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大学教員の無期転換は5年か10年か 最高裁が示した線引き

事件番号令和5年(受)第906号
裁判所最高裁判所第一小法廷
判決日2024-10-31
通称学校法人羽衣学園事件
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 大学の講師が、有期契約が通算5年を超えたので無期契約に変わったはずだと主張したのに対し、大学側は、教員には10年の特例が適用されると反論した
  • 最高裁は、介護福祉士の養成にあたるこの講師の職は特例の対象になる職に当たると判断し、特例を適用しなかった高裁判決を破棄した
  • ただし決着はしておらず、残る争点を審理するため大阪高裁に差し戻された
目次

何があったのか

有期の労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたとき、働く人が申し込めば、契約は期間の定めのないものに切り替わる。労働契約法18条1項が定めるいわゆる無期転換ルールで、パートや契約社員など幅広い働き方に適用される。

ところが大学の教員には例外がある。大学の教員等の任期に関する法律(任期法)は、一定の要件を満たす場合に労働契約で任期を定めることを認め、そうして任期を定めた教員については、無期転換に必要な通算期間を5年ではなく10年と読み替える(任期法7条1項)。任期法は、大学等に多様な人材を受け入れ、教育研究の進展に寄与することを目的として掲げている。

この事件の舞台は、学校法人が設置する羽衣国際大学である。大学は平成24年(2012年)12月、人間生活学部人間生活学科生活福祉コースの専任教員4名のうち1名が退任するのに伴い、後任を募集した。募集にあたっては、介護福祉士などの資格を持ち、資格取得後5年以上の実務経験があることを条件とし、最初の契約期間は3年、更新は1回限りとしていた。

これに応じた人が平成25年(2013年)3月4日に契約を結び、同年4月1日から生活福祉コースの講師に就いた。担当したのは、介護福祉士の養成課程に関わる演習、介護実習、レクリエーション現場実習、論文指導、卒業研究といった授業などである。大学の規則には、任期を定めて雇用する教員として人間生活学部の講師が挙げられていた。

契約は平成28年(2016年)4月1日頃に一度更新され、期間は平成31年(2019年)3月31日まで、再度の更新はしないものとされた。そして平成30年(2018年)11月4日、この講師は大学側に対し、契約期間が終わった翌日から働く無期契約を結びたいと申し込んだ。通算では5年を超えている、という前提での申込みである。

何が争われたのか

争点は一点に絞られる。この講師の職が、任期法4条1項1号のいう職に当たるかどうかだ。

同号は、任期を定められる場合として「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき」を挙げている。先端的・学際的・総合的な教育研究であることをはじめ、その組織で行われる教育研究の分野や方法の特性に照らして判断される、という書き方になっている。

ここに当たるなら任期法7条1項の10年の読み替えが働き、通算5年を超えただけでは無期契約に変わらない。当たらないなら、原則どおり5年で無期転換が成立する。講師にとっては地位そのものを左右する分かれ目だった。

原審の大阪高裁(令和5年1月18日判決)は、当たらないと判断した。この職に就く人を定期的に入れ替えることが合理的だといえる具体的な事情は見当たらず、むしろ安定的に確保することが望ましいこと、担当していた授業の内容からみて介護分野以外の広い学問の知識や経験までは必要とされず、職務に研究の側面が乏しいこと、というのがその理由である。そのうえで無期契約の成立を認め、講師の地位確認請求を認容し、賃金などの支払請求も一部認めた。

裁判所はどう判断したか

最高裁第一小法廷は、この高裁の判断は是認できないとした。

出発点に置かれたのは、任期法が任期制を採るかどうかや、採る場合の中身と運用について、それぞれの大学の実情を踏まえた判断を尊重する趣旨の法律だ、という理解である。この趣旨は、労働契約法18条1項の特例として任期法7条が設けられたときにも変更されていない。そうである以上、4条1項1号にいう教育研究組織の職の意味を「殊更厳格に解するのは相当でないというべきである」とした。

そのうえで事実関係を見直す。生活福祉コースでは、介護福祉士などの資格と実務経験を持つ教員により介護実習やレクリエーション現場実習が実施されており、「実務経験をいかした実践的な教育研究が行われていた」と評価できる。こうした教育研究では、教員の流動性を高めて最新の実務経験や知見を絶えず取り入れることが望ましい面がある。この特性に照らせば、そうした授業を担当する教員が就くこの講師職は、多様な知識や経験を持つ人材の確保が特に求められる教育研究組織の職というべきだ――そう結論づけた。

したがってこの講師職は任期法4条1項1号の職に当たる。異なる判断をした原審には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして、原判決のうち大学側が敗訴した部分を破棄し、残る点をさらに審理させるため大阪高裁に差し戻した。裁判官全員一致の意見である。

この判決の意味

注目すべきは、最高裁が「入れ替えが合理的か」「研究の側面があるか」という高裁の物差しを採らなかった点だろう。高裁は職の中身を細かく吟味して該当性を絞り込んだのに対し、最高裁は、実務経験を生かした実践的な教育を行う組織であれば、最新の知見を取り入れるために人が入れ替わることが望ましい面がある、という方向から該当性を認めた。条文の解釈を厳格にしすぎない、という姿勢が示されたことになる。

有期契約で働く大学教員にとっては、5年で無期転換できると考えていた前提が、所属する組織の性格次第で10年になりうることを意味する。もっとも、10年の特例が働くには、大学が任期法5条1項に従って労働契約で任期を定めていることが前提になる。この事件でも、規則に人間生活学部の講師が任期を定めて雇用する教員として挙げられていたことが、事実として確認されている。

そして、この判決で講師の請求が退けられたわけではない。最高裁が判断したのは4条1項1号の該当性までで、残る争点の審理は大阪高裁に委ねられた。差戻しである以上、事件はまだ終わっていない。

なお、この判断は判決当時の任期法および労働契約法の規定に基づくものである。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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