| 事件番号 | 令和5年(受)第1583号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 2024-12-23 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- インスタグラムで自分の写真を無断で投稿された人が、投稿者を突き止めるため、投稿後のログイン8回分について、インターネット接続業者に契約者の氏名や住所などの開示を求めました。
- 最高裁は、改正後のプロバイダ責任制限法が適用されるとしたうえで、投稿に最も時間的に近い1回分のログインについてだけ開示を認め、残り7回分の開示は認めませんでした。
- ログイン記録の開示は原則として投稿に最も近い1回分、という考え方を、最高裁が示した判決です。
何があったのか
インスタグラムでは、アカウントにログインした状態でなければ投稿ができません。判決によると、運営者はログインの際の通信のIPアドレスと日時は記録していますが、投稿そのものの通信については記録していませんでした。そのため、投稿者を特定するには、投稿の通信ではなく、ログインの通信をたどる必要がありました。
氏名の分からない投稿者は、あるアカウントで、令和3年4月29日に4件の記事を、日時の分からない時期にもう1件の記事を投稿しました。いずれも被害を受けた人を写した写真を無断で掲載したもので、判決は、社会生活上がまんすべき限度を超えて人格的な利益を侵害するものだったと認定しています。被害を受けた人は、投稿者に損害賠償を求める訴訟を準備していました。
投稿者はその後、令和3年5月20日から6月13日までの間に、このアカウントに8回ログインしました。この8回はいずれも同じインターネット接続業者のサービスを使ったもので、接続業者はその通信の情報を持っていました。そこで被害を受けた人は、この接続業者を相手に、8回のログインそれぞれについて、契約者の氏名・住所・電話番号・メールアドレスの開示を求めました。
なお、投稿からこの8回のログインまでの間にも、同じ接続業者を使ったログインが2回(4月29日と5月1日)ありましたが、接続業者は自分の通信記録の中からこの2回に当たるものを特定できませんでした。
二審の大阪高等裁判所は、8回のログインをしたのは投稿者と同一人物なのだから、すべて開示の対象になるとして、請求を全面的に認めていました。
何が争われたのか
争点は大きく2つです。
1つ目は、どの法律を当てはめるかです。投稿もログインも令和3年に行われましたが、その後、令和4年10月1日に改正プロバイダ責任制限法とその施行規則が施行されました。改正後の法律は、ログインなどのための通信のうち一定の範囲のものを「侵害関連通信」と位置づけ、その情報の開示を求められることを明文で定めています。二審は改正前の法律を当てはめていたため、どちらによるべきかが問題になりました。
2つ目は、改正後の法律によるとして、8回のログインのどれが開示の対象になるかです。施行規則は、侵害関連通信を、侵害情報の送信と相当の関連性があるものに限っています。ログインが何回もある場合に、どこまでがこれに当たるかが問われました。
裁判所はどう判断したか
改正後の法律が適用される
最高裁はまず、改正法には、施行前の投稿やログインについて改正前の法律によるとする経過措置の規定が置かれていないことを指摘しました。そして、改正法は開示請求の要件を一部整理したものであって、「発信者情報の開示請求権そのものを新たに創設したものではない」と述べ、施行前の投稿・ログインにも改正後の規定が適用されるとしました。改正前の法律を当てはめた二審の判断は誤りだとしています。
開示の対象は、原則として最も近い1回
次に最高裁は、施行規則が侵害関連通信を「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」としている趣旨を検討しました。
最高裁は一方で、ほかのログインの情報では投稿者を特定できない場合にまで、投稿から時間がたっていることなどを理由に、一律に対象外とするのは相当でないとしました。
他方で、ログインそれ自体は権利を侵害するものではありません。開示される情報からは、通信の時間や場所など投稿者の行動まで推測できることがあり、インターネット接続の契約者である第三者の情報が含まれることもあります。開示するログインの数が増えるほどこうした制約は大きくなる一方、1回分の情報で投稿者を特定できるなら、それ以上を求める必要はないと述べました。
そのうえで最高裁は、時間的に近いこと以外にログインと投稿との結びつきを示す事情が明らかでない場合には、「少なくとも侵害情報の送信と最も時間的に近接するログイン通信」が開示の対象に当たり、それ以外のログインは、あえてその情報を求める必要性を裏づける事情があるときに対象になりうる、という基準を示しました。
この事件への当てはめ
4月29日の4件の投稿との関係では、8回のうち投稿の21日後に行われたログインが最も時間的に近いものでした。間には2回のログインがありますが、接続業者はその記録を特定できておらず、そこから投稿者を特定するのは困難です。最高裁は、この21日後のログインが開示の対象に当たると判断しました。
残る7回は、この1回より投稿から離れており、接続業者はこの1回分の情報を持っている以上、あえて残りを求める必要性を裏づける事情も見当たらないとして、対象に当たらないとしました。日時の分からないもう1件の投稿との関係でも、どのログインが最も近いか分からない以上、7回分は対象に当たらないとしています。
結論として、最高裁は1回分の開示を認めた部分については二審の結論を維持し、残り7回分については二審判決を破棄し、一審判決も取り消して請求を退けました。裁判官全員一致の判断です。
この判決の意味
この事件で二審は、投稿者と同一人物のログインである以上、8回分すべてを開示の対象としていました。最高裁はこの考え方をとらず、開示の範囲を絞り込みました。
この判決は、投稿との結びつきを示す事情が時間の近さしかない場合、開示されるのは原則として投稿に最も近い1回分であり、ほかのログインは追加で求める必要性がある場合に限られるという枠組みを示しました。被害を受けた人の救済と、ログインした人や回線の契約者のプライバシー、通信の秘密とのバランスを取った判断といえます。
同時に、最も近いログインが投稿から21日後であっても開示の対象になりうることを認めており、時間がたっていることだけで開示が一律に否定されるわけではない点も示されました。ただし、どのログインが対象になるかは、記録の残り方などの事情によって変わりうるものです。
その後・実務への影響
この判決が適用したのは、令和3年の改正後のプロバイダ責任制限法とその施行規則です。この法律は2025年4月に名称が改められ(通称:情報流通プラットフォーム対処法)、大規模なプラットフォーム事業者の義務などが加わりました。この判決は、名称変更前の判決当時の法令に基づく判断です。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。