| 事件番号 | 令和7年(あ)第868号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 2026-10-05 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 検察官が起訴したあと、正式な起訴をし直さずに、別の日時・場所の窃盗を裁判の対象に付け足したことが問題になりました
- 最高裁は、付け足された窃盗は起訴されていない事件であり、それについて判決をした1審と2審はどちらも違法だと判断しました
- 被告人や弁護人が異議を述べていなかったとしても結論は変わらないという考え方が、補足意見で示されています
何があったのか
被告人は、氏名不詳の人物らと共謀して、銀行などの現金自動預払機(ATM)から現金を盗んだとして起訴されました。
検察官が令和5年12月28日に起訴したのは、同年11月29日と30日に、ある銀行の2か所のATMからそれぞれ現金50万円を盗んだという2件の事実です。
その後、検察官は令和6年2月16日、同じ2日間に別の金融機関のATMなどから現金を盗んだという4件の事実(合計100万円、合計40万円、20万円、合計13万円)を、裁判の対象に加えるよう求めました。このとき検察官がとったのは、新しく起訴する手続(追起訴)ではなく、すでに起訴した事実の内容を変更・追加する手続(訴因変更)でした。
1審の裁判所はこの請求を許可し、追加された窃盗も含めて審理しました。そして、ほかの窃盗や犯罪収益等隠匿の罪とあわせて、被告人を懲役3年(執行猶予5年)と罰金50万円としました。
検察官が控訴したところ、2審の大阪高等裁判所は、刑が軽すぎるという理由で1審判決を破棄し、懲役2年10月と罰金100万円を言い渡しました。これに対して被告人側が上告しました。
何が争われたのか
弁護人が上告で主張したのは、刑が重すぎるという点でした。最高裁は、この主張は法律が定める上告の理由に当たらないとしています。
しかし最高裁は、当事者が主張していない点を自ら調べ、手続そのものに問題があると判断しました。問題になったのは、次の点です。
刑事裁判では、裁判所は検察官が起訴した事件についてだけ審理し、判決をすることができます。起訴したあとで事実の内容を変更したり追加したりする訴因変更という手続もありますが、刑事訴訟法312条1項は、これを「公訴事実の同一性」を害しない範囲に限って認めています。大まかにいえば、もとの起訴と同じ1つの事件といえる範囲でしか使えない手続です。
今回追加された4件の窃盗は、当初の2件とは別の日時・別のATMで行われたとされるものでした。これを訴因変更で付け足して、裁判所が判決をしてよかったのかが問われました。
裁判所はどう判断したか
最高裁は、1審判決と2審判決の両方を破棄し、事件を京都地方裁判所に差し戻しました。裁判官全員一致の結論です。
最高裁はまず、当初の窃盗と追加された窃盗は、それぞれ別々の犯罪(併合罪)の関係にあるとした2審の見方自体は相当だとしました。そのうえで、別々の犯罪である以上、追加された窃盗は当初の起訴と「公訴事実の同一性」がなく、本来は別の事件として起訴されるべきものだと述べています。そして、次のように判断しました。
訴因変更によりこれを審判の対象とすることはできず
また、訴因変更がされていることをもって起訴があったのと同じように扱ってよい事情も、記録上見当たらないとしました。
その結果、追加された窃盗について判決をした2審には、刑事訴訟法378条3号にいう「審判の請求を受けない事件」について判決をした違法があるとされました。同じ窃盗について審理・判決をした1審にも同様の違法があるとして、あわせて破棄されています。
補足意見が述べたこと
三浦守裁判官は補足意見で、この結論をさらに説明しています。
今回の訴因変更の請求は書面で行われ、被告人にも届けられ、弁護人の異議もないまま許可されていました。その後の審理も追起訴の場合と同じように進められており、被告人に手続上の不利益は生じていないと見ることもできる、と補足意見は述べています。
そのうえで補足意見は、追起訴は新しい裁判の手続を始める行為であり、訴因変更はすでに始まった手続の中での行為であって、両者には本質的な違いがあると指摘しました。そして、起訴があったかどうかという問題は、
被告人の不利益の程度やその同意によって左右される問題ではない
と述べています。訴因変更を起訴と同じように扱ってしまうと、訴因変更を一定の範囲に限っているルールそのものの意味が失われる、という理由も示されました。
この判決の意味
この判決は、新しい一般的なルールを打ち立てたものではなく、この事件の手続についての判断(事例判断)です。ただ、裁判所は起訴された事件についてしか判断できないという刑事裁判の基本を、最高裁が改めて厳格に確認したものと読むことができます。
注意したいのは、最高裁が判断したのは手続の誤りであって、被告人が追加された窃盗をしたかどうかではないという点です。判決は、盗んだという事実を否定したわけでも、被告人を無罪としたわけでもありません。
また、この誤りは被告人側が主張したものではなく、最高裁が自ら調べて取り上げたものです。検察官の請求、1審の許可、2審の判決と、複数の段階で見過ごされてきたことになります。補足意見は、このような事態は迅速な裁判の要請などの点でも望ましくないとしたうえで、次のように結んでいます。
全ての関係者が十分に注意を尽くす必要がある
その後・実務への影響
事件は京都地方裁判所に差し戻され、1審からやり直されます。最高裁は、追加された窃盗について改めて起訴がされるかどうかも踏まえて、さらに審理を尽くさせるとしています。被告人の刑がどうなるかは、差戻し後の裁判で決まることになり、この判決の時点では決着していません。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。