていたという事実は、そのネガが明らかにならなければ、誰にも分からないままでした。再審請求の場面で、検察官が持っている証拠をどこまで開示させられるのかという問題を、具体的な形で示した事例だといえます。

第三に、時間の問題です。再審を始めるという最初の決定が2018年7月、それが確定したのが2026年2月。検察官が2段階にわたって不服を申し立てたことで、手続きの入口だけで7年以上が経過しました。事件の発生からは40年以上が過ぎています。

その後・実務への影響

この決定が出た後の2026年7月17日、再審の手続きを定めた刑事訴訟法の改正法が成立しました。報道によれば、再審を始める決定に対する検察官の不服申し立てを原則として禁止することや、再審請求の理由に関係する証拠の開示を裁判所が命じられるようにすることなどが盛り込まれています。現行の刑事訴訟法ができてから、再審の規定が本格的に見直されるのは初めてとされています。

本記事で紹介した決定は、この改正より前の規定にもとづく判断です。検察官が2段階の不服申し立てを行えたのも、改正前の制度のもとでのことでした。同じ経過を今後もたどるとは限らない点に注意してください。

なお、再審を始めるかどうかの判断で問われる「新規性」と「明白性」の要件そのもの(刑事訴訟法435条6号)は、今回の改正でも変わっていません。どのような証拠であれば裁判のやり直しにつながるのかという物差しについては、この決定の考え方が引き続き参考になります。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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