| 事件番号 | 令和5年(受)第365号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2024-04-16 |
| 通称 | 協同組合グローブ事件 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 外国人技能実習の監理団体で外回りをしていた指導員の残業代をめぐり、「事業場外みなし労働時間制」が使えるかが争われました。
- 高裁は、業務日報で勤務状況の報告を受けていたことを重視して制度の適用を否定しましたが、最高裁はその判断を破棄し、高裁に審理のやり直しを命じました。
- 日報を出させているというだけでは「労働時間を把握できた」とはいえず、日報の正確性が実際に担保されていたかを具体的に見る必要がある、という考え方が示されました。
何があったのか
訴えたのは、外国人の技能実習に関わる監理団体(協同組合)に指導員として雇われていた人です。平成28年9月に採用され、平成30年10月31日に退職しました。報道などでは、雇い主の名前から「協同組合グローブ事件」と呼ばれています。
この指導員の仕事は、九州各地にある技能実習生の受け入れ先企業(判決では「実習実施者」)を担当し、月2回以上訪問して指導することが中心でした。そのほか、実習生の来日時の送迎、日常の生活指導、急なトラブルの際の通訳なども担っていました。
働き方には次のような特徴がありました。
- 訪問先への予約などを自分で行い、具体的なスケジュールは自分で管理していた
- 団体から携帯電話を貸与されていたが、それで随時細かい指示を受けたり報告したりはしていなかった
- 就業時間は午前9時から午後6時、休憩は正午から午後1時と決まっていたが、実際の休憩時間は日によってまちまちだった
- タイムカードによる管理はなく、自分の判断で直行直帰もできた
- その代わり、月末に、日ごとの始業・終業時刻、休憩時間、訪問先、訪問時刻、おおよその業務内容などを書いた業務日報を提出し、団体の確認を受けていた
退職後、この指導員は、時間外労働・休日労働・深夜労働の賃金(いわゆる残業代)の支払いなどを求めて団体を訴えました。
何が争われたのか
争点は、労働基準法38条の2第1項の「事業場外みなし労働時間制」が、この指導員の外回りの仕事に使えるかどうかです。
この制度は、社員が会社の外で働いていて「労働時間を算定し難いとき」には、実際に何時間働いたかにかかわらず、原則として所定労働時間だけ働いたものと「みなす」というものです。制度が使えれば、団体の側は、外回りの時間については所定の時間分だけ働いたとして扱えることになり、残業代の計算に大きく影響します。
団体側は、外回りの業務は労働時間を算定し難いので、この制度が適用されると主張しました。
これに対して高裁(福岡高等裁判所)は、次のような理由で制度の適用を否定し、残業代などの賃金請求を一部認めました。
- 業務の性質上、団体が労働時間を把握するのは容易ではなかったが、業務日報で業務の状況について報告を受けていた
- 日報の内容は、必要なら団体が受け入れ先企業などに問い合わせて確認することもできたので、ある程度の正確性が担保されていた
- 現に団体自身も、日報をもとに残業時間を計算して残業手当を払うことがあった
つまり高裁は、日報があるのだから労働時間は算定できたはずだ、と考えたわけです。
裁判所はどう判断したか
最高裁は、高裁の判断を是認できないとして破棄し、事件を高裁に差し戻しました。
まず最高裁は、この指導員の仕事が訪問指導・送迎・生活指導・通訳など多岐にわたり、スケジュールを自分で管理し、休憩の取り方や直行直帰も自分で決められ、随時具体的な指示や報告もなかったことを確認しました。そのうえで、担当する企業や訪問の頻度が決まっていたとしても、団体が指導員の「事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったと直ちにはいい難い」と述べています。
次に、高裁が挙げた2つの理由を順に検討しました。
1つ目の、受け入れ先企業に問い合わせれば確認できるという点について、最高裁は、業務の相手方に問い合わせる方法が一般的にありうると指摘しただけで、実際にそうした確認が現実的にできたのか、効果があったのかは具体的に明らかでない、としました。
2つ目の、団体自身が日報をもとに残業代を払っていたという点についても、団体は、日報だけに頼らず労働時間を把握できた場合に限って残業手当を払ったと主張しており、この主張が正しいかどうかを検討しないと、団体が日報の正確性を前提にしていたとはいえない、としました。また、一定の場合に残業手当を払っていたという事実だけで、日報の正確性が客観的に担保されていたと評価することもできない、と述べています。
結論として最高裁は、高裁が
業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく
日報による報告だけを重視して制度の適用を否定したのは、法律の解釈適用を誤ったものだと判断しました。そして、この仕事が「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかなどについて、さらに審理を尽くさせるため、事件を福岡高等裁判所に差し戻しました。
なお、この判決は裁判官全員一致の意見によるもので、林道晴裁判官の補足意見が付いています。
この判決の意味
注意したいのは、最高裁は、この指導員に事業場外みなし労働時間制が適用されると決めたわけではない、という点です。判断したのは、高裁の検討の仕方が不十分だったということであり、制度が使えるかどうかの結論は差戻し後の高裁に委ねられました。
そのうえで、この判決からは次のような考え方が読み取れます。
- 「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかは、業務の性質・内容やその進め方、業務についての指示・報告の方法や実際の運用などを総合的に見て判断する
- 業務日報を提出させていたという事実だけで、ただちに「労働時間を把握できた」とはいえない。日報の中身が本当に正確だと裏付けられる仕組みや事情があったのかを、具体的に確かめる必要がある
補足意見で林裁判官は、多数意見が考慮した要素は、平成26年1月24日の最高裁判決が挙げた要素とおおむね共通しており、今後の同種事案でも参考になるとしています。一方で、外勤や出張だけでなく、在宅勤務やテレワークなど会社の外で働く形が多様になっており、一律に判断するのはいっそう難しくなっていると指摘し、裁判所は「飽くまで個々の事例ごとの具体的な事情に的確に着目した上で」判断していく必要がある、と述べています。
その後・実務への影響
補足意見が強調するとおり、この制度が使えるかどうかは、個々の職場の具体的な事情によって判断されます。外回りの仕事やテレワークで日報を提出している場合でも、日報の有無という形式だけで結論が決まるわけではない、という考え方が示されたといえます。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。